朝日新聞

祖母のように慕った伯母へ わずかな視力にも届く花

LIFE
2026.07.09

|

  • 東信
    フラワーアーティスト

    1976年生まれ。2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。近著に作品集『ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅴ 植物図鑑』(青幻舎)など。2025年3月下旬に京都で展覧会『X-Ray FLOWERS』を開催。

  • 著者
    椎木俊介
    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。 2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

フラワーアーティストの東信さんが、読者のみなさまと大切な誰かの「物語」を花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉

岡崎尚美さん(仮名) 45歳
会社員
福岡県在住

    ◇

中学生で母親を亡くし、まだ2歳だった私の母を、父親(私の祖父)や他のきょうだいたちと一緒に育ててくれた伯母。きょうだいたちが大人になって家を出てからも、祖父と同居して、働きながら介護と家事をひとりで引き受けるなど苦労していたと聞きました。

そうして生涯に渡って一家を支えてきた伯母は5人兄弟の真ん中で辛抱強く、さっぱりした性格。誰からも好かれる伯母は、私の母にとってはお母さん代わり、私にとっても伯母さんというより、おばあちゃんといった頼もしい存在でした。

かっこよくて、インテリアや料理など、選ぶものは何でも品があるいいものばかり。毎日主にビールで晩酌をたしなみ、食べることも大好きな豪快な伯母でした。人付き合いを何より大切にして、今日は旅行、明日は食事、明後日はカラオケなど、祖父を見送ったあとは毎日楽しそうに飛び回っていたものです。

実は姪(めい)の私もUターンで故郷の九州に戻ったのをきっかけに、ほどなくして伯母と2人暮らしを始めました。伯母も私を孫のようにかわいがってくれて、私を褒めるときにいつも引き合いに出すのは保育園の運動会でのエピソードです。徒競走でスタートの合図が鳴ったとき、私は自分が走り出す前に、隣の男の子に「がんばれ」と声をかけてそのお尻を押したのだとか。そんな世話好きなところだけは、伯母から受け継いだと自負しています。

その伯母が、まだ私と2人で同居していた3年前、自宅で転倒してしまったのです。以来ずっと病院に入っては介護施設に転居、また病院に戻って……という生活を繰り返しています。

「普通が一番」が口癖の伯母は、物事に執着しない性格。今もしっかりしていて、いつまでも執着せずに妙に諦めがいいのも若いときと変わりません。毎週お見舞いに行っている母が最近、なぜリハビリをやめてしまったのか聞いたときも、いいのか悪いのか、「もういいっちゃ(もういいのよ)」とサバサバと答えたそうです。

大好きだった食べることもままらず、今では胃ろうをつけています。また眼も衰えてきているため、お花で嗅覚を刺激して、わずかに認識できる視力で、施設での生活にも活力を与えてほしいです。87歳になった彼女の力になるような凜(りん)としたお花で、私と母からの感謝の気持ちに代えていただけるとうれしいです。

《花材》クロコスミア、トリトマ、サンダーソニア、マトリカリア、バラ、デルフィニウム、ヒペリカム、アスター、アルケミラモリス、セダム、アセボ
《花材》クロコスミア、トリトマ、サンダーソニア、マトリカリア、バラ、デルフィニウム、ヒペリカム、アスター、アルケミラモリス、セダム、アセボ

花束をつくった東さんのコメント

おばあちゃんのような存在だったパワフルな伯母様が、病院と施設を行き来していらっしゃるとのこと。ご心配ですね。お花で伯母様の元気を取り戻したいとおっしゃる投稿者様の願いがかなうようにと、嗅覚をやさしく刺激するような香りがするお花を選びました。ピンクの薔薇など、目の覚めるようなカラフルなお花も加えています。ご家族の心の支えだった伯母様。お花のくれる生命力で、かつての元気を少しでも取り戻してくれるとうれしいです。 

文:福光恵
写真:椎木俊介

フォトギャラリー(写真をクリックすると、詳しくご覧いただけます)
読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。選んだ物語を元に東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

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