
東京のパンの重心が、どんどん東に移動している。これまで、話題のベーカリーといえば東京の西側に多かったが、最近は東側に開店が相次ぐ。昨年開店したパンタレイもそのひとつ。清澄白河といえばかつての深川。下町情緒あふれる深川めしや佃煮屋にまぎれて、瀟洒(しょうしゃ)なブーランジュリーがあるのはおもしろい眺めだ。
名物は、小麦、バター、牛乳に北海道産を使用した「北海道食パン」。オーブンをフル回転させ1日3回焼きあげるが、店頭に出すとすぐ売り切れ。私も手に入れるために2回通った。その実力とは……。

持っただけで感じる、パン離れした驚異の弾力。思い出したのはドッジボールを手に持ったときのぽよんぽよんする感じ。かめば、もちっとするそばからとろーり溶けていく。いや、この衝撃を伝えるのにはまだ足りない。いわば、干潟に足を吸い込まれるような溶けっぷり。発酵の香りはほのかで、控えめな甘さは日常使いにふさわしい。
伊丹祐介シェフによれば、驚異的な弾力の理由は水分。「水分をぎりぎりまで入れ、コンベクションオーブン(ファンによって熱を対流させるタイプのオーブン)で焼いています。耳が薄くなるし、水分が抜けにくい」
伊丹シェフはパティシエから、パン職人に転向した人だ。「ケーキは特別な日にしか買ってもらえないですけど、パンだったら、毎日店に来てもらえますから。パンとケーキのハイブリッドを作りたい」

たしかに、パンタレイは甘いパンのおいしさが際立っている。たとえば、「奥久慈卵のクリームパン」。舌にどろりと垂れ落ちるクリームが実に濃厚。コクと華やかなミルキーさが勢い良く広がる。それもそのはず。パティスリー流に、生クリーム、バター、奥久慈卵の卵黄と、コクが出る素材をぜいたくに使っているから。しかも、食感がこれまた驚異的。ほろほろと生地が自壊するほどのやわらかさなのである。しかも口溶けがいいためクリームと一体化、ミルキーさが響き合う。

「ザクふわメロンパン」は、まさに、おいしいビスケットとパンが重なりあうハイブリッドである。パンのほうはブリオッシュ。このふわっふわぶりはどうだろう。つかんだ時底面の親指が生地に食い込んで穴が開くぐらいなのだ。一方、ビスケットはかりかり。両者の食感のコントラストだけで、身をよじらせるほどの快楽。というのに、溶けはじめれば、やさしい甘さ同士が重なって作り出されるえもいわれぬ味わい。これも悶絶(もんぜつ)級である。

クロワッサン系のパンも忘れてはいけない。「パン・オ・ショコラ」の焼き色は黄金色に輝いている。持っただけで壊れそうなぐらい外皮は繊細。しずしず持ち上げるとやわらかなもっちり感が指に伝わってくる。かむと、たくさんの層が一気にかみ破れて、ざわざわと音を立てる。中から現れるヴァローナのチョコの口溶け。それはワインのようにまろやかな変化に富み、生地のバター感と合わさった後味にはオレンジのようなうつくしい芳香を感じた。

「ルバーブのデニッシュ」にもしびれた。あごの両側をきゅーんとさせるほどの酸味が、アーモンドペーストのコクといっしょになって、めくるめく衝撃を与える。と同時に、ルバーブの滋味深い香りも引き出されていて、甘酸っぱさと対になって舌に食い込んでくるのだ。
伊丹シェフはひとつひとつのパンを実に大事に扱う。焼きたてをいつも食べてほしいから、午前に売るパンは午前中に焼き、午後のパンは午後に焼く。店頭に並べるまで、ストックは乾燥を防ぐためビニールに入れて保管する。客の目に見えないこんな努力も、パンタレイのパンをおいしくする秘密である。
ブーランジェリーパンタレイ
東京都江東区三好1-6-7 余郷ビル1F
10:30~17:00(土日は15:00まで。売り切れ終了)
月・火曜休
北海道食パン(1斤・ハーフ)の焼き上がり時刻(目安) ①オープン前 ②11:30 ③13:45













