WELL-BEING ACTION!

心の豊かさを育むものづくり・サービスデザイン方法論 〜ウェルビーイング発想による企業・社会価値の創出〜

心の豊かさが企業価値を変える時代へ

「モノの豊かさよりも心の豊かさが語られる現代」。2025年7月23日、横浜・フラグヨコハマで開催されたWELLBEING ACTION実行委員会主催のセミナーは、まさにそんな時代の転換点を象徴する議論の場となった。ウェルビーイング研究の第一人者である武蔵野大学ウェルビーイング学部長の前野隆司氏と、NTT株式会社上席特別研究員の渡邊淳司氏が登壇し、企業がウェルビーイング発想でサービスをデザインする新たな方法論を提示。単なる利益追求を超えた、人と環境の持続可能なビジネス成長への道筋を探った。

「思わず幸せになる」仕組みのデザイン

前野氏は講演で、ウェルビーイングを「身体的、精神的、社会的に良好な状態」と定義し、これらの条件を明示的に製品・サービス設計に組み込む方法論を解説した。注目すべきは「幸せの4つの因子」を活用した思考法だ。

「やってみよう(自己実現と成長)」「ありがとう(つながりと感謝)」「なんとかなる(前向きと楽観)」「ありのままに(独立と自分らしさ)」の4軸で、あらゆるサービスや製品のアイデアを体系的に創出する。

前野氏は積水ハウスとの「住めば住むほど幸せ住まい」プロジェクトやNECとの幸福度向上AIチャットボット開発など、実際の企業協働事例を紹介。「企業は単に利益を上げるだけでなく、お客様や社会・地球のウェルビーイングに資するサービス・製品を提供すべき」と強調した。

製品やモノそのものだけでウェルビーイングに資するものを提供するのは難しくても、サービス等とのかけ合わせによる「仕組み」による環境設計の重要性も語られた。人々が無意識のうちに『思わず○○してしまう』仕組みを作ることが、ウェルビーイングなものづくりを促進すると述べた。

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3つの「ゆ」が生む新たなサービス価値

渡邊氏は、ウェルビーイングなサービスデザインの核心として、各人・社会のウェルビーイング資質そのものを向上させる「ウェルビーイング・コンピテンシー」、企業がウェルビーイングな活動を非財務的価値として経営に組み込む「ウェルビーイング・キャピタル」の二つの視点を提示。特に注目されたのは、「3つの『ゆ』」(ゆらぎ・ゆだね・ゆとり)による設計指針だ。

「ゆらぎ」はそれぞれの人の変化のタイミングや文脈を尊重し、変化することに価値を見出す。「ゆだね」は自律と他律のどちらか一方が正しいのではなく、関係性の中でそのバランスを考え、自分にとって心地よいあり方を探る。「ゆとり」は目的を最優先にせず、プロセスに余白をつくり価値として認める。

具体例として、給食サービスを挙げた。ある程度切られた部材を学校まで送り、最後の調理はコミュニティで行うなど給食にコミュニティソリューションの考え方を取り込むことで、単なる「食事の提供」から、地域の人々が協働して子どもの食と育ちを支える仕組みに変化する。

渡邊氏は「サービスを単なる価値の移動ではなく、関係者全員のウェルビーイングが向上するプロセスとして捉える」ことの重要性を強調。提供者と受容者の二項対立を超えた、「わたし」ではなく「わたしたち」の視点でのサービス設計を提唱した。

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ISO標準化で加速する集団ウェルビーイング

両氏が共通して注目したのは、2024年11月に策定されたISO 25554「コミュニティにおけるウェルビーイング促進ガイドライン」だ。この国際標準は、企業や自治体がウェルビーイングを推進する際の統一的フレームワークとして機能する。

ガイドラインでは、コミュニティが独自のウェルビーイング概念を持つことを前提とし、関わる人々を定義し、彼らのウェルビーイングな在り方を指標化して測定・評価するプロセスを体系化している。

渡邊氏は「ウェルビーイングな製品・サービスを提供することは、非財務的価値の具現化・可視化に寄与する」と指摘。ESG投資や人的資本開示が求められる現在、ウェルビーイングへの取り組みは企業価値向上の戦略的要素となっている。

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現代社会の課題と今後の展望

クロストークでは、既存サービスのウェルビーイング化の課題も浮き彫りになった。前野氏は「ダイエットやスポーツなど目の前の健康は受け入れられやすいが、利他性や視野の拡大など本当に重要だが面倒に感じられる要素は受け入れられにくい」というジレンマを指摘。

現代社会そのものが短期的な便利さや快楽を求めすぎている中で、長期的なウェルビーイングへの転換をいかに実現するかが今後の課題となる。

一方で、OECD Learning Compass 2030では、2030年に向けて子どもたちが自分だけでなく周りの人と一緒にウェルビーイングな世界社会を作っていくことが重要視されている。日本でも文科省の教育振興基本計画にウェルビーイングが明示的に盛り込まれ、教育現場でのウェルビーイング・コンピテンシー育成が本格化している。

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次の展開へ

両氏の講演は、ビジネスにおけるウェルビーイングが単なる従業員満足度向上を超えた、社会システム全体の変革を伴う大きなムーブメントであることを明確に示した。「すべての生きとし生けるものが幸せでありますように」という前野氏の締めくくりの言葉は、利他的で持続可能な社会への願いを込めている。

今回のセミナーの模様は、現在YouTubeで公開中。また、2026年1月にはWELL-BEING TECHNOLOGY展、同年3月にはWELLBEING AWARDSが開催され、ウェルビーイングな社会実現に向けた具体的な取り組みがさらに展開される予定だ。

アーカイブ:

本記事は2025年7月23日に横浜・フラグヨコハマで開催された「ウェルビーイングなサービスデザインとは?~人と環境の持続可能なビジネス成長に向けて~」の取材に基づいて作成されました。

フラグヨコハマについて:Vlag yokohamaは株式会社相鉄アーバンクリエイツと東急株式会社が運営する横浜駅に直結した複合施設で、「未来の兆し(=Vlag)溢れる共創の場」をコンセプトとしています。「暮らし」を軸に、ウェルビーイングを含む様々なテーマでの共創が行われる場として活用されています。