
「おかあさんコーラスは、それぞれが“特別な私”になれる、きらきらした空間」。数々の合唱曲を手掛け、様々なコンクールで審査員を務めてきた作曲家・上田真樹さんは語ります。
上田さんが、初めておかあさんコーラス大会の選考委員として参加したのは、2013年の第36回大会。一般的なコンクールであれば審査員席に置かれているはずの楽譜がないことに疑問を感じていると、同じく選考委員だった浅井敬壹氏(現・全日本合唱連盟相談役)から「楽譜を見ているヒマはないよ、何が起こるか分からないんだから」と言われたそうです。
目をこらして舞台上を見ていると、そこでは驚きの光景が繰り広げられていました。「あっという間に早着替えをしたり、フォーメーションを組んで踊ったり。生き生きと歌うみなさんに衝撃を受けました」。
衣装や振り付けなど、参加団体の個性も重視されるおかあさんコーラス大会では、選考委員の間でもさまざまな角度からの意見が飛び交います。しかし、本人たちが楽しんで表現をしていることが何よりもうれしいのだとか。「次は何が来るんだろう、って一人の観客として楽しませてもらっています。お祭りみたいです」と上田さんは笑顔で大会を振り返りました。

上田さんによると、参加団体の個性はエントリーする地域性も表れるといいます。「例えば西の方の団体は、高い合唱の技術を土台にしつつ、さらに衣装や演出などのパフォーマンスで観客の心を掴みにきます」。一方で、「東の方では、音楽そのものをきわめてきたという印象の団体が多い」そう。「響きの作り込みや、統制された合唱の美しさで勝負する団体が目立ちます。こうした地域性が、声の響き方や音楽表現にも自然と表れているのが面白いですね」と語ります。
大会には、歌謡曲からポップス、ミュージカル、日本語の合唱曲、さらには荘厳なラテン語の宗教曲まで、多様なジャンルの音楽が集います。だからこそ、上田さんは「いろんなスタイルにトライしてほしい」と参加者の背中を押します。「これが私たちのスタイルだから、と決まったジャンルや曲調を追求するのも素敵ですが、大会で観客を魅了している団体の中には、曲ごとに世界観をガラッと変えるところも多い。1曲ごとに違う主人公を演じるような魅力が、観客に特別感を与えます」と話します。「他団体の合唱を観て聴いて、刺激を受けながら、ぜひ意欲的にチャレンジして欲しいですね」とアドバイスを送りました。

2024年より、出演人数の2割未満であれば男性の参加が可能となったおかあさんコーラス大会。上田さんはそこに、可能性の広がりを感じています。「男性の声が加わることで、重厚感や支えが生まれる。女声合唱ならではの繊細で透明感あふれる合唱を目指す団体もあれば、より深みのある響きを求める団体もありますし、それぞれ目指す音楽に男性が加わることで、新たな表現の幅が生まれるかもしれません」。新しい挑戦への扉が開かれたことに胸を躍らせます。
おかあさんコーラス大会は、リピーターが続出する歴史ある大会です。上田さんは、その魅力について「おかあさんコーラス大会には、演奏だけでなく、選曲から衣装、演出にまでこだわった“総合プロデュース”の情熱が詰まっています」と力強く語ります。「あの曲を歌ったときには、あの衣装でこんな演出をしたよね、こんな意見が出たよね、といった思い出が深く記憶に残るんです。それだけ一生懸命に取り組むからこそ、クセになる魅力があるのだと思います」
また、参加を悩んでいる方に向けて「まずは観に行く、そして気になったら思い切って参加してみる。参加すると意外と『私たち、いけてるかも』と気づくかもしれません。その次は『もっとこうしたい』と新しい目標が見つかって、大会の虜になっているはずです」と温かいメッセージを送りました。
(2024年12月掲載)
作曲家・上田真樹さん
東京芸術大大学院修了。第18回朝日作曲賞(合唱組曲)受賞。「夢の意味」「鎮魂の賦」など多くの合唱作品を作曲している。

