
「大会の魅力は"多様性"です」。20年以上にわたり選考委員を務めてきた作曲家・ピアニストのなかにしあかねさんは語ります。
「コンクールと違って、いろいろな活動のあり方が共存共栄できる。それぞれの輝き方を出せるのが、何よりいいところです」。音楽性を追求する団体もあれば、パフォーマンスで魅せる団体もあり、選曲も多彩な大会。「同じ合唱団でも、去年と全く違うアプローチに挑戦するのもいいですね。アイデア次第で、自分たちの表現がどんどん深まっていきますよ」と参加者たちの背中を押します。
海外での活動経験も豊富ななかにしさんは、女声合唱でこれほど盛り上がる大会は世界的にも珍しいと指摘します。「留学していたイギリスにも合唱祭はたくさんありますが、女声合唱だけの大会はあまり見たことがない。世界に誇る存在だと思います」

なかにしさんが大会にかかわる中で感じるのは、合唱を愛する人たちが心を一つに、おかあさんコーラスのステージに向かって歩む時間の尊さだと言います。「本番に向けて皆でがんばる時、人は思わぬ力を発揮します」と、一つのエピソードを交えて語ってくれました。
「ある合唱団の団員が病気で入院した際、大会用の衣装を病室に掛け、毎日眺めながら闘病されていました。団の仲間は練習の報告をしたり映像を見せたりと、病室に通い続けました。そしてその方は、医師の告知より半年も長く生き抜いた。大会の華やかさだけでなく、そこに至る過程での友情、長年培ってきた誇り、一つの作品を作り上げた達成感。それが一人一人の人生に深く刻まれていく。これは他の何にも代えがたいものです」
なかにしさんが教壇に立つ神戸女学院大学は、2025年10月に学院創立150周年を迎えました。創立の1875年は、日本に合唱が入ってきた時期とほぼ重なるのだそう。「合唱受容は教会での賛美歌から始まったと言われています」となかにしさん。大会では宗教曲もよく歌われています。
宗教曲を歌う際のポイントは、「あなたの奏でる時間と空間の上に、おおいなるものの存在を感じること」。「合唱は他者と声を合わせ、心を合わせる営みです。そこに、今日歌える喜びと感謝、敬いの姿勢が加わると、空間の広がりが全く違ってきます」と穏やかに語ります。
さらに、想像力の大切さについても力を込めます。「公民館や小さなスタジオで練習していても、曲の世界観をイメージするだけで声の響きは変わります。想像・創造は、人間に与えられたクリエイティブな能力です。言葉のある歌を歌うことは、本当に文化的な活動です」

2024年の第47回大会からは、出演人数の2割未満であれば男性の参加も可能になりました。「女性の社会における位置付けや役割は時代とともに変わります。ジェンダーも含め、世の中全てが多様性を受け入れる方向に動いています。この大会は「女声」に特化しているからこそ、多様性が顕著に見えやすく、発揮しやすい。合唱を通して、それぞれの参加者が多様なあり方を体現していますね」
第1回大会から半世紀が過ぎようとしています。なかにしさんは期待します。「これからの時代、世の中の変化はもっと激しくなるでしょう。その中で、合唱という伝統ある文化の担い手として柔軟に、優雅に、そして品位を持って歌い続けてほしいです」
なかにし・あかね
東京芸術大学音楽学部作曲科卒業。ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ大学院にて作曲修士号、キングスカレッジ大学院にて作曲博士号を修める。第66回日本音楽コンクール作曲部門第1位及び安田賞受賞、国際フランツ・シューベルト作曲コンクール入賞他。国内外の音楽祭、放送局、演奏団体から作曲依頼を受け、歌曲伴奏者としても複数のCDが『レコード芸術』特選盤に選ばれているほか、指揮、指導、審査員、講習会講師、執筆活動など、音楽文化を多角的にとらえた活動を展開している。平成17年度文化庁在外研修員。現在、神戸女学院大学音楽学部、同大学院教授。音楽学部長。

