朝日新聞

リビングの眺望を生かしたラッパ状の間取り。こだわりの家を実現した20代のリノベーション〈274〉

LIFE
2025.07.16

|

  • 石井健
    建築家

    1969年生まれ。日本のリノベーション・シーンの創成期から手がけてきた「ブルースタジオ」クリエイティブディレクター・執行役員。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも「古い物件の家賃を倍にする不動産集団!」として紹介される。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)を始めグッドデザイン賞6度受賞。「FURNITURE半身浴」を始めリノベーションオブザイヤー7度受賞。著書『LIFE in TOKYO』(エクスナレッジ)。ブルースタジオへの物件探し・リノベーションのご相談は、随時セミナーや個別相談で承っています。

Kさんご夫婦(20代)
江東区 / 築43年/64.4㎡/ 総工費約1,800万円(税込、設計料込)

    ◇

20代後半のKさんご夫婦が私たちのもとを訪れたのは、住んでいた神奈川県の賃貸の更新がきっかけでした。「都内で物件を購入して、自分たちらしくリノベーションしたい」。

こんな思いでご相談に来られたのですが、同じように考える20代の方は、実はとても多いのです。今回は、物件探しからサポートをスタート。奥様がなじみのある江東区で物件を探し始めたところ、なんと内覧1件目で、「これはとてもいいかも」と感じる出会いがありました。広さ、立地、価格の条件がぴったりで、直感的にもフィット感があったようです。

リビングは木や塗装の壁、コンクリートの天井など質感のある素材で構成され、ヴィンテージ家具が馴染む空間に
リビングは木や塗装の壁、コンクリートの天井など質感のある素材で構成され、ヴィンテージ家具が馴染む空間に

1件目で決断するのは簡単なことではありませんが、「ピンときた」ものを逃さない、タイミングの見極めがとても重要です。というのも、最近は、物件価格が高騰しているせいか、手頃なものは迷っているうちに売れてしまったり、短期間で価格が上昇してしまったりするケースがあるからです。そこで、お二人には、その日のうちに検討中の他エリアの販売物件と比較し、メリット・デメリットをじっくり確認することをおすすめしました。最終的に、ご自身たちで内覧1件目の物件の購入を決断されました。

今回のリノベーションの特徴は、リビングからの眺望を生かした、ラッパ状の間取りです。玄関からLDKまでの廊下を徐々に狭くし、その先に、多角形にデザインしたキッチンと寝室を配置し、空間がまるでラッパ状に広がるようにしました。廊下を通ってリビングに入ったとき、窓からの眺めがよりドラマチックに感じられるという、効果があります。

この間取りを提案したもう一つの理由は、在宅勤務が多いKさんが「ワークスペースを作りたい。そして、仕事と暮らしの場所をしっかり分けたい」と希望されたことです。ワークスペースは玄関の脇の土間に配置すれば、リビングまでの廊下がオンとオフの切り替えポイントに。ラッパ状の間取りによって、リビングに広がる眺めがリラックス気分を盛り上げてくれ、気分転換になります。

寝室の壁とキッチンはリビングに向かってラッパ状に広がっていく形状とし、空間に連続性を持たせた
寝室の壁とキッチンはリビングに向かってラッパ状に広がっていく形状とし、空間に連続性を持たせた

奥様のワークスペース&趣味部屋は、廊下の途中にある防音室です。在宅勤務はそれほど多くないので、趣味の歌を歌ったり楽器を弾いたりするために使用することが多いとか。

同様に、廊下を通ってリビングへ向かうので、同じ気分を味わえます。

多角形にデザインしたキッチンは、ダイニングにも、リビングにも向かって料理ができるので、夫婦でコミュニケーションが取りやすくなっています。お二人で料理するのはもちろん、どちらか一方が腕を振るうことも。「夫が料理する姿を、ソファから眺めているのが楽しい」と、若いご夫婦らしい感想をいただきました。男性が料理をしやすいように、料理台は少し高めに設定しました。

框(かまち)組みのキッチンは寝室のパーテーションとデザインを合わせ、家具のように空間に馴染んでいる
框(かまち)組みのキッチンは寝室のパーテーションとデザインを合わせ、家具のように空間に馴染んでいる

インテリアに関しては、お二人にこだわりがありました。インスピレーションのきっかけは、ブルックリンにあるエースホテル。他にも、気になったホテル、ショップなどの画像を私たち設計者とも共有しながら、イメージを膨らませていきました。

中でも、洗面室とトイレは、お二人が集めた画像が活用できた場所。モザイクタイルを使用してスタイリッシュに仕上げました。インテリアのポイントになっているのは、アンティークのアメリカ製メディシンキャビネット。ネットオークションで購入し、ヴィンテージ感のある空間になりました。

(左)玄関からリビングをつなぐ廊下は徐々に幅が狭くなり空間に変化を持たせた(右)水回りにはニューヨークスタイルのタイルをあしらいクラシカルな雰囲気に
(左)玄関からリビングをつなぐ廊下は徐々に幅が狭くなり空間に変化を持たせた(右)水回りにはニューヨークスタイルのタイルをあしらいクラシカルな雰囲気に

最後に、税金に関することをお話しします。この物件は、Kさんご夫婦の条件に合っていたのですが、税金面でも有利でした。建てられたのは1982年で、1981年に改正された新耐震基準が適用されていたため、住宅ローン控除や登録免許税などの軽減措置が受けられました。これらは、旧耐震基準では受けることができません。物件を購入する前に、不動産の担当スタッフによる調査、管理会社へのヒアリングなどを行い、新耐震であることを確認しています。1981年前後に建てられた物件を購入する場合は、事前に不動産会社に確認することをおすすめします。

20代でリノベーションをするのは、「まだ早い」と尻込みしてしまう人が多いと思います。でも、「終(つい)のすみか」という考えが薄れ、ライフスタイルが変化したら住み替えるという人も増えています。リノベーションすることで、物件の価値が上がり、購入時よりも高く売れる可能性も。そして、何よりも賃貸では味わえない、自分たちの“好き”にこだわった家に住むことができます。今後は、20代での住宅購入は、住まい選択の一つになっていくと思います。

間取りとリノベーションの写真(写真をクリックすると、次々とご覧いただけます)

Kさんご夫婦に聞く
リノベーションQ&A

Q1 リノベーションでこだわったことは?

キッチンカウンターの木の部分です。合板にするという案もありましたが、できるだけリアルな素材にしたかったので、パインの突板貼りを希望しました。

リモートワークが多いため、居住と仕事のスペースは、しっかり分けたいと考えました。土間に作ったワークスペースは集中できるし、オンラインの会議でも背景を気にしなくてすむので、専用の場所を作って良かったです。このスペースは、将来は子供部屋にすることも考えているので、ベッドを置ける広さになっています。

(左)土間と防音室で夫婦それぞれのパーソナルスペースを確保(右)LDKの窓にはカーテンを天井から吊るし、すっきりとした印象に
(左)土間と防音室で夫婦それぞれのパーソナルスペースを確保(右)LDKの窓にはカーテンを天井から吊るし、すっきりとした印象に

Q2 リノベーションのプロセスで楽しかったことはありますか?

プランを考えているとき、まず費用などの制限を設けず、自分たちの理想を自由に落とし込んでいくプロセスが楽しかったです。デザインに関しては、二人の意見がおおよそ一致していました。設計者さんとは、ピンタレストで好きなイメージを共有したので、話し合いもスムーズに進みました。

Q3  リノベーションをして、生活が変わりましたか?

QOL(クオリティー・オブ・ライフ)が劇的に上がりました。特にキッチンの使い勝手が良いです。対面キッチンなので、リビング側からもシンクが使えるなど、便利なことも多いです。また、リビングをカーペットにしたことで、想像以上に落ち着ける空間になりました。初めの1~2カ月は、まるで旅行中のホテルにいるようで、自分の家じゃない感覚でした(笑)。

コストカットのため、各収納には扉をつけませんでした。でも、実際に使ってみると、ものをしまうときに扉の開け閉めがなく、手間が省けて良かったです。また、お風呂をタイル張りにすることも予算的に難しかったのですが、お手入れを考えるとユニットバスにして良かったと思います。

植物を育てることが好きなので、水やりがしやすいようにベランダ脇に蛇口をつけました。水やりの手間が省けて、助かっています。 

構成・大橋史子

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4nBgoHUyBd3d
2025年11月14日 8:34 AM

 リノベーションでQOLが上がる。QOLが上がると暮らす自分たちの視線(レヴェル)も上がる。また、新しい可能性ややる気が広がることはとても素敵だ。

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    4nBgoHUyBd3d
    2025年11月14日 8:34 AM

     リノベーションでQOLが上がる。QOLが上がると暮らす自分たちの視線(レヴェル)も上がる。また、新しい可能性ややる気が広がることはとても素敵だ。