震災からの復興への思いを胸に、声を重ねる若者たちがいる。3月26日、金沢で開かれる「わっかフェス」(主催:三菱商事、朝日新聞社、北陸朝日放送)。その舞台で、石川県内の高校7校の合唱部員たちと、福島県立安積黎明高校合唱団の卒業生が、ともに歌声を響かせる。披露するのは、能登半島地震への鎮魂歌『Noto』と、東日本大震災で被災した中学生の言葉からつむがれた『群青』。異なる被災県で育った若者たちが今、歌声を通してそれぞれの思いを全国に届けようとしている。
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歌詞の先に広がる、ふるさとの景色
粉雪が舞う2月初旬の放課後。
「わっかフェス」に参加する合唱部のひとつ、石川県立金沢辰巳丘高校(石川県金沢市末町ニ)の音楽室では、合唱部に所属する高校2年生の男子部員4人が、本番で披露する『Noto』の練習に励んでいた。互いの声に耳を澄ませながら、旋律を丁寧になぞっていく。
「そこ、強すぎる。少し息を混ぜて」
本番までおよそ1カ月半。合唱部顧問の外泰子教諭の指示が飛ぶと、生徒たちの表情が一斉に引き締まった。音程やリズムだけでなく、言葉にどのような感情を宿すのか。その点にも、神経を研ぎ澄ませている。
『Noto』は、作曲家でピアニストの松本俊明さんが2024年11月に発表したアルバムに収録されている能登半島地震の鎮魂歌だ。松本さん自身が、被災した男子高校生と金沢で出会った際、「能登の海を見たことがありますか。僕の自慢のふるさと、能登の海を必ず見に来てください」と声をかけられたエピソードが、曲と歌詞のモチーフとなった。その言葉に、松本さんは深い悲しみの中に差し込む、かすかな希望の光を感じ取ったという。
震災の現実を直接的に描くのではなく、未来へと視線を向ける柔らかな言葉で構成されたこの曲について、外教諭は「悲惨さを前面に出さないからこそ、聴く人が自分自身の心象風景と重ね合わせることができる。高校生にも、無理なく届くと思うんです」と語る。
だからこそ外教諭は、歌詞一語一語のニュアンスを丁寧に問いかける。「強く言い過ぎると、硬い感じになってしまう。日本語には言霊がある。音に乗せて、聴いている人にもそれが伝わるようにしたいですね」
生徒たちは、その言葉を受け止めながら、再び声を重ねる。感情を「込める」のではなく、言葉の奥にある思いを「にじませる」。その難しさと向き合う時間が流れていた。
経験を背負って歌うということ
金沢辰巳丘高校合唱部は現在8人。取材当日は、そのうち高校2年生の男子部員4人が練習に参加していた。中学から合唱を続けてきた生徒もいれば、バスケットボール部から転じた生徒もいる。共通しているのは、「歌うことが好き」「みんなで歌うのが楽しい」という思いだ。
2024年元日に発生した能登半島地震のとき、4人はいずれも中学3年生だった。被害が甚大だった地域からは100キロ以上離れていたものの、震度5強前後の揺れを体験し、高台へ避難した生徒もいたという。その後、ニュースを通じて、被災地の深刻な現実を知った。
被災地は、家族で訪れた水族館や朝市などがある思い出の場所。地理的な距離はあっても、記憶と結びついた被災地の光景は、4人にとって決して他人事ではなかった。
ニュースで、自分と同世代の若者や幼い子どもが犠牲になったことを知ったという荒谷清丸さんは、「もし震災がなかったら、その子たちにも、僕たちと同じような学校生活があったんだろうなと思うと、歌っていて感情的になります」と語る。
『群青』は、2011年3月に発生した東日本大震災を背景にして生まれ、今では卒業式の定番曲として全国的に知られる存在となった。坂下純樹(あつき)さんも以前に歌った経験があるが、「能登半島地震を経験した後に歌うと、歌に込められた情景が、前よりもずっと鮮明に思い浮かんでくる気がします」と振り返る。
世代と地域を超えてつながる『群青』の輪
その『群青』が生まれた福島県で、先輩から後輩へと歌い継いできた学校のひとつが、福島県立安積黎明高校合唱団だ。
2021年には、「わっかフェス」の前身となる「復興支援音楽祭 歌の絆プロジェクト」に出演し、『群青』を披露した。今回は、当時その舞台に立った生徒が卒業生として、石川県の高校生たちと歌声を重ねる。
『群青』は、福島第一原子力発電所から20キロ圏内にある福島県相馬市の小高(おだか)中学校で生まれた合唱曲。東日本大震災から2年後、ふるさとへの思い、別れ、そして再会への願いを込めて作詞・作曲され、その歌は福島県内から全国へと広がっていった。
安積黎明高校の卒業生で、大学4年の酒井ななさんは、『群青』について、「最初は福島県内の人しか知らない曲でしたが、小さな場所から生まれた歌が、こんなにも多くの人に歌われるようになった。音楽の力を実感してきた曲です」と語る。
石川県の高校生たちとともに立つ今回のステージを酒井さんは心待ちにしている。「それぞれの震災経験に寄り添いながら、みんなの思いがひとつにつながるような演奏になればいいなと思います」
同じく卒業生で、大学4年の伊藤結子さんも、「少し年の離れた石川の高校生と一緒に歌うことで、どんな歌が生まれるのか楽しみです」と話す。新曲『Noto』についても、「『群青』と同じように、これから歌い継がれていく存在になるのでは」と期待を寄せている。
仲間と歌声で届ける 「ひとりじゃないよ」
能登半島地震から2年余り。石川県立金沢辰巳丘高校の合唱部員たちは、被災地を励まそうと、復興支援コンサートのステージにも立ち続けてきた。
足達天志(たかし)さんは、「自分たちにできるのは、コンサートに出るとか、そのくらいだと思います。でも、そういうことを通して、まだ支援が必要だということを発信できたらいいし、たとえ復興が進んだとしても、こういう出来事があったということを次の世代に語り継げるのは、私たちだと思うんです」と語る。
歌は、記憶と思いを次へ手渡すバトンでもある。
奥谷直輝さんは、『Noto』の中で、音が途切れたあとにコーラスが立ち上がる場面が印象的だと語る。「光が差すみたいで、とてもきれいで。震災で一度すべてが崩れたけど、もう一回つくっていく、そんな感じがするんです」
震災から時間がたち、全国ニュースで取り上げられる機会は少なくなりつつある。それでも、被災地の復興は「まだ道半ば」だと、部員たちは口をそろえる。「風化してほしくない。絶対に。そして、より知ってほしいと思う」と、奥谷さんは言葉を強めた。
東日本大震災で被災しながらも、合唱コンクール全国大会で金賞を重ねてきた安積黎明高校。その卒業生と共に歌うことは、金沢辰巳丘高校の部員たちにとって、大きな刺激となることを外教諭は期待している。「隣で歌い、息遣いを感じ、表現を学び取ってもらえたら」
世代も、地域も越えて重なる歌声。その輪の中心には、震災の記憶を抱えながらも、前へ進もうとする若者たちの確かな意思がある。歌声を通して被災した人たちや客席に「ひとりじゃないよ」という思いを届けたいと意気込む部員たち。金沢で、その思いをのせたステージの幕が上がるのも、もうまもなくだ。
3月26日に開催される「わっかフェス」。会場観覧の申し込みは締め切りましたが、オンラインによる後日配信は引き続き申し込みを受け付けています。PUFFYのほかゲストの友近、金沢の郷土芸能 御陣乗太鼓、石川県内の高校生による吹奏楽と合唱の披露があります。ご興味のある方は上記バナーより詳細をご確認ください。
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