座談会・インタビュー記事

40代前半から始まる更年期
症状感じたら婦人科へ行こう

閉経前後の10年間は女性なら誰でも経験する更年期。女性ホルモンの分泌の急激な変化により多種多様な症状が出現します。それらの症状や程度は個人差が大きく、人知れず悩む人が少なくありません。更年期症状に対する効果的な治療法として、HRT(ホルモン補充療法)が注目されていますが、多くの女性は治療できることを知らず、つらい症状をやり過ごしています。そこで、更年期世代であるフリーアナウンサーの町亞聖さんが、Inaba Clinicの稲葉可奈子院長に更年期症状の特徴やホルモン補充療法を中心とした治療法、そして私たちにできる医療について尋ねました。

女性ホルモンの分泌の急激な変化で出現する
症状・不調・つらさは人によって違います

町亞聖さん(以下、町さん) 最初に更年期症状について詳しく教えてください。

稲葉可奈子院長(以下、稲葉院長) 更年期症状は、女性だけでなく、男性にもみられます。両者を比較すると、女性のほうが圧倒的に強い影響を受けます。これはホルモン分泌の変化の違いによるものです。男性ホルモンの分泌は生涯を通してなだらかに減っていきますが、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌は閉経前後にガクンと減少します。それも一直線に下がるわけではなく、上がったり下がったり大きくゆらぎながらホルモン分泌が減少するため、その急激な変化に体が反応し、さまざまな不調が現れます。これらが更年期症状と呼ばれるもので、人によって出現する症状は千差万別で、そのつらさの程度も違います。

女性ホルモン(エストロゲン)の変化

イライラ、抑うつ、落ち込みとともに
生活面で不便になることもあります

町さん ホルモン分泌が単に減少するだけでなく、急激に変化することが問題なのですね。私の周りにもホットフラッシュ(ほてり、のぼせ、発汗)に悩んでいる知り合いが少なからずいます。

稲葉院長 更年期症状として最も知られているのは町さんが今、挙げられたホットフラッシュです。そのほか、頭痛、肩こり、動悸(どうき)、不眠など多種多様な症状が起こります。生活面で不便になることが多いのは関節痛で、包丁が握れない、ペットボトルのふたが開けられないなど困っている人は少なくありません。

町さん 更年期にかぎらず、初潮を迎えてから閉経するまで女性ホルモンの影響を強く受けるのは、女性なら誰しも大なり小なり実感していることだと思います。実は、私も生理前になると寂しくなって涙が出ることがあります。生理が始まると普段の私に戻るので、女性ホルモンの影響だということはよくわかっているつもりです。

稲葉院長 それは明らかに月経前症候群(PMS)ですね。更年期症状にもPMSと同様のイライラ、抑うつ、落ち込みといった精神症状がよくみられます。両者が大きく違うのは、PMSは生理が始まると消失するのに対し、更年期症状はこれらの症状が持続することです。といっても更年期の間だけで一生続くものではないのでご安心ください。でも、一時的なものだから我慢した方がよい、というわけでもないので、我慢せずにご相談ください。

エストロゲンの減少による主な症状

女性たちが更年期をオープンに語ることによって
ネガティブなイメージを払拭しましょう

町さん そもそも更年期とは、いつ頃始まり、どのくらい続くのでしょうか。

稲葉院長 更年期とは閉経前後の10年間を指します。日本人女性の平均閉経年齢は50歳なので、一般的には45〜55歳頃が更年期にあたります。ただし、閉経年齢や更年期の期間も個人差が大きいため、40代前半あるいは50代半ばから更年期が始まる人もいます。また、期間も10年とは限らず、その長さはまちまちです。

町さん 更年期は、症状をはじめ、何もかも個人差が大きいことがよくわかりました。人と比べる必要はない一方で、他人に自分のつらさをわかってもらうのは難しそうです。

稲葉院長 更年期は、思春期と同じように誰もが通っていくステージです。しかし、日本人は「更年期」という言葉にネガティブなイメージを持っていて、当事者がオープンに話せない空気感があります。

町さん 同感です。更年期の女性同士でも「実は、私……」と打ち明けるように話しますし、ましてや家庭や職場では、更年期症状に悩んでいることを伝えづらいですね。けれど、更年期症状によって本来のパフォーマンスが低下し、家事や育児、仕事に支障をきたすことがあるので、パートナーや職場の人たちには理解してもらうことが大事だと思います。だからこそ、更年期の女性が自分の状態についてオープンに語れることが重要で、当事者が語らないと周りの人にはわかってもらえません。

稲葉院長 女性たちがオープンに語ることによってネガティブなイメージも払拭できることを期待します。「今から更年期が心配です」と30代後半から不安を抱える女性が少なからずいて「何か予防できることはありますか」という質問もよく受けます。それは今、悩むことではないので「更年期になってから、何らかの不調や症状でつらいときは、いつでも婦人科に相談に来てください」とお伝えしています。ホットフラッシュのような典型的な症状がなくても生活がうまく回らないときは更年期症状の可能性があり、決して遠慮しないでほしいです。更年期症状を改善する治療法はありますから。他人にわかってもらえないからといって自分のつらい症状を我慢する必要はないのです。

少量のエストロゲンを補充するだけで症状はかなり改善します

町さん 更年期症状は治療できるのですね。具体的にはどのような方法がありますか。

稲葉院長 更年期症状の治療では、問診によって患者さんのつらい状態・状況を十分に聞き取ったうえで、生活習慣(食事、運動、睡眠)を見直し、セルフケアの指導を行います。また、カウンセリングや心理療法を行うこともあります。それでも改善しない場合には薬物療法を実施します。ホルモン補充療法(HRT)、漢方薬、向精神薬の三つの方法があり、このうち、根本的な原因にアプローチし諸症状を緩和するのがHRTです。

町さん 分泌が減ってしまった女性ホルモンを人工的に補う治療法ですね。

稲葉院長 そうです。少量のエストロゲンを補充するだけで症状はかなり改善します。特にホットフラッシュに対して有効性が高いといわれています。また、閉経以降は動脈硬化や骨量の低下が進みます。HRTはこれらの進行を防ぐことも期待されています。

町さん 人工的なホルモンを使うことに不安を持つ人がいます。薬の副作用は大丈夫でしょうか。

稲葉院長 HRTは更年期症状の治療法として国内外で数多くの研究が重ねられてきました。HRTに使用されるエストロゲンの薬には、飲み薬、貼り薬、塗り薬の三つのタイプがあります。このうち、貼り薬と塗り薬はエストロゲンが皮膚から吸収されて直接血液に入るため、肝臓への負担が少なく、血栓症の発症リスクを抑制できます。そのため、最近は貼り薬や塗り薬のタイプを選ぶことが増えています。

町さん エストロゲンがリスク因子となる子宮体がんや乳がんの発症リスクを心配する声もよく聞かれます。

稲葉院長 子宮内膜の増殖を促すエストロゲンの影響が長期間に及ぶと子宮体がんの発症リスクが高まります。子宮内膜が過剰に増殖するのを防ぐために黄体ホルモン(プロゲステロン)の薬も一緒に投与することで、子宮体がんのリスクが上がることを防ぎます。子宮をすでに摘出されている方の場合は、エストロゲンのみの補充で大丈夫です。一方、乳がんのリスクについては研究によってHRTの実施期間が5年未満の場合、実施しない場合と比較して明らかな差が認められないことがわかっています。HRTの実施期間が5年以上の場合も飲酒、喫煙、肥満といった乳がんのリスク因子と同等もしくはそれ以下であると報告されています。

町さん 乳がんにかかる人は増えていて女性の9人に1人が発症するといわれているので、誰がかかってもおかしくないですよね。

稲葉院長 そうなのです。HRT実施の有無にかかわらず、定期的に乳がん検診を受けることが大切です。

町さん HRTを受けられない人は、どのような方になりますか。

稲葉院長 エストロゲン依存性のがん(乳がん、子宮体がんなど)、血栓塞栓(そくせん)症や心筋梗塞(こうそく)の既往などがある方は使用できません。

ホルモン補充療法(HRT)が有効な主な症状

症状で本来のパフォーマンスが保てず
生活に困ったときには婦人科を受診しましょう

町さん HRTを行うことによって定期的に婦人科に通うことになり、医師に自分の体の相談をする機会が多くなるため、がんをはじめ、さまざまな病気の早期発見のチャンスが増えるようにも感じます。しかるべきタイミングで「検診に必ず行ってくださいね」と促してもらえるメリットもありそうです。

稲葉院長 一般女性の婦人科受診のハードルはとても高いようですが、実際はまったくそんなことはないので、気軽に相談に来ていただいて大丈夫です。初潮を迎えた10代からかかりつけの婦人科を持つことを強くおすすめします。女性ホルモンが深く関与する生理痛、PMS、妊活、更年期症状など、それぞれの年代ごとの悩みについて気軽に相談できる環境を整えておくことで、つらい症状を我慢することなく、毎日を楽しく過ごせます。

町さん それは更年期になってからでも遅くないですよね。

稲葉院長 もちろんです。生活に支障をきたすような更年期症状にはHRTという効果的な治療法があります。まず、そのことを知ってください。そして、婦人科受診のタイミングは、症状のせいで本来のパフォーマンスが保てず生活に困ったときです。受診したからといって必ず治療しなければならないわけではないので“買い物ついでに寄ってみた”くらいの気軽な気持ちで、婦人科にご相談いただけるとうれしいです。

婦人科受診のハードルを低くしたい

町さん 稲葉先生のクリニックがショッピングフロア(東急プラザ渋谷)の中にあることに感動しました。アクセスがよくて通いやすいですし、クリニックのエントランスもおしゃれで気軽に立ち寄れそうです。

稲葉院長 ありがとうございます。私は長年、総合病院で勤務しながら婦人科疾患に関する情報発信を行ってきました。この活動に取り組む中で「婦人科を受診したほうがいいことはわかっているけれど行きたくない」という声がとてもたくさん届き、あらためて一般女性の婦人科受診のハードルが高いことを痛感しました。それで、“買い物ついでに相談に行ける”婦人科クリニックを目指して2024年7月に開業しました。婦人科のイメージを変えたかったのです。

稲葉可奈子(いなば・かなこ)
Inaba Clinic院長。京都大学医学部卒業。東京大学大学院博士課程修了。京都大学医学部附属病院、東京大学医学部附属病院、三井記念病院を経て2024年より現職。日本専門医機構認定産婦人科専門医。
町 亞聖(まち・あせい)
フリーアナウンサー。立教大学文学部卒業。日本テレビにアナウンサーとして入社。報道キャスター、厚生労働省担当記者としてがん医療、医療事故、難病などの医療問題や介護問題を取材。2011年にフリーに転身。著書に両親を介護した体験をまとめた『十年介護』、すべてのケアラーに向けた『受援力』がある。元ヤングケアラー。
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