「つながる、ひろがる、地域のわ。」を合言葉に音楽やパフォーマンスで地域を盛り上げる「わっかフェス2026」(三菱商事、朝日新聞社、北陸朝日放送主催)が3月26日、金沢歌劇座(金沢市)で開かれた。能登半島地震から2年余りが過ぎた石川県を舞台に、PUFFYやゲストの友近、郷土芸能・御陣乗太鼓、高校生による合唱と吹奏楽が出演。石川県内外から約2千人の観客が集い、迫力ある太鼓の響きや透き通った歌声、リズミカルな演奏に耳を傾けた。世代やジャンルを超えた共演の輪が広がった当日の熱気を紹介する。

輪島で受け継がれてきた450年の鼓動

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石川県輪島市に伝わる御陣乗太鼓。左の男性が同じテンポで、右の男性が緩急をつけたリズムで荒々しく打ち鳴らす

夜叉(やしゃ)の面をつけた人影がスポットライトに浮かび、唸り声とともに渾身の一打を振り下ろす。金沢歌劇座(金沢市下本多町)でオープニングを飾ったのは石川県の無形民俗文化財・御陣乗太鼓のパフォーマンスだ。

夜叉、幽霊、だるまなどに扮した総勢6人の奏者が次々に現れては、あうんの呼吸で役割を入れ替えひとつの太鼓を打ち鳴らしていった。最大で3人が同時に激しくバチを打ち付ける演奏は、力強さだけでなく高度な技術と連携、集中力を必要とする。

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この日、御陣乗太鼓を披露した奏者は32~62歳の6人。代表して江尻一希さん(左)と槌谷博之(右)さんがインタビューに応じた

御陣乗太鼓は、戦国時代、上杉謙信の軍勢を村人たちが異形の面と太鼓で追い払った故事に由来する郷土芸能で、輪島市名舟町に生まれた男性によって約450年受け継がれてきた。しかし、能登半島地震の影響で若者が町を離れ、継承が危ぶまれているという。

演奏後、保存会事務局長の槌谷博之さん(59)は「今日は能登の方も来てくれていた。このわっかフェスを見て自分も名舟に戻って太鼓をたたこうと思う人が1人でもいたらうれしいですね」と表情を緩めた。 

声を重ね、あの日の記憶をつないで

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合唱曲『群青』と『Noto』を歌う石川県の高校生と、福島県立安積黎明高校合唱団の卒業生たち。歌い終わると大きな拍手に包まれた

続くステージでは、石川県高等学校文化連盟合唱専門部に所属する県内9校の高校生約80人と、福島県立安積黎明高校合唱団の卒業生6人が合同で合唱を披露した。安積黎明高校合唱団は、2021年に「わっかフェス」の前身となる「復興支援音楽祭 歌の絆プロジェクト」に出演した経験があり、被災地で音楽に支えられてきた仲間として、今回のステージに加わった。

歌ったのは、能登半島地震の鎮魂歌として作曲家・ピアニストの松本俊明さんが2024年にリリースした『Noto』と、2011年3月の東日本大震災を背景に、卒業を迎える福島の中学生たちの心情を描いた『群青』の2曲だ。年齢も立場も異なるメンバーの声が重なり合い、伸びやかで透き通るハーモニーとなって会場をやさしく包み込んだ。

本番のステージを終え、インタビューに応じた石川県立金沢辰巳丘高校合唱部部長の長田みづきさん(新3年)は、共演した福島・安積黎明高校の卒業生たちについて、「先輩みたいな存在。歌っているときの表情がとても良くて、見習いたいと思いました」と振り返った。

当初、楽曲『Noto』の歌詞にある「鉛色の海」は、福島出身のメンバーにはイメージしにくい表現だったという。本番前の合同練習では、言葉の受け止め方について確認し合う場面もあった。「曇り空の多い石川で暮らす私たちにとって、鉛色の海は日常の風景。歌を通して、私たちのふるさとを知ってもらえたらうれしいです」と、笑顔を見せた。

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石川県の高校生たちと歌を響かせる安積黎明高校合唱団の卒業生、酒井ななさん(手前中央)

安積黎明高校合唱団の卒業生で春から社会人になる酒井ななさんは、「福島の私たちと石川の人たちが経験したことは同じではないですが、だからこそ歌の中のいろんな言葉が違ったかたちでみなさんに届いたんじゃないかと思います。今日はたくさんの方に聞いていただき感激しました」と声を弾ませた。

パフォーマンス交えた演奏、ダンスに手拍子

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『勇気100%』と『マツケンサンバⅡ』の演奏では、部員も指揮者の杉田映理子教諭もパフォーマンスをつけ、全身で楽しさを表現した

合唱の後は、石川県立七尾高校吹奏楽局が3曲を演奏。アニメの主題歌として親しまれている『勇気100%』が奏でられると、会場は花が咲いたように明るい空気に包まれた。軽やかにステップを踏んだり、楽器を抱えて立って演奏したり。顧問の杉田映理子教諭と生徒たちが一緒に考えたパフォーマンスは、音だけでなく見た目の楽しさでも会場を盛り上げた。

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『マツケンサンバⅡ』では、本家の映像で何度も練習したという谷口豪紀さんがダンスを披露。観客からの手拍子に乗って軽快なリズムで踊りきった

前半プログラムのラストは同校の定番ナンバー『マツケンサンバⅡ』で締めくくられた。能登半島地震の被災地域でも、演奏のたびに観客を笑顔にしてきた特別な一曲。「タニケン」こと谷口豪紀(たけのり)さん(新2年)は、マツケンさながらの衣装とカツラ姿で登場し、「会場の2千人を笑顔にする」という宣言通り、堂々としたダンスで観客を沸かせた。終演後のインタビューで谷口さんは「始まるまでは緊張で手足ブルブルだったんですが、本番はとにかく楽しくてあっという間でした」と満足気な表情をみせた。

PUFFYと友近、笑いと音楽でひとつに  

わっかフェス友近とPUFFY
PUFFYと友近の息の合ったトークに観客も引き込まれた

後半は、ゲストとアーティストによる多彩なパフォーマンスが続いた。タレントの友近がステージに姿を現し、おなじみのトークや歌声を披露すると、会場はひときわ大きな拍手に包まれた。

友近にとって石川県との縁は、大学時代の卒業旅行がきっかけだった。それ以来、温泉などが気に入り、プライベートでも足を運ぶようになったと話す。能登半島地震から1カ月後の2024年2月に金沢市内でイベントを開催した際には、輪島市から長靴姿で駆けつけてくれた人もいて感動したという。「幕が開いたら、みなさん満面の笑みで迎えてくださって。元気や笑いを求めて来てくれているんだと思いました」と振り返った。

自身のYouTubeチャンネルで公開している長編ドラマ『友近サスペンス劇場』第2弾は能登エリアが舞台。すでに撮影で同市を訪れており、配信は夏ごろを予定している。

そして満を持して登場したPUFFYは、疾走感あふれるロックナンバー『ジェット警察』に始まり、『サーキットの娘』や『アジアの純真』などの人気曲をたたみかけ、会場の盛り上がりは最高潮に達した。

『愛のしるし』では友近と3人で歌声を響かせ、『渚にまつわるエトセトラ』では七尾高校吹奏楽局の部員全員がバックダンサーを務めた。部長の高橋光彩(ひかり)さんは終演後「ダンスが楽しかった!」と息を弾ませた。「最初は恥ずかしかったけれど、観客のみなさんを見て楽しもうという気持ちになれました」と話した。フィナーレでは、総勢100人を超える全ての出演者がステージに集まり、観客とともに『これが私の生きる道』を大合唱した。

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『渚にまつわるエトセトラ』では、七尾高校吹奏楽局の部員たちがバックダンスを務めた。有名なサビ部分では、観客もPUFFYと高校生につられて自然と体が動いていた

歌に込めた思い、誰かの心に届くと信じて

終演後PUFFYの2人もインタビューに応じた。大貫亜美さんは、振り付けが息ぴったりだった七尾高校生のバックダンスについて「あの子たち天才!」と声を弾ませた。ステージに立ちながら、客席からも熱量を感じていたという。「音楽や笑いは、心に余裕がないとなかなか目を向けにくいもの。今回のフェスに出演した地元の方も含め、みなさんが一緒に音楽を作り、向き合える心の余裕が生まれたことが、うれしかったです」

この日披露した7曲は、観客に楽しんでもらうことを考えながら選んだという。その中でも代表曲『誰かが』は吉村由美さんにとって特別な思いがあったという。『誰かが泣いてたら 抱きしめよう』『誰かが笑ってたら 肩を組もう』というフレーズがあり、「今日、歌いながら“こういうことだよな”と思った。この気持ちが、来てくださった方、観てくださった方に届いたら」と話した。

この日、会場に足を運んだ金沢市在住の50代女性は、20代のころからPUFFYのファンだという。「あの時代のパワーが今の時代を救ってくれるような明るさがあった。歌が元気をくれて、会場の知らない人とも歌でつながれた気がしました」と振り返った。

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PUFFY世代も多く集まった。『アジアの純真』が流れ出すと観客は我慢できず総立ちに。「パフィー!」の掛け声が会場のあちこちから響いた

郷土芸能、高校生、大学生、そして第一線で活躍するアーティストが同じ舞台に立った「わっかフェス」。世代や立場を超えて出会い、音楽や表現を通して思いを交わす時間となった。ここで生まれた希望が、誰かの「生きる道」を明るく照らすことを願いながら。