「ウェルビーイングとAIの未来——創造性が企業力に直結する時代の働き方」
生成AIの進化がめざましい現代、「AIは人に取って代わる存在」——そんな不安や懸念も聞かれますが、私たちは実はAIとの新たな関係を築く岐路に立っています。本記事では、株式会社ハピネスプラネット代表取締役CEO・株式会社日立製作所フェローの矢野和男氏による「AIとウェルビーイング」を巡る最前線の講演を取材。単なる生産性や効率の時代の先、幸福と創造性が価値の中心に置かれる未来像に迫ります。AIとともに進化する私たち——新しい“働き方の羅針盤”について、ぜひお読みください。
「ウェルビーイング」を問い直すセミナーの幕開け
9月12日、Wellbeing Action実行委員会主催によるオンラインセミナー「第5回WELLBEING TABLE」が配信された。進行役は、株式会社博報堂生活者発想技術研究所の伊藤幹氏。伊藤氏は、「誰もが自分らしくウェルビーイングに生きる社会を実現したい」という団体の理念と、この日登壇する矢野和男氏の講演趣旨を紹介した。AIの進化が単なる技術革新にとどまらず、企業経営や意思決定のあり方そのものを揺るがしつつある現状が、セミナーの根底に流れていた。


時代の転換点——「働き方」と「幸せ」の再定義
基調講演に登壇した矢野氏は、これからの働き方の大転換について語った。「一生懸命働いて利益を出し、その結果、世の中が幸せになる」——そんな従来型の価値観から、「働くこと自体を通じて自分の居場所や役割を感じ、挑戦や工夫そのものが幸せとつながる」新しい循環へとシフトしている、と指摘。矢野氏自身の研究——12年間にわたりウェアラブルセンサーで取得した活動データをもとに、人の“幸せ”を定量的に捉える先進的な実践も披露され、幸福度と生産性の正の相関が数値的に裏付けられる事実が紹介された。


「フロー理論」と幸せのスパイラル
矢野氏が紹介した「フロー理論」は、ポジティブ心理学の巨人ミハイ・チクセントミハイ氏の研究が基となっている。チャレンジ度合いと自己スキルレベルから成る2次元マップにおいて、自己スキルよりチャレンジ度合いが高い「緊張領域」、自己スキルに見合った程よくチャレンジングな「フロー・夢中領域」、スキルの求められない難易度の低い「充電領域」、自分のスキルレベルでは容易にクリアできてしまう「退屈領域」といった状態が存在する。矢野氏は、変化の激しい現代だからこそ、退屈領域を抜けて挑戦する姿勢が重要であり、挑戦と成長のスパイラルこそが“幸せで生産性の高い人”に共通して見られる特徴だと強調した。

創造性×AI——人間の可能性を拡張するパートナーへ
講演の軸は「創造性」と「AI」をどうつなぐかに移る。矢野氏は「日本企業は効率化に偏り、創造性で世界に遅れを取っている」と課題を投げかけ、「リフレーミング力」や「自己決定力」が創造的成果に不可欠であることを訴えた。AI技術の進化についても、「人間の代替」ではなく「創造性を拡張するツール」として活用すべきだと強調。矢野氏らが開発した創造的AIシステム「FIRA」のデモでは、予防医学や哲学など多分野の専門家AIが一つのテーマを多角的に解析し、ユーザーに新しい発想をもたらす様子が披露された。
創造的AI「FIRA」と量子確率論に基づく革新
FIRA最大の特徴は「議論するAI」である点だ。600種類もの専門分野に特化したAI(「異能」)がその場で多角的な視点を持ち寄り、深い洞察や驚きを生み出す。こうしたAIは、事前学習だけに頼らず、量子確率論に基づきその場で新しい関係性や解決策を生成する。矢野氏は、「AIは“正解”を教えるだけでなく、新しい視点をくれる。それこそが人間の創造性拡張の鍵だ」と語り、企業や組織が活用すれば、問題解決の質そのものを劇的に高められる可能性を強調した。実際、ビジネス分野での課題解決力を比較した評価でもFIRAの回答は“奥深さ”“視野拡張”“驚き”の面で高い評価を獲得しているという。


幸せも「習得可能なスキル」、AIがその訓練をサポート
クロストークのセッションで、伊藤氏は「幸せはスキルである」との矢野氏の言葉に注目。矢野氏は、「幸せを2次元で捉える概念や、変化する自分の状況を俯瞰(ふかん)してリフレーミングする力を養うこと」が重要だと述べ、AIが「問い直し」をサポートする最良のパートナーになる可能性に言及した。多様な意見のぶつかり合いから“自分の行動のヒント”を導く体験は、視野の広がりに直結する。AIが人の「創造の壁」を破る手助けをする時代がいよいよ到来しつつある。

ウェルビーイングと企業価値——“幸福度データ”が示す未来
セミナー終盤では、「従業員の幸福度が会社の成長にどうつながるか」という質疑も。矢野氏は調査結果を交え、「幸せな従業員ほど受注率が3割高い」「従業員が幸せな会社は利益率が18%高い」とし、幸福度が実際のビジネス成果に直結する新時代の到来を示唆した。働く個々人のウェルビーイングを中心に置く経営が、企業の創造性と競争力を高め、豊かな社会をつくる原動力になる——そんな確信が会場全体を包んだ。
次回イベント・アーカイブ案内
企業や社会におけるウェルビーイングの可能性や最新事例についてお届けする「WELLBEING TABLE」は、朝日新聞社等によって構成されるWellbeing Action実行委員会が主催し、今後も同様の学びや交流の機会が予定されています。セミナーのアーカイブ動画や関連情報は公式WebページやYouTubeチャンネルにて公開されています。ウェルビーイングに関心のある方、AI時代の新しい働き方を模索したい方は、ぜひ次回以降のイベントやアーカイブもご覧ください。
- WELLBEING AWARDS公式サイト
掲載イベント最新情報、次回開催案内等が掲載されています
