バーチャルとリアルがつながる新しい世界を前に――。大阪電気通信大学は、日本初のゲーム系学科設置から23年を迎え、総合情報学部デジタルゲーム学科を刷新する。ゲームを通じて活発な社会・経済活動を行う人材育成をめざす。
企業×研究者×大学 特別鼎談 ~ビジネスとアカデミックの視点でゲームの未来を語る~
伊藤 真人(株式会社セガ エックスディー 取締役 執行役員 COO)
(株)セガにゲームプランナーとして入社。2016年に(株)セガ エックスディーを設立し「エンタテインメントの社会実装」を掲げ、さまざまな企業・団体との価値創造を推進。
シン ジュヒョン(シリアスゲーム研究者)
社会文化的観点からシリアスゲームやインディーゲームについて研究。科学技術融合振興財団第10回FOST新人賞、日本デジタルゲーム学会2021年度若手奨励賞受賞。
渡部 隆志(大阪電気通信大学 副学長)
専門はグラフィックデザイン。1990年代から芸術系大学などでデザイン教育にかかわる。2003年に総合情報学部 デジタルゲーム学科の新設を機に大阪電気通信大学に着任。
テレビからモバイルへ 20年でゲームは暮らしのインフラとなっている
渡部 本学がデジタルゲーム学科を設置した2003年当時は家庭用テレビゲームの時代。この20年の間にモバイルへと移り、プレイするユーザーも変化してきました。
伊藤 いま、ゲームが持つ可能性は良い意味でも悪い意味でも広がっています。もともとはゲームセンターや喫茶店のテーブルなど限られた世界の娯楽だったものが、技術の変化で使用できる範囲が広がり、いまはモバイルが中心。人を夢中にさせるゲームの力が、良い方向に活用されたらシリアスゲーム※1的な考えにつながりますが、残念ながら悪い方向だとギャンブルや依存症につながるケースも見られます。ゲームがより身近になってきており、ゲームに携わる者として、よりポジティブに活用していただけるように注意が必要になってきていると感じています。
※1教育や社会課題の解決のために利用されるゲームのこと
シン 我々の生活の一部になっているゲームは、多様な価値を発信する「メディアのひとつ」とも言えます。
渡部 ゲームを取り巻く環境は幅が広がり、奥行きも出て、ゲーム自体が「インフラ」になっているのではないでしょうか。
正攻法ではできない 感情を揺さぶるゲームだからできることがある
シン シリアスゲームは一昔前まで教育的な側面のみが強い印象でしたが、コロナ禍を機に普及が加速し、さまざまな分野でゲームの可能性が探られるようになっています。
伊藤 5年くらい前からフィンテック※2やヘルステック※3といった便利さを追求した動きが活発になり、それは正しいことですが、効率化することでどこも似たような世界が生まれて寂しい感じに……。AIやテクノロジーは合理化を進めて、人間はもっと感情を揺さぶる方向に力をかけたほうがいいと感じています。
※2金融サービスと情報技術を結びつけたさまざまな革新的な動き
※3ヘルスケアや医療とテクノロジーを融合し、新たな価値を創造するための取り組み
渡部 セガ エックスディーはゲーミフィケーション※4で企業や社会のさまざまな課題解決を実践されていますね。
※4 ゲームで使われている技術を応用して行動に影響を与える取り組みのこと
伊藤 たとえば「ゲーム体験型防災訓練ソリューション※5」。私たちが受けてきた防災訓練はやらされている感覚が強く、防災の備えをしている人が少ないのが現状。そこで、防災の知識を学べる謎解きをつくり、疑似体験を通じて、楽しみながら防災の知識を得ることができるソリューションを開発しました。社会課題に対して政治や自治体レベルで行っていることはありますが、別のアプローチで誰一人として置いていかれない世界ができればと考えています。
※5セガ エックスディーが開発した、ゲームを行いながら防災を学ぶことができる防災士監修の没入型の防災訓練
誰もがゲームをつくる時代は「想像力」がゲームと社会をつなぐ力になる
シン いまは誰もがプレイヤーで、クリエイターになれる「ゲームが民主化した時代」。自分が話したいことを、ゲームを通じて発信する若者が増えています。活用の幅が広がるゲームの未来はどうなるのでしょう。
伊藤 3つのシナリオが考えられます。1つ目は、技術に伴ってエンタテインメントとして進化していく。2つ目は、買い物をしたらポイントが付くなど、インフラとして日常生活に彩りを与える要素を持つゲームが広がっていく。3つ目は、課題解決の手段としてのゲームが「当たり前」だと大衆に知られるようになる。海外だと病気の治療にゲームを使う動きもあります。薬・手術に続く選択肢としてゲームが出てくるようになれば楽しい世界になるはず。
渡部 ゲーム制作を追究したい人は技術を磨いて1つ目の道へ。2、3の道を目指すには何が求められますか?
伊藤 想像力です。あらゆる職種につながりますが、こうしたらおもしろいだろうと想像すること。答えを自らつくる仕事なので、「ゲームでこの病気を治せるかも」といった想像力を、学生の間にどれだけ育めるかが大事。専門的なスキルも重要ですが、よく学んでよく遊んで自身の引き出しを増やしましょう。
多様な役割をこなすゲームクリエイターこそ最強のビジネスパーソン
渡部 2026年に新設の「ゲーム・社会デザイン専攻」では、まずゲーム制作を体験し、次に社会とどう結びつけるかに取り組みます。この新専攻には、「優しい人」が集まってほしいです。困っている人をどうしたら助けられるかを考えられる優しさと想像力が、この先の社会に重要だからです。
伊藤 とても共感できます。ゲームは手段であって、誰かを楽しませたい、心を動かしたいという目的のためにゲームを使っています。
シン おもしろい考えがあっても形にするのは難しいもの。ゲームには人を立ち止まらせて考えさせる力がある。それをつくるためにはいろいろな経験や視点が必要です。
伊藤 僕はゲームクリエイターが最強のビジネスパーソンだと思っています。ゲームは総合芸術であり、総合格闘技。企画から考えて関係者調整もしながらエンジニアリングもデザインもあってと、広範囲なビジネススキルが求められる。この先、プログラムやデザインのスキルでは差がつきにくい時代となり、ゲームをつくれるマーケター、ゲームをつくれる弁護士といった人材が活躍していくのではないでしょうか。
シン ゲームをつくる上で失敗することもありますが、一緒に楽しみながら、ゲームで優しい世界をつくりたいですね。
渡部 社会とかかわるための多様な学びは、ゲームに特有のものではなく、一般的な教育のテーマとして捉えています。だからこそ、ここでキャリアの選択肢を広げてほしいと考えています。
ゲームはエンタテインメントの枠を超えて、社会の課題を解決する、あらたな領域へ
大阪電気通信大学は2026年4月にデジタルゲーム学科(仮称・設置届出中)を開設する。新たにゲーム・社会デザイン専攻を加えた3専攻となり、ゲームをエンタテインメントの枠から社会課題を解決する新たなステージへと進める。
ゲームと社会とのつながりを追究してきた実績
大阪電気通信大学は日本で初めてゲームを冠とした「デジタルゲーム学科」を2003年に開設。開設当初からキャンパス内にモーションキャプチャースタジオなどの先端設備を完備し、学内に企業の仕事を誘致する仕組みをいち早く確立。社会に役立つ人材を育成してきた。
新専攻の「ゲーム・社会デザイン専攻」では、「ゲームの力で社会を変えていける人材」、あらゆる企業で求められている「DX(デジタルトランスフォーメーション)で社会を変えていける人材」を育成していく。
さまざまなプロジェクトで実力をつける
授業以外にも実践力をつけるためのプロジェクトをさまざま準備している。東京ゲームショウには15回出展しているほか、インディーゲームのイベント「BitSummit」にも出展。さらに2024年には東映株式会社ツークン研究所との産学連携プロジェクト「電ツークンプロジェクト」でWeb CMを制作した。常に社会とのつながりを意識したモノづくりを行い、社会に役立つ人材育成を行っている。