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企画・制作 朝日新聞社メディアビジネス局

片岡安祐美さん
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田中理恵さん

韓国ドラマ「梨泰院クラス」で注目を集めた女優イ・ジュヨンが主演を務め、プロ野球選手を目指す女子高生の奮闘を描いた韓国映画『野球少女』。その3月5日(金)の全国公開を前に、茨城ゴールデンゴールズの選手兼監督として活躍する片岡安祐美さんと、元体操女子日本代表の田中理恵さんによるスペシャル対談が実現。同じアスリートであり、プライベートでも仲の良い2人が熱く本作を語り合いました。

夢をかなえるため
頑張る主人公にグッときた

田中 高校時代、天才野球少女とたたえられたチュ・スインは、プロ野球選手を夢見て逆境に立ち向かいます。その姿に励まされながら、安祐美さんもこんな大変な経験をされてきたのかなと想像していました。

片岡 私は天才ではなかったですが、「野球少女」と言われ、ずっと男子に交じって野球をやっていました。高校の野球部では男子部員80人に対して女子は私1人。結局、プロ野球選手になれませんでしたが、社会人野球というフィールドで今も野球を続けているのもあり、結構自分を重ね合わせて観(み)ていました。

田中 私も元アスリートなので共感する部分が多々ありました。まず「私にも分からない私の未来が、なぜ他人に分かるのか」というスインの強い意志にしびれました。何よりグッときたのは「長所を伸ばして自分の武器にすればいい」というセリフ。私は中3の時、身長と体重が一気に増えて体形が変わってしまって、「これではもうオリンピックは無理」と絶望していた時、先生が「田中理恵だけの体操を作ったらいいんだよ」と言ってくれた。得意の表現力を磨けば、ダイナミックで美しい、私らしい体操を目指せる。そう気づいてから、がぜん練習が楽しくなったことも思い出しました。

片岡 私にも似た経験があります。小学生の頃はホームランをたくさん打てたのに、中学に入った瞬間、全然打てなくなってしまった。「もうこの世界では生きていけないかも」と悩んでいた時、先生が「ホームランを打つことだけが野球ではない。出されたサイン通りにきちんと決めることの方が大切だ」と。そこから自分のプレースタイルを変えました。その教えがあったからこそ日本代表にもなれたし、今、監督もできているのだと思っています。

諦めない気持ちには、
「反対」を「声援」に変える力がある

田中 スインは最初、母親からも周囲からもプロを目指すことを猛反対されます。安祐美さんも野球をやることを反対されたんですか?

片岡 9歳で初めて親に「甲子園に出たい!」と話した時は猛反対でした。母親は「私は男の子を産んだ覚えはありません」と言ったきり、口も聞いてくれなかった(笑)。でも、それ以降はずっと支えてくれています。理恵ちゃんは?

田中 私は高校時代、ずっと体操の練習をサボっていて成績を残せなかったのですが、大学で一念発起して頑張ったら結構良い成績を出せるようになったんです。それで4年の時「3年後のロンドンオリンピックを目指したい」と父に話したのですが、反対されました。女子体操選手って多くは大学卒業と同時に引退するんです。「どうして続けるのか」と言われて大げんか。でも、私の熱い気持ちを理解し、最終的には「お前がやりたいように頑張れ」と背中を押してくれました。

片岡 スインの母親も反対し続けるのですが、それはスインを思ってのこと。厳しい現実を教えてくれるのも親で、でも、本気の熱意を持ってぶつかれば応援してくれるのも親なんだなと、映画を観ながら改めて思いました。

田中 本当にそう。私も父と話してから気持ち良く体操に向き合えました。

片岡 本気の情熱には、反対していた人の心を動かす力がありますよね。スインのコーチも、男の自分がプロになれなかったのだから女性のスインがなれるわけがないと思い込んでいた。でもスインが夢を諦めるどころか、周囲の反対にも揺るぐことなく黙々と自主練する姿を見て彼女をサポートすることになるんですよね。

田中 バスの中でコーチの気持ちが切り替わるシーン、すごく良かった。親だけでなく、監督やコーチの存在もアスリートにとっては本当に大きいですよね。私も大学時代の監督とコーチがいなかったら今の自分はいないなと思うほどです。

片岡 スインも最初は意地を張っていたけど、コーチに対して少しずつ素直になっていきます。自分のやりたいことを貫き通すことも大事だけど、それだけではなく素直になることも大切だなと気づかされました。

性別の壁を越え、
自分の方法で夢を実現することが大切

田中 スインがプロチームのトライアウトに申し込もうとした際、受付で女子というだけで相手にされなかったのですが、安祐美さんも同じような経験はありますか。確か高校時代、甲子園大会に出場できなかったんですよね?

片岡 私は特例という形で高校球児になることはできましたが、あくまで練習生扱い。従って甲子園はおろか、練習試合も対戦相手の監督の許可が下りないと出ることはできませんでした。

田中 そうなんですか! それは驚きです。

片岡 はい、だからもう途中で気持ちを切り替えました。私自身が甲子園の土を踏めなくても、男子と一緒に練習してチームが甲子園へ行けば、私の夢はかなったことになると。その夢は実現しませんでしたが、どんな形でも、死ぬまでに絶対かなえたい夢なので、今も思い続けています。

田中 すごい! 女子野球世界大会で優勝を経験されていても、安祐美さんにとって甲子園は別格、永遠の憧れなんですね。ところで、映画の中でスインはトイレの一室を更衣室にして着替えていましたが、あれも経験あり?

片岡 全然あります。球場によってはロッカールームがないのはもちろん、女子トイレがない所もまだまだありますから。

田中 えーっ! それはつらすぎる。もっと女子の野球選手が増えるといいのかな。それで女子野球が広まって、球場も女性に快適な環境づくりに力を入れてくれるでしょうし。

片岡 女子の野球選手は実は徐々に増えてきていて全国に何千人もいます。実際に、スイン同様男性選手の中で野球を続け、さらに上をめざすためにナックルボールを習得した「ナックル姫」こと、吉田えり投手もいます。彼女は日本人女性初の米独立リーグの選手になり、今も頑張っています。他にも海外で野球を教えている女性もいます。「女子だからプロ野球は無理、だから諦める」ではなく、好きだからどうすればやれるのか、それぞれ自分なりの方法を見つけているわけです。

田中 なるほど。安祐美さんや吉田選手の活躍も女子野球を広めるきっかけになりそうですね。

片岡 ただ、私たち世代が女子野球を始めたわけではなく、ずっと前からの歴史があったんです。先人たちの切り開いてくれたものがどんどんつながって、今のこの環境があるんだなと思っています。

観終えた後、
ここからがスタートと思える爽やかな映画

田中 スインを演じたイ・ジュヨンは今話題の韓国ドラマ「梨泰院クラス」にも出演している旬の女優ですよね。彼女は約40日間、韓国独立リーグの野球選手と一緒に訓練を受け、全シーンをスタントなしで撮影したそうです。

片岡 すごすぎる! 彼女、ナックルを投げていましたが、かなり難しいんです。

田中 それだけジュヨンも本気でスイン役に向き合っていた。だから韓国では多くの方が公開と同時に映画館へ駆けつけたそうです。

片岡 私はスインのその後をめっちゃ妄想していました(笑)。韓国プロ野球の2軍に入ったスインは、その後どんな活躍を見せるのか、もしかしていつか韓国代表としてワールドカップとかに出場するまでになっているんじゃないかなって。

田中 女子野球選手の安祐美さんらしい本作の楽しみ方ですね。私は、このコロナ禍では一人を感じることが多いけど、でも私たちは決して一人ではないということ、そしてみんなで支え合うからこそ未来は開けていくんだなということを思いました。

片岡 スポーツでなくても、夢を追いかけて堂々と直進する姿って本当に素晴らしい。大人になると周囲の目を気にして言いたいことが言えなかったり、自分には無理だと思ってしまったり。でも誰にも「私はこうなりたい」と思っていた時代があったはず。そこを思い出させてくれる映画です。

田中 観終えた後、すがすがしい気持ちになりました。ああ、ここからがスインのスタートなんだなと思えたし、同時に「ああ良かった、私も頑張ろう」という気持ちになりました。素敵な映画なので多くの人に観てほしいです。

■片岡安祐美さん 茨城ゴールデンゴールズ選手兼監督

かたおか・あゆみ/1986年熊本県生まれ。8歳から野球を始める。甲子園を目指して県立熊本商業高校で野球部に所属するが、公式戦出場はならなかった。一方、2002年から4年連続で女子野球日本代表として活躍。高校卒業後は萩本欽一監督創設の社会人硬式野球クラブチーム・茨城ゴールデンゴールズへ入団。11年監督に就任。14年に第39回全日本クラブ野球選手権大会でチームを優勝に導く。

■田中理恵さん 元体操女子日本代表

たなか・りえ/1987年和歌山県生まれ。6歳から体操を始める。2010年世界体操競技選手権大会でロンジン・エレガンス賞を日本女子で初受賞。12年に3兄弟そろってロンドンオリンピックに出場。団体の2大会連続決勝進出に貢献し、個人総合では16位の成績を収めた。13年現役を引退し、テレビやイベントなどに出演。現在は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の理事を務める。

最高球速134キロ。天才野球少女とたたえられてきたチュ・スイン。高校卒業を控え、プロ野球選手になる夢をかなえようとするが、「女子」という理由でプロテストすら受けられない。周囲からは諦めて現実を見ろと言われるが、「私にも分からない私の未来が、なぜ他人に分かるのか」とスインは自分を信じ、突き進もうとする。そんなスインの姿に心を動かされた新任コーチが、今までとは真逆の特訓を開始する。次々と立ち塞がる壁を乗り越えたスインは、ついにテストを受けるチャンスをつかむのだが――。

イ・ジュヨン
(プロを目指す天才野球少女 チュ・スイン)

イ・ジュニョク
(プロになれなかった高校野球部コーチ チェ・ジンテ)

ヨム・ヘラン
(厳しい生活を送る一家の稼ぎ手 スインの母)

ソン・ヨンギュ
(娘を信じている万年受験生 スインの父)

クァク・ドンヨン
(スインのチームメイト イ・ジョンホ)

チュ・ヘウン
(アイドルを夢見るスインの親友 ハン・バングル)


監督・脚本:チェ・ユンテ

2019年/韓国/韓国語/105分/スコープ/カラー/5.1ch/英題:Baseball Girl /日本語字幕:根本理恵

配給:ロングライド