スイスは心洗われる大自然と、優雅でハイクオリティーで活気ある地区とが隣り合っている国。「心豊かに暮らすには、スイスは最高の場所かもしれない」。長年スイスに住み、ヨーロッパの東西南北を訪れ、しみじみそう感じる。そんなスイスの最大都市チューリヒで地元の人々に愛されている、とびきり素敵な一面をご紹介しよう。さあ、山岳風景やハイキング、最高級時計やチョコレートだけではない、新発見のひと時へ。
旧市街で、朝市と昼夜の景色を楽しむ金曜日
9月終わりの秋晴れの日、チューリヒ市郊外の森の中をウォーキングしていると、隣にいたスイス人の夫が「今日は僕たちの結婚記念日だよ」とつぶやいた。何年も祝っていなかったことに気づき、次の週末は、ちょっと特別なことをしようということに。
金曜日の夜に、夫には内緒で彼が好きな料理を作ろうと考えた。毎週火曜日と金曜日に開かれるビュルクリ広場の「野菜と花の朝市」に行けば、いい食材がきっと見つかるはずだと出かけた。この朝市は、約44万人が住むチューリヒの市民の生活の一部で、市内や郊外の朝市でトップを争うほど人気と聞く。ビュルクリ広場は、高級ブランド店がひしめく駅前大通りを歩いた先、チューリヒ湖の目の前の場所にある。



野菜も花も驚くほど種類が豊富だ。スーパーでは見かけないスイスチャードという野菜があったので、この葉を使った東のグラウビュンデン州の名物料理「カプンス」を作ることにした。地方の料理だが、チューリヒ市内のいくつかのレストランでも食べられる。普段は代用の葉で作ることが多いので、今夜は正統派の葉を味わえると心が弾んだ。外皮が8種類の花でできているチーズと、秋の味覚のきのこも数種類買った。

路地が多い旧市街は迷路のよう。それらをいくつか通り抜けて、アウグスティナーガッセへ行った。カラフルな中世の建物の数々は彫刻や絵が施された出窓が特徴的で、絶好のフォトスポット。出窓は明かり取りとともに、来客をチェックするのぞき穴としても機能していた。買い物に食事に、また、ただふらりと歩くだけでも心がなごむ。

久しぶりにリンデンホフの丘に行ってみたくなり、坂を上ってみた。ここはリマト川を望み、旧市街を一望できる素晴らしい場所だ。


菩提樹が広がる中、絶景を堪能する人、ランチを食べる人、遊具ではしゃぐ子どもたち、チェスに興じる人と、みな思い思いに時を過ごしている。旧王宮が取り壊され、公園としてチューリヒ市民に開放されたのは中世のこと。政治的な会合の場としても使われた重要な場所だった。

約160年前、嵐の被害に遭い栗の木などが植えられたが、市民に不評で再び菩提樹に戻したという逸話もある。昔も今も、まさに市民がリラックスするための空間では、ハトが噴水の水を飲んでいた。
帰宅し、夕方に作ったカプンスは大好評だった。夫との記念のプログラムは、リンデンホフの丘の背後にあるウラニア通りからスタートだ。高さ50メートルの塔の最上階にあるウラニア天文台で、約1時間の見学会に参加した。巨大望遠鏡で本物の星を眺めたあとは、下の階にあるバーで過ごし、チューリヒの夜空のパノラマビューを2人で楽しんだ。

アートに酔いしれる土曜日
土曜日はアートの日にしようと、夫と決めた。私が未訪問のチューリヒ美術館の新館へ。2021年に、道路を挟んで本館の向かい側に完成した新館は、夫が何度か行き、感激したという話は聞いていた。

Foto © Franca Candrian, Kunsthaus Zürich
すっきりとしたエレガントな四角い新館は、イギリスの建築家デイビッド・チッパーフィールドによる設計だ。氏は今年、建築界のノーベル賞ともいわれるプリツカー賞を受賞した。

館内には、様々な時代の傑作がほどよい数で配置されていた。アルベルト・ジャコメッティ、スイスの国民的画家のホドラー、スイスに移住しアルプスに魅了されたセガンティーニなど、スイスゆかりの芸術家はもちろん、印象派の作品も充実。レジェ、マティス、ピカソといった著名な芸術家もそろっている。私が好きな現代アート・コンテンポラリーアート作家の作品もあり、大感激した。新館の増築でスイス最大規模の美術館となったチューリヒ美術館は、1日いても飽きない場所だ。絶対にまた来なくてはと思った。
さて、この日のランチは、リマト川沿いを歩き、フラウミュンスター教会の広場のミュンスターホフへ向かった。噴水を前にした食事も、なかなかいい。2016年にお目見えした直径6メートルのこの丸い噴水は、いつ見ても印象的。市内の建築事務所が設計した。チューリヒは、実は1200以上もの噴水がある新鮮な水の都だ。ここには飲み水用の小さい円形噴水が併設されている。特別な市の祝賀の日には、この蛇口からワインが出てくる仕掛けも面白い。

午後からは、チューリヒ湖沿いの遊歩道を20分ほど歩き、湖畔の広大な公園チューリヒホルンまで足を延ばした。自然を感じるには最適の散歩コース。公園に着くと、モダンで色鮮やかな建物、ル・コルビュジェ展示館が見える。モダニズム建築の父として知られる、スイス西部出身の建築家ル・コルビュジエが最後に手掛けた建物だ。ここは、夫は初訪問だった。巨匠の哲学を、外からも中からも体験した。

「パラダイス」で食事をする日曜日
日曜日には先日、友人から、100点満点を付けたいスペシャルなレストランだとうわさに聞いていた「ブエッヒ」を訪れることにした。

チューリヒ中央駅から電車で20分のヘルリベルク駅で降り高台まで上ると、そのレストラン、ブエッヒはあった。屋外席の前には、チューリヒ湖と山並みのコントラストが広がる。チューリヒ近郊の高台のレストランにはいろいろ行ったことがあるが、ここまで理想的な景観に出合ったことはない。築100年以上の家を改装した屋内席は、木の床や天井に木の家具、古い暖炉があり、素朴でありながら芸術作品のようだ。


ワインは、この地や南のティチーノ州で育ったブドウから作っている。肉も魚も、ベジタリアン向きのメニューもある。コルドンブルー(ハムとチーズを薄い肉で挟み、衣をつけて油で揚げた料理)といったスイスの定番料理を基本に、季節の素材に合わせた料理に舌鼓を打てる。


サービスも文句なしで、完璧なカントリー調のレストランはパラダイスにいる気分にさせてくれ、夫と一緒に大満足のひと時を過ごせた。
ブエッヒは、「リビングサークル」という5つ星ホテルグループに属している。リビングサークルのホテルは、旧市街にある歴史的なホテル、シュトルヘンとヴィダーの2軒、ブエッヒの対岸にある2019年にオープンしたアレックス・レイク・チューリヒ、ティチーノ州の1軒、さらに来夏には新たなホテルが開業する。ティチーノ州にもレストランがある。
リビングサークルが提供するのは、「質のいい時間」。単に高価なものを消費することが上質だとはとらえず、充実感を得るには、いかに特別な経験をするかが大切だと考えている。グループの農場からこだわりの食材を各ホテルやレストランへ直送して調理するのも、そのコンセプトに基づいた実践だ。


アレックス・レイク・チューリヒは通常の5つ星ホテルよりもお得で、全室にキッチンが備わっている。宿泊客は専用ボートで湖を渡り、専用タクシーでブエッヒまでエスコートしてもらえるサービスもある。
夫にアレックス・レイク・チューリヒについて説明したら、「そこに宿泊して、またブエッヒで食事するのもいいね」とほほえんだ。私たちのお祝いを地元チューリヒで計画して、言うことなしだった。
チューリヒ観光局 www.zuerich.com
スイス政府観光局 www.myswiss.jp












