2024年、朝日新聞社は、昨年度に実施した「地域事業イノベーションアワード」をさらに拡大・発展させた「未来事業イノベーションアワード」(特別協賛:三菱商事)を実施する。2040年以降、働き手の中心となる現役世代(15~64歳)が今の8割になる「8がけ社会」の到来とともに、様々な社会課題に直面することが予想される。こうした未来の課題に対する解決策や革新的なアイデア・ビジネスプランを学生たちから募集し、よりよい未来を創ることを目指したプロジェクトだ。
今回は、アワードの企画に関わる株式会社LRN(ラーン)代表の菊池紳さんが、昨年度のグランプリを受賞したプロジェクト「aimochi―世の中は相持ち―」のメンバーである大曽根里桜さん、湯川舞夢さんのお二人に、応募に至ったプロジェクトへの思いと、受賞後について、話を聞いた。
今、子育て支援をすることが、
近い将来の自分のためにもなると信じて
「aimochi―世の中は相持ち―」は、「産後うつに苦しんでいた叔母の姿を見て、同じようにつらい思いをしているお母さんお父さんたちのために何かをしたい」という、和歌山県田辺市の中学1年生、坂倉朱音さんの思いへの共感から生まれた。産前に妊婦と支援者がつながるイベントなどを開き、産後にはそこで顔見知りとなった支援者が子育てのサポートをするなど、子育ての孤立化を防ぐことを目指すプロジェクトだ。プロジェクト名の「aimochi(相持ち)」には、「一緒に持つ」「代わり合って持つ」という意味が込められている。
菊池 昨年度の地域事業イノベーションアワードのグランプリ受賞、おめでとうございます。審査会での力を込めたプレゼンテーションが、とても印象に残っています。その際、お二人のようなZ世代の半数以上が子どもを持ちたくないという調査結果をピックアップされていました。そうした課題にフォーカスし、それを解決したいという思いは、いつ生まれたんですか?
湯川 このプロジェクトを進めるにあたって、「当事者でもないのに、どうして?」や「社会のために取り組んでいて、すごいね」などと声をかけていただくことも多かったのですが、私たちはどこまでも自分事の課題だととらえています。多くのお母さんを助けられたらという思いは持ちつつも、将来自分たちが困らないように、という当事者意識がとても強いんです。
また、私個人としては、姉の出産も大きなきっかけの一つになりました。勉強、スポーツ、仕事と何でも器用にこなす姉が、「何が正解なのか、分からない。子どもを産むまで、子育てがこんなにつらいものだとは思わなかった」と、私にたびたび電話をかけてくるんです。その時に、自分にも起こり得る未来なんだと初めて自覚できました。
大曽根 最初に子育て支援に着目したのは湯川さんで、それをきっかけとして、私も子育てコミュニティーなどに出入りするようになり、お母さん方に話を聞かせてもらう機会が増えました。それまでは、「子育て世代」というと、40~50代の自分の親世代を思い浮かべていたんです。でも、実際には、私とそれほど年齢の変わらない方たちが、お母さんとして子育てに苦労されていました。その姿が10年後ぐらいの本当に近い将来の自分の姿と重なって見えて、これは解決しなければならないと、プロジェクトの活動によりいっそう気持ちが入るようになりました。
自治体との連携では壁に直面。
ビジネスとしての展開も模索中
菊池 アワードのプレゼンテーションの際に、田辺市のファミリーサポートセンター※をはじめ、自治体との連携を目指すとおっしゃっていましたが、その後の進捗はいかがでしょう?
※ファミリーサポートセンター事業
子どもの送迎や預かりなど、子育ての「援助を受けたい会員」と「援助を行いたい会員」が、地域で相互援助を行う有償の育児支援制度。自治体から委託を受けた団体が運営を行う。
大曽根 受賞後に、田辺市の子育てや妊婦さんへの支援などを行う課の方とお話をさせていただいたんです。ただ、現時点では、自治体の予算面などの課題もあり、すぐに何か具体的な取り組みを一緒にやっていこうという話には至りませんでした。ファミリーサポートセンターに関しても、もともと国の事業なので、田辺市だけが違う形で進めるのは難しいと。それで、今後どのように進めていくか、悩んでいます。子育てに力を入れている和歌山県内の別の市町村に相談を持ちかけることも考えています。
菊池 和歌山県内に限らず、県外でも子育て世帯の流入に力を入れている自治体と組んで、実績をあげていくという方法もあります。自治体の現状やお悩みなどを細かくヒアリングすれば、予算は限られていても、稼働していない時間に施設を借りるなどの協力が得られるかもしれません。
また、子育て行政の最高機関であるこども家庭庁に提案していくこともできるでしょう。学生だからといって、遠慮する必要はありません。そうした声を行政も期待しているはずなので、どんどんチャレンジするのも面白そうですね。
大曽根 お母さん、お父さんに経済的な負担をかけることなく、どんな人にでも平等にサービスを届けられるのであれば、行政との連携にこだわらず、ビジネスの形をとることも考え始めています。
構想を具体化するための最初の一歩として、妊婦と支援者をつなぐプロトタイプとしてのイベントを企画したいと思っています。これから詳細を固めていくのですが、賞金はそういったイベント開催の経費などに充てようと考えています。
菊池 子育てを支援することに存在意義を感じていたり、それによって未来づくりにコミットしたいと考えていたりする企業はたくさんあります。そうした企業を募って、資金面でのサポートを受けながら、プロジェクトを進めるのも、一つの選択肢としてあり得ますね。
「未来は自分たちで変える」
同じ思いを抱く仲間と出会えた
菊池 地域事業イノベーションアワードの最終審査会では、東京に来て、ほかのファイナリストとも実際に顔を合わせることになりましたね。何か、刺激は受けましたか?
大曽根 私たちは、とにかく地域の社会課題を解決することばかりに目を向けて、ビジネスプランや資金計画などを詰めきれないまま、最終審査会に参加したんです。ところが、ほかのファイナリストの皆さんは、私たちが想像もつかないようなテーマを扱い、きちんとビジネスプランも立てられていました。自分と同世代の方たちがこんなことまで考えているのかと、とても刺激を受けました。
湯川 ほかのファイナリストのプレゼンテーションも聞けたのですが、畜産の話に真剣に耳を傾けたのは、小学校の授業以来だったかもしれません(笑)。皆さんがプロジェクトに取り組んだ動機や、そこにかける思いは、最終審査会後の秋田県でのスタディツアーに同行した際にも、あらためて聞くことができました。「自分は社会でこういうことをしたい」「未来をこう変えたい」、そう考えている方が自分たちのほかにもたくさんいることを知れたのは、やはり大きな励みになります。
今も皆さんとはSNSでつながっていて、そこでプロジェクトの活動報告などを目にすると、私も頑張らなきゃなって。そんなふうに、アワードの終了後も、ほかのファイナリストの方々は、自分に刺激を与えてくれる存在であり、仲間です。
菊池 審査会で特別協賛の三菱商事からも、「同じ志を持つ多様なメンバーとの出会いや、アドバイザーの方々とのつながりを大切にしてほしい」というメッセージがありましたね。秋田県でのスタディツアーはいかがでしたか? 皆さん以上に熱い思いを持った方々に会えましたか?
湯川 五城目町では、出会った方々、皆さんに何を聞いても、「ここはいいよ」と口をそろえて、おっしゃるんです。地域を愛し、その可能性を本心から語る方々がたくさんいらっしゃって、「地域って、いいな」と思いました。それと同時に、私自身、中高生の時には気づけなかった地元、和歌山県の良さをあらためて実感しています。
菊池 皆さんが会ったのは、自ら望んで五城目町に移住した方々なので、それぞれ動機や情熱をお持ちです。もともと地元に住んでおらず、見慣れてしまっていないからこそ、五城目町の魅力や資源を再発見しやすく、それをさらに発展させられるという面もあるでしょう。また、三菱商事の秋田支店長からは、地域との丁寧な対話や相互理解の形成を大切にしているというお話があったかと思います。大小に関わらず、事業を推進していく際には意識しておきたい視点ですね。
「8がけ社会」の子育て支援は、
65歳以上の方々の力が必要に
菊池 地域事業イノベーションアワードは、今年度より「未来事業イノベーションアワード」へと拡大、発展します。そこでテーマとなるのが、「8がけ社会」の到来によって生じる社会課題の解決です。「8がけ」とは、8割、80%という意味です。何が80%になるのか、お二人は分かりますか?
大曽根 少子高齢化で、子どもが生まれず、高齢者の方が亡くなって、経済などが縮小していくということでしょうか。
湯川 人口減によって、さまざまなものが縮小していくのかなと思いました。
大曽根 消滅可能性自治体の話なども、耳にすることがあります。
菊池 少子高齢化が進んだ結果、2040年以降、15~64歳の働き手の数が今の8割になるだろうと言われているんです。そうなったとき、お二人なら、aimochiのプロジェクトの担い手をどう確保されますか?
大曽根 それこそ、65歳以上のリタイアした方々に子育て支援に協力していただくことは、一つの解決策になるのではないかと考えています。
菊池 そうですね。私も、65歳以上のシニア層が新しい仕事に就きやすい社会にしたいと感じています。認知能力や運動能力をサポートするテクノロジーがあれば、高齢者でも働きたい方はまだまだ働けるはずです。
そのためには、AIやロボットなどのテクノロジーと人間との協調行動社会を実現することが重要だと思っています。テクノロジーと人間との協調行動社会とは、AIが人間を代替するなどということではなく、両者が適切に役割を分担する社会のことです。
AIにできることは、AIに任せる。そうすれば、すべての人間に平等な「時間」というものを創出できます。テクノロジーは、人間が本当にすべきことのために時間を生み出してくれるものなのです。
今年度の「未来事業イノベーションアワード」では、例えば、テクノロジーを使いこなし、それによって創出した時間や体力を活かしながら、自分たちの思いをどう実現していくか、そんな未来的なご提案が出てくることも個人的には楽しみにしています。
「8がけ社会」は、ネガティブなシナリオばかりとは限りません。テクノロジーと人間との協調行動社会がデザインできたら、ポジティブなシナリオも十分にあり得るだろうと、私は信じているのです。そして、そこには、多くのビジネスチャンスが生まれます。AIやテクノロジーを一例に出しましたが、豊かな未来を実現するための手段は無数に存在しているはずです。
自分が望む未来のために、今何ができるのか。ぜひ、多くの学生のみなさんに、未来事業イノベーションアワードにチャレンジしてほしいと願っています。