インタビュー

細田善彦「肩書にしばられず、自分らしさを」

超高齢化社会を迎え、在宅・訪問医療の制度整備が重要性を増すいま、在宅医療をテーマにした映画『ピア~まちをつなぐもの~』が公開される。主演の細田善彦さんは、大河ドラマ『真田丸』の北条氏直役や雑誌『ゼクシィ』のCM、最近はドラマ『3年A組―今から皆さんは、人質です―』の宮城刑事役を好演した。5月公開の映『武蔵-むさし-』の主役も務め、注目が集まる細田さんに、役作りを通じて学んだことや、1年休業して過ごした海外生活、そして、俳優という仕事の醍醐(だいご)味について聞いた。

【動画】細田善彦さんインタビュー(撮影・高橋敦)

患者と触れ合うことで、自分らしさを取り戻す医師役

細田さん演じる主人公・高橋雅人は、大学病院の勤務を経て、親が営む町医者を継ぎ、訪問診療を行う医師。病気を治すことには熱心だが、患者に対してはやや淡泊な対応をしてしまう高橋は、診察で訪ねた患者の様子を見て、少しずつ価値観を揺さぶられていく。作品の前半と後半で高橋の姿勢や表情が変わっていくところが印象的だ。

「医師だけでなく、企業の経営者や学校の教諭もそうかもしれませんが、肩書や職業に対するイメージで人格が形成される人もいると思います。高橋もそのタイプで、大学病院に勤める医師という肩書に縛られていました。その彼は、実際の在宅医療を通じて人と向き合うことで、患者さんにいろいろなことを教えてもらいながら、少しずつ仮面が取れて、自分らしさを表に出していく。高橋と同じように、僕自身が成長していけたらと、ある意味等身大で演じさせてもらいました」

役のオファーをもらった時、広島にいた細田さん。「台本を読んで、すごく感動したし、在宅医療についてとても勉強になりました」/写真は映画『ピア~まちをつなぐもの~』より(C)2019「ピア」製作委員会

役のオファーをもらった時、広島にいた細田さん。「台本を読んで、すごく感動したし、在宅医療についてとても勉強になりました」/写真は映画『ピア~まちをつなぐもの~』より(C)2019「ピア」製作委員会【もっと写真を見る】

細田さんは撮影に入る前、在宅医療の現場を見学した。診療を行う医師に同行した現場で、空気感や人との距離感など、今まで経験したことのないものを感じたと振り返る。

「最も印象的だったのが、患者さんとのコミュニケーションの取り方ですね。自宅に訪問するので、限りなく患者さんに近づくのですが、家族と暮らす人もいれば、独居の人もいる。完治は難しい病気の患者さんに対しても、支えていく姿勢がとても重要です。100人いれば100通りの接し方をする大変さがあり、クリエーティブなコミュニケーションが必要とされることを知りました」

最期まで面白がって生きる男性が「かっこいいと思った」

その時に出会った1人の患者さんが、今でも細田さんの心に深く残っている。

「90歳くらいの寝たきりのおじいさんで、在宅医療が長く続いている方でしたが、僕との出会いをすごく楽しんで、自らコミュニケーションを取ってくださる姿勢がとても印象に残りました。男性は“ミステリアス”とか“寡黙”なほうが女性にモテると言われることもありますが、そのおじいさんの明るい姿勢はすごくかっこいいなと思いました。その方と出会えたことで、話したければ話せばいい、いろいろなことを面白がって生きていきたいと思いました」

(C)2019「ピア」製作委員会

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共演は、水野真紀さん、升毅さんらベテラン俳優が勢ぞろい。水野さんは末期がんの患者として登場するが、鬼気迫る演技で存在感を見せている。

「撮影の期間は2週間弱だったのですが、水野さんは短期間でその変化が分かるほど痩せられていました。だけどずっと元気で、にこにこおしゃべりをしていて。水野さんは役作りで食べられないのに、パンを差し入れしてくださいました。食べちゃいけない人の前でパンを出されて、どうやって食べたらいいんだろう? と思いながらも、おいしくいただきました(笑)。

在宅医療の現場でも、お医者さんの往診を楽しみにしている患者さんが、ご自身は食べられないものをお医者さんのために用意して、振る舞われる方もいるそうです。このパンのエピソードも水野さんの役へのアプローチの一つだったのかもしれません。おかげで、僕も一歩お医者さんに近づけた気がします」

(C)2019「ピア」製作委員会

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俳優活動を一時休止。海外で1年間“何もしない”日々を過ごす

現在31歳の細田さんが芸能界に入ったのは15歳の頃。25歳の時、一度俳優活動を休止している。

「まわりの友人たちは大学を卒業し就職して、新たなステップへと進んでいく姿を見て、『このまま俳優という仕事をずっとやり続けていくのだろうか?』という問いが自分の中に生まれました。『今、一番したいことはなんだろう?』と考えた時に、昔から海外で暮らすことに憧れていたことを思い出しました」

憧れを実現するため、細田さんは日本を離れ、1年間を海外で過ごす。カナダ、アメリカのニューヨークやソルトレークシティーなど、3カ月に1度は日本に戻りながら穏やかな時間を過ごした。

「本当に自分にとってよい時間でした。毎日朝起きて、『今日は何をしようかな?』と考える日々で。ある時は韓国系アメリカン、ドイツ系アメリカン、メキシコ系アメリカンの3人と一緒に暮らしました。家とバイクを貸してくれた友達との約束で、みんなの朝食を作るのが僕の仕事です。朝食は基本ホットドッグで、パンを焼いてソーセージをゆでて。何もせず、ただみんなが帰ってくるのを待って、毎日飲みに行ったりしていました。ただただ何もせずに過ごした時間が楽しくて、本当にいい経験でした」

「30代、40代になると肩書がついて偉くなりますが、その偉さはまわりがあってこそあるもの。まわりの人、目に見える範囲の人を大事に、コミュニケーション、話すことを大事にしてほしい」とメッセージをくれた

「30代、40代になると肩書がついて偉くなりますが、その偉さはまわりがあってこそあるもの。まわりの人、目に見える範囲の人を大事に、コミュニケーション、話すことを大事にしてほしい」とメッセージをくれた【もっと写真を見る】

帰国した細田さんは、気持ちを新たに、俳優という仕事に向き合うようになった。

「1度休んだ時の経験から、俳優の仕事をする以上は『何よりも楽しもう!』という思いが強くなりました。『ピア』の現場で、一番よく人と話をしていたのは僕だと思います。素敵な俳優さんたちに囲まれて、いろんな人に話しかけて、その人たちの話を聞くのが楽しくて仕方がなかった。自分が一番楽しんでいましたね。話さないと、相手のことは分からないですから」

 

「とても充実していて人生が楽しい。だから、期待以上に応え続ける」

プライベートでは「趣味がなく、犬の散歩くらいです(笑)」と明かす。今一番の楽しみが、役を通じた出会いや学ぶことだと話す。

「趣味がないから、例えば今回の在宅医療について調べることが、一番の楽しみになります。学生時代にも在宅医療について勉強したことはあると思いますが、頭からすっぽり抜けているんです。単位のためだった勉強は、自分のものになっていない。『学ぶ』時間が『楽しい』時間に変わってから、とても充実しています。それだけ大人になったのかもしれません」

(C)2019「ピア」製作委員会

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小休止を経たからこそ、俳優として突き進む意味を見いだした細田さん。30代、そして迎える40代に向けての思いを語った。

「俳優を一生続けられるかは分かりませんが、今は本当に充実していて、人生が楽しいと思えている。この楽しい時間を逃したくない。だから、いかに続けられるかだと思っています。そのためには、キャスティングしてもらった期待に応えるのは最低ラインで、それ以上の結果を出し続けることが必要です。ある意味、自分は空っぽなので、常に勉強して、前へ進んでいけると思います」

夕暮れや新録が美しいロケ地は、千葉県柏市や静岡の御殿場など様々。「どの街でも起こりうる話なので特定の街にせず、あえてどこか分からないようにしたいという狙いが監督にありました」

夕暮れや新録が美しいロケ地は、千葉県柏市や静岡の御殿場など様々。「どの街でも起こりうる話なので特定の街にせず、あえてどこか分からないようにしたいという狙いが監督にありました」【もっと写真を見る】

在宅医療を知ることは、健やかな最期をどう迎えるかについて知ることでもある。『ピア~まちをつなぐもの~』で俳優としての着実な歩みを進めた細田さんは、「僕は、いつも誰かのために頑張りたいと思っています。制作しているすべての関係者が、在宅医療に携わるすべての方の背中を押せるような映画になってほしいと思っていました。その願いに対して、僕はどんな役割を担えるかを常に考えていました」と語る。

「医療をはじめ、どんな世界でもコミュニケーションが大事だと改めて思います。在宅医療は家族への負担が大きいので、患者さんが遠慮して、在宅医療を選択しないケースもある。でも家族は、本当はわがままを言ってほしいと思っているかもしれません。向き合ってコミュニケーションを取ることができれば、お互いに満足できる答えが見つかると思うんです。今の時代、SNSやメールでもやり取りできますが、人と目を合わせて話すことの大切さを見つめ直すきっかけになれたらと思います」

(文・武田由紀子 写真・野呂美帆)

 

『ピア~まちをつなぐもの~』作品情報

キャスト:細田善彦、松本若菜、川床明日香、竹井亮介、三津谷亮、金子なな子、田山由起、桜まゆみ、枝元萌、村上和成、中野マサアキ、大迫一平、加藤虎ノ介、戸塚純貴、尾美としのり、水野真紀、升毅
監督:綾部真弥
企画・原作・プロデュース:山国秀幸
脚本:藤村磨実也、山国秀幸
主題歌:橘和徳「この街で」(ユニバーサル ミュージック)
製作:映画「ピア」製作委員会
配給:ユナイテッドエンタテインメント
制作:UE
協力プロダクション:スタジオブルー
2019年/日本/カラー/5.1ch/99分
(C)2019「ピア」製作委員会
2019年4月26日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開予定
ウェブサイト:www.peer-movie.com

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