「3・11」から13年が経ち、日本の水産業は未来に向けて動き出しています。 被災地の水産加工業を支援するプロジェクト「&fish〜魚がつなぐヒトとミライ〜」に、令和5年度は青森・宮城・福島・千葉の4県から22事業者が参加。現代の多様なライフスタイルに合わせた加工品を開発し、ECサイトなどで販路を開拓しています。魚食文化を支える挑戦者たちは、どんな思いで新しい水産加工品を生み出したのでしょうか。商品を使ったレシピと共に紹介します。
※ 農林水産省(水産庁)の補助金交付を受けて、株式会社ジェイアール東日本企画が実施している「復興加工EC販路マッチング支援事業」。
現代の家庭で手軽に食べられるサバを、老舗水産加工会社の挑戦
日本有数の漁業の町である千葉県銚子市に本社工場を構える「松岡水産」は、創業120年を迎える水産加工会社。サバやサワラなどの煮魚・焼き魚、スモークサーモンなどの加工商品を製造し、スーパーなどに卸しています。
「日本は昔から、魚は丸ごと一匹、家庭で調理して食べることが一般的でした。しかし、 共働き世帯がふえ、核家族化が進んだことにより、手軽に食べられることが求められるようになりました」と、魚食文化の変化を語るのは専務取締役の松岡啓二さん。
「魚は骨があって食べづらいとか、においがあるので片付けが大変というように、敬遠される要因がいくつもあります。そこで我々は、魚を『食べやすくすること』を主眼に商品開発を始めたんです」
今回開発したのは、米みそと合わせみそで甘みを引き出した 「骨とりさばの味噌煮」と、大根おろしを加えた甘口しょうゆだれの「骨とりさばのみぞれ煮」。個別包装の切り身が各10個入っており、熱湯で温めるだけで手軽に食べられます。
同社で使用している一般的なサバの切り身は、1食あたり約100gや約80g。今回の商品は約65gで、買い求めやすい価格設定になりました。 開発レポートでは、小さいサイズで商品化した理由や、“骨は抜いても手は抜かない”製造工程や、味付けへのこだわりなどを探ります。
危機を乗り越えるアイデア “食べられるカニの甲羅”とは?
青森県八戸市の「宝成食品」は、代表取締役の河村隆衛さんが26歳の時に設立。日本最大級とも称される朝市で有名な館鼻岸壁の近くで、ズワイガニ、エビ、ホタテ、ホッキ貝、海藻類などの加工・製造・販売を行なっています。
同社の売り上げの約6割を占めるのがズワイガニ関連の商品。特に、カニの甲羅を器に使ってホワイトソースを詰めたグラタンは人気を集めていました。ところが2022年、甲羅の輸入が安定しないために製造を断念せざるをえない状況に陥ったのです。
河村さんが思いついたのが、甲羅型の器を作ること。しかも、「食べられる器」にして付加価値を高めようと考えたのです。
「甲羅を自分でつくれば、商品を安定供給できるしコストも下がります。そのまま食べることができれば、ゴミが出ないから環境に優しいですよね。型をアレンジすれば他のメーカーや商品にも使ってもらえるかもしれない。『食べられる甲羅』は一石四鳥の製品になると確信したんです」
「器ごと食べるSDGsな かにグラタン」を生み出すまでに、河村さんが大阪の製造機械メーカーにたどり着いた経緯や、甲羅型の器の形・生地・風味をどうするかの苦労、消費者への思いなどを、開発レポートでは詳しく紹介しています。
かまぼこの新たな魅力を追求、アヒージョで長期常温保管が可能に
かまぼこ店「貴千(きせん)」は、板かまぼこの生産地である福島県いわき市で1963年に創業。代々受け継がれてきたこだわりの板かまぼこだけでなく、オリジナル商品のラインアップの多さで知られています。
新商品開発に力を入れるようになったのは、東日本大震災を機に首都圏のスーパーなどへの流通量が下がったから。「うちでしかできないものを作り出していかなければ、かまぼこ屋の未来はないと気づかされました」と、貴千の3代目・小松唯稔(ただとし)さんは話します。
これまでに、地元の郷土料理であるサンマのぽーぽー焼風のかまぼこや、お酒に合った商品などを開発。ホームページでも自社商品を使ったレシピ集を紹介しています。
今回開発した「ベーコンとチーズのKAMABOKOアヒージョ 」は、従来は賞味期限が短いかまぼこをレトルト加工することによって、長期常温保存ができるようになった商品。スペイン料理「アヒージョ」をイメージして 、魚肉にチーズ、スモークベーコンを練り込んで焼き上げ、ニンニクやオリーブオイルと共に瓶詰しました。
開発レポートでは、何げない会話からアイデアが生まれたきっかけや、レトルト加工後もプリッとした食感を残すための試行錯誤、試食の感想などをご覧いただけます。
「&fish〜魚がつなぐヒトとミライ〜」
令和5年度のプロジェクトは、青森・岩手・宮城・福島・茨城・千葉の事業者を対象に、販売先のニーズに応じて共同で行う新商品開発にかかる経費の一部(3分の2以内、上限額600万円)を補助。
「&fish〜魚がつなぐヒトとミライ〜」ポータルサイトでは、参加した22事業者のチャレンジを紹介した「開発レポート」や、商品を使った魚食の新たな楽しみ方を提案するレシピ動画などがご覧いただけます。