全国3400万人の65歳以上のみなさん!
介護保険料って、住んでいる市町村ごとに違うってご存じでしたか?
朝日新聞デジタルでは、あなたのまちや、となりのまちの保険料をすぐ調べられるマップをつくっています。そして新たに、「各市町村の高齢者が、1人あたりで計算して月額どのくらい介護保険を使っているか」(1人あたり給付費)を計算して、マップに追加しました。全国の市町村のうち高い方から数えて何位なのか、ランキングもわかります。(「マップを使ってみよう」のタブを押すと移動できます)
介護保険料の金額は、お手元にも届いています。年金を受け取っている人は振込通知書を見てください。2カ月に1度振り込まれる年金。そこから毎回、2カ月分が「天引き」されているあれです。3年ごとに見直されていて、今の月額は全国平均で5514円ですが、一番高いところは8686円、安いところは2800円。なんと3倍以上の差があるのです。
それは、なぜでしょう? 端的に言えば、市町村ごとに「使っている介護サービスの額」が違っているからです。たくさん使えば保険料は高くなりますし、少なければ安くなります。その目安になるのが「1人あたり給付費」です。
わがまちの介護保険は、ほかと比べてどう違うのか。自分でチェックしてみませんか? そして、「高齢ニッポン」の行方について考えてみませんか。
2018年4月、介護保険料は3年ぶりに改定されます。ほとんどの市町村では値上げとなるでしょう。どのくらい費用を見込んで、どのくらい保険料を集める必要があるのか。各市町村で議論されます。
そもそも介護保険ってなんでしょうね?
簡単にいえば、介護が必要になったときのために、みんなでお金をいれておく「お財布」のようなものです。介護が必要になると、この「お財布」のお金を使って、自宅で訪問介護サービスを受けたり、デイサービスに行ってお風呂に入れてもらったり、特別養護老人ホームで介護を受けたりするわけです。介護が必要になっても困らないように、みんなで助け合う仕組みとも言えます。
「お財布」の姿をグラフでご覧下さい。
(介護サービス費用=介護給付費+自己負担(1~2割))
介護保険を使ってサービスを受けると、自己負担がありますね。普通はサービスにかかったお金の1割です。所得が一定以上あれば2割負担になります。2018年には3割になる人も出る方向で、制度変更が進んでいます。
残りの部分が「お財布」です。ここから出ていくお金を介護給付費といい、半分は税金から用意します。あとの半分は保険料、つまり介護保険のために特別に集めるお金で賄うことになっています。
この保険料には2種類あります。一つが「第1号保険料」で、65歳以上の加入者が自分の住んでいる市町村に払います。ほとんどの年金をもらっている人は天引きされています。もう一つの「第2号保険料」は、40歳から64歳までの人が健康保険料と一緒に払っています。このお金はいったん全国でプールされた後、介護給付費の約3割という一律の基準で各市町村に配られます。
今回とりあげるのは、65歳以上の人が払っている第1号保険料の方です。介護保険は、市町村が主体になって運営しています。東京では23区もそれぞれ独立した運営者。いくつかの市町村が集まって運営しているところ(広域連合などと呼ばれます)もあります。保険料は、お住まいの市町村によって金額が異なります。
では、第1号保険料はどう決まるのでしょうか?
各市町村は、住民から第1号保険料を集めて、介護給付費の約2割を賄うことになっています。ざっくりいえば、まずどのくらい介護サービスが使われるのか予想して、それを65歳以上の人数で割れば平均の保険料(基準額)が出てきます。今回、マップでお示ししているのは、基準保険料の月額です。65歳以上のあなたが実際に払っている保険料と、マップに表示される基準保険料はおそらく違います。実際に支払う保険料は、年金や給料など所得が高い人には多く、低い人には少ない額が請求されるからです。
介護保険料は、保険を運営する市町村の住民が、どのくらい介護サービスを使っているかに応じて、変わります。当然、たくさん使えば高くなりますし、ちょっとしか使わなければ低くなります。市町村ごとに、介護保険の給付費を65歳以上の加入者の総人数で割り、さらに12で割って月額を算出したのが「1人あたり給付費」です。
この額は、介護サービスを使っている人だけでなく、使っていない人も含めた給付費の平均ですから、実際に介護サービスを使っている人の給付費はこれよりもかなり高くなります。
さて、今回、朝日新聞デジタルでご用意したのは、みなさんがお住まいの市町村の保険料(基準額)、1人あたり給付費、高齢化率がすぐに分かるマップです。市町村をクリックすると、今の2015~2017年度(第6期)とその前の2012~2014年度(第5期)の保険料月額、給付費(2014年度の月額平均)、高齢化率(2015年)を示すボックスが開きます。
ボックスを閉じてから、マウスでマップをなぞると、カーソルのある市町村のデータがマップ上部に表示されます。それぞれの項目をクリックするとデータが切り替わります。マップは保険料や給付費が高い市町村ほど色が濃く、低いほど薄くなるようにしています。まわりと比べて、わがまちの保険料や給付費が高いのか低いのか、調べてみてください。各市町村の保険料と給付費が、全国で高い方から数えて何番目なのか、順位も分かるようにしました。操作方法については、デモ動画や使い方をご覧ください。
2012~14年介護保険料 |
平均4972円
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2015~17年介護保険料 |
平均5514円
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1人あたり給付費 |
平均21145円
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高齢化率 |
平均26.8%
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2012~14年介護保険料 |
平均4972円
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2015~17年介護保険料 |
平均5514円
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1人あたり給付費 |
平均21145円
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高齢化率 |
平均26.8%
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※お使いの環境によって、正しく表示されない場合があります
※2012~2014年度のマップは「第5期の第1号保険料基準額」、2015~2017年度のマップは「第6期の第1号保険料基準額」、高齢化率マップは2015年10月1日時点の推計値を元に作成。いずれも厚生労働省集計「第6期計画期間・平成37年度等における介護保険の第1号保険料及びサービス見込み量等について」から。1人あたり給付費のマップは、平成26(2014)年度介護保険事業状況報告(年報)から。保険者別の年間給付費は、「介護保険事業状況報告(年報)第8-1表 保険者別 保険給付 介護給付・予防給付 総数 -給付費-」の「総数 合計」を使用(高額介護サービス費、高額医療合算介護サービス費、特定入所者介護サービス費、審査支払手数料は除外)。広域連合などに所属する市町村については、個別に数値の提供を受けました。
さて、わがまちの保険料と給付費はいかがでしたか?
それぞれの自治体のお年寄りが、サービスをたくさん使えば負担する保険料は高くなるし、ちょっとしか使わなければ安い。介護保険はそんな仕組みになっています。
どの自治体でも、保険料より給付費が多くなっています。しかし、その倍率(給付費÷保険料)には差があります。一番、倍率が高いのは沖縄県の粟国村で約6.7倍、一番低いのは東京都の小笠原村の1.9倍でした。ほとんどの自治体が、3~4倍台です。
なぜ、このような差が生まれるのでしょうか。
その理由は、高齢化と住民の所得の状況によって保険料の格差が出ないよう、国が配るお金を調整しているからです。具体的には、高齢者のうち75歳以上の「後期高齢者」の割合が高い自治体ほど、所得の低い人が多い自治体ほど、たくさんお金(調整交付金)を配ります。
この結果、保険料は、「高齢者のうち介護が必要な人の割合はどのくらいか」「1人あたり、どのくらい介護サービスを利用しているか」という二つの要因で差が生まれるようになっています。単にお年寄りの数が多いとか、お金持ちが少ないということで保険料が高くなることはありません。
このような仕組みにすることで、「住民がたくさんサービスを使っている市町村では、保険料がより高くなるんですよ」という関係を見えやすくしているのです。
順位 | 自治体 | 保険料 | |
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1 | 奈良県天川村 | 8686円 | マップで見る |
2 | 福島県飯舘村 | 8003円 | マップで見る |
3 | 奈良県黒滝村 | 7800円 | マップで見る |
3 | 岡山県美咲町 | 7800円 | マップで見る |
5 | 福島県双葉町 | 7528円 | マップで見る |
6 | 福島県三島町 | 7500円 | マップで見る |
6 | 福島県大熊町 | 7500円 | マップで見る |
6 | 福島県葛尾村 | 7500円 | マップで見る |
9 | 青森県三戸町 | 7450円 | マップで見る |
10 | 福岡県介護保険広域連合(Aグループ) | 7369円 | マップで見る |
※福岡県介護保険広域連合(Aグループ)に含まれる自治体は福岡県田川市、糸田町、川崎町、大任町、福智町、香春町、赤村、東峰村
全国で介護保険料(基準額)の低い順と高い順に、並べてみました。
一番安い鹿児島県三島村は、本土から40~50キロ離れた三つの島で構成されています。人口は約400人。NHKの番組で「海外から移住希望が殺到した島」として紹介されたことがあります。
役場に電話すると、民生課の担当者が説明してくれました。「村内に民間の介護事業者はいません。村がヘルパーを雇っていますが、訪問介護を受けているのは1~2人です。特養などの施設もなく、必要なら本土の施設に入っています」
一方、一番高い奈良県天川村。第6期の保険料が一気に1.8倍も上昇したことについて、「病気やけがなどで施設へ入所する人が急激に増えた」ことや、基金(貯金)を使い果たしたことが理由とホームページで説明しています。
ただ、気になる点があります。厚生労働省の地域包括ケア「見える化」システム(http://mieruka.mhlw.go.jp/)で調べてみると、確かに三島村の人が介護保険を使う額は天川村の6割程度と少ないのですが、本来、介護の費用を賄うのに必要な保険料は6327円(2016年7月現在)となっていました。現在の保険料2800円の倍以上です。2014年度以降、給付費が急に伸びていて、それを踏まえて必要保険料を計算したら高くなったようです。2018年4月以降は、天川村と同じように、保険料が一気に値上げされる可能性があります。
「わが町」の介護保険の詳しい中身を知りたい方は、厚労省のサイトもご覧になってください。
原発事故で大きな影響を受けた福島県相双地域では、保険料の高い町村が目立ちます。帰還困難区域に住んでいた人などには保険料や自己負担分を減免する特例がありますが、これがなくなったら払えない人が急増するのではないかと心配する声もあります。
介護保険は2000年度にスタート。それから3年に1度、保険料が変更されてきましたが、どんどん高くなっているのが上のグラフを見ると分かります。理由は簡単で、使われる介護サービスの量がどんどん増えているから。2000年度は3.6兆円でしたが、今の2015~2017年度は10.4兆円が見込まれています。背景には、お年寄りの数が増えていることがあります。介護サービスを使うのは75歳以上の後期高齢者が多いのですが、スタート時では900万人だったのが、今や1600万人を超えているのです。団塊の世代が全員75歳以上になる2025年度には、保険料は今よりさらに5割ほど増えて8千円を超すと見込まれています。
今の介護サービスを維持したり、充実させたりするには保険料を引き上げる必要があります。しかし、その負担は実額で示されていてわかりやすく、また年金から天引きされることから年金額との比較で「もう引き上げは限界だ」という声も強くなってきました。どうすればいいのでしょうか?
いま、介護保険の元締である厚生労働省は、保険料の引き上げ額を抑えるため、介護保険の「お財布」から出ていくお金をできるだけ少なくしようとしています。介護保険を使うための条件を厳しくする、保険の対象となるサービスを減らす、利用者の自己負担も増やす……。そんな方向で制度変更が進みます。
ただ、あまりやりすぎると、「せっかく保険料を払っているのに、全然使えないじゃないか」という不満が高まりかねません。
介護保険は介護サービスを受ける要介護者やその家族にとってはとてもありがたい制度です。しかし、要介護ではない、つまりサービスを受けていない高齢者にとってはそのありがたさを実感することが難しく、保険料の負担の方が切実かもしれません。
でも、だれもが、要介護状態になり得ることを思い起こし、せっかく作った制度を維持するためには、どうやって、「お財布」に必要なお金を入れ続けるのか。そのお金の元手は保険料なのか、税なのか。誰が払うのか……。これからも様々な議論が必要です。その土台となるのが、「わがまちの保険料と給付費」なのです。
【取材】海東英雄、坂本真子、友野賀世、浜田陽太郎
【制作】吉川晋作、小林由憲
【協力】堤修三・長崎県立大学特任教授、三品智子
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わがまちの介護保険料