フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。今回はラオスの古都へ。街が一望できる丘から太陽が沈む様子を眺めながら思ったことは……。
「無駄にしたくない ラオス」
日はすっかり傾いているのに、蒸し暑い。
まだ数分しか歩いていないのに、体中が汗で湿っているのがわかる。
日本に本格的な夏が訪れる前に、暑季のラオスにやってきた。
古都ルアンパバーンは、仏教国ラオスの礎を築いた街。
歴史ある寺院が多く残り、街全体が世界遺産に登録されている。
例えるなら、京都のような場所だろうか。
メインストリートは、フランス植民地時代のコロニアル建築が並び、
レストランやゲストハウスもなんだかおしゃれで、
たくさんの外国人観光客でにぎわっている。
そんな通りを抜け、私はメコン川に向かって歩いていた。
もうすぐサンセットの時間。
初日は、川沿いのカフェでゆっくり夕日を眺めたいと思っていた。
いくつも並ぶカフェの中から、
若者が多い店を選んで、カウンター席に座った。
目の前を雄大な川が流れていく。
すぐ下では、鶏たちが木の上を飛び回っていた。
何語だかわからないシティポップ音楽が流れ、
両隣の女子たちがスマホに夢中になっている間で、
瓶ビールを傾けながら、太陽が山の向こうに隠れていくのを見ていた。

帰り道、おいしそうな香りにつられて、夜市へ寄った。
たくさんの屋台の中から選んだのは、
ルアンパバーン名物、カオソーイという麺料理。
日本円で約270円とは思えないほど、
肉みそや香草がたっぷりのって、少しだけ辛く、おいしかった。
すぐ横の道では、子供たちが裸足になって、靴を投げ合って遊んでいた。
仲間の靴に、自分の靴をぶつけて、陣地を取り合っている。
バイクが行き交うギリギリのところで、全員が夢中で楽しんでいた。
今の日本の子供は、こんなことをしていたらすぐに怒られてしまうだろうか。
翌朝は、20キロほど離れたところにある、クアンシーの滝へ行った。
年間をとおして水量が多く、水着で泳ぐこともできる。
エメラルドグリーンの天然のプールで、
様々な人種の人たちが、大人も子供も一緒になって遊んでいて、
平和の象徴のような景色だった。

私ももちろん、しっかり泳いだ。
滝に打たれたり、木の枝から飛び込んだり、子供のようにはしゃいだ。
こんなに本格的に川で遊んだのは、いくつの時以来だろう。
この日の夕方は、プーシーの丘を目指した。
ホテルの近くにある小高い丘で、328段の階段を上がった頂上では、
ルアンパバーンの街が一望できるらしい。
すぐそこだからとスマホとカメラだけを持ち、上がり始めて10分。
料金所があり、入場料がかかることを初めて知った。
財布を持っていないので、諦めるしかないところだが、
一か八か、スマホの翻訳機能を使って、係員に聞いてみた。
「お財布を忘れてしまいました。明日払いにくるので、入れてくれませんか?」
ラオス語に訳された文章を見て、男性はどうぞ、と入り口の方へ手を向けてくれた。
入れてくれるんだ!!
何度もお礼を伝えて、残りの階段を一気に駆け上がる。
頂上にたどり着くと、ちょうど空の色が変わり始めていた。

赤い屋根と赤い花と、赤い空。
集まった観光客ひとりひとりの頰も赤く染めながら、
太陽は、今日も一日が終わることを告げていた。
世界中でサンセットを眺めていて、いつも感じる。
太陽が欠け始めてから、消えてしまうまでの時間は、本当にあっという間だ。
昼間は気が付かないけれど、
地球は毎日、こんなにも速く回っているのだ。
一瞬たりとも、無駄にしたくないと思った。
何が無駄で、無駄ではないのかは、人によって違うけれど、
私は私なりに、命を燃やして、この生を全うしなければいけない。
翌日、約束通りお金を払いに行くと、同じ場所に同じ男性が立っていた。
入場料3万キープを手渡すと、
「ユーアー、オネスト!」と言って、1万キープ札を返してくれた。
そんな、いいのに…。
遠慮しようとして、やめた。
せっかくだから、彼の気持ちを受け取ろう。
今回も何度もお礼を言って、次の目的地へ向かった。
想像していた通りのことは、ほとんど覚えていない。
想像もしていなかったようなことが、思い出になり、人生を支えていく。
これだから、旅はやめられない。
無駄なことをしている時間はないのだ。












