座談会・インタビュー記事
見過ごされている女性の更年期症状の治療
改善へ社会課題として取り組む時代

女性活躍と更年期症状との関係が、社会課題として注目されています。ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり・発汗)、手足の冷え、動悸(どうき)、不眠、落ち込みに悩まされ、家庭でも職場でも元気なときのようなパフォーマンスを発揮できず抱え込んでしまっている女性が多くいます。治療で改善できる時代に入っても、「医療機関を受診していない」女性が40代で81.7%、50代で78.9%います(厚生労働省 2022年の「更年期症状・障害に関する意識調査」より)。フリーアナウンサーの町亞聖さんが、日本産科婦人科学会常務理事で千葉大学大学院医学研究院(産婦人科学)の甲賀かをり教授に、なぜ、このようなすれ違いが起きているのか、その壁を突き破るためにはどうしたらいいかを聞きました。
医療政策だけでなく、
労働政策の面からも「極めて重要」
――日本産婦人科医会、日本産科婦人科学会、日本女性医学学会の3学会は、2025年12月10日、高市早苗首相、上野賢一郎厚生労働大臣、仁木博文厚生労働副大臣に「ホルモン補充療法治療管理料の新設に関する要望書」を提出※しました。
そこでは「令和6年経済産業省調査によれば、女性の健康課題における経済損失の総額は3.4兆円と報告されており、その内更年期症状による経済損失は約1.9兆円と全体の約56%にのぼり、女性特有の健康課題の中で最も大きな経済的影響を及ぼしております」と社会課題化していることを指摘。更年期症状を抱える多くの女性の健康課題を解決するため、海外で普及しているホルモン補充療法(以下、HRT)などの安全かつ適切な実施、および継続的な生活指導の普及は、「医療政策だけでなく、労働政策の面からも『極めて重要』」で政府として取り組みを一歩進めるように求めています。
※要望書提出の際には国立成育医療研究センター女性の健康総合センターの担当者も同席しました
更年期症状を自覚している女性の日常生活への影響
更年期症状や更年期障害による仕事のパフォーマンスの変化
女性側にある「婦人科に行きたくない理由」
町亞聖さん(以下、町さん) 更年期という言葉は認知されていますが、日常生活に支障が出ていても医療機関を受診しないのは、なぜだと思いますか。
甲賀かをり教授(以下、甲賀教授) いろいろな段階で壁があります。「生理現象だからしょうがない」と思っている人はまだ一定数います。言葉は知っていても「病気として医療機関に相談に行ってもいいものか」という人もいます。自分の悩みを相談することは、なんとなく恥ずかしいと思っている人もいます。いろいろなレベルで「婦人科に行きたくない理由」があります。
町さん つらくても我慢してしまっている人も少なくありません。更年期症状には治療法があることを知ってほしいですね。
甲賀教授 「医療の助けを求めていい」ということを知らない人や「病院や薬なんかに頼りたくない」という人もいるのが現状です。
町さん そうですよね。
甲賀教授 更年期を認めたくない、あらがいたいみたいな女性心理があるのかなと思います。「更年期です」とズバリ言われてしまうのも嫌ですよね。
町さん 「更年期」って、女性のライフステージの中でやっぱり複雑ですね。
甲賀教授 日本人は特にネガティブに捉えてしまいがちです。「私はつらいんだ」と言葉にしたり、告白しにくかったりすることもあると思います。
町さん 心理的、社会的にハードルがあります。
更年期症状を自覚し始めてから医療機関受診までの期間
「もっと早く通院を始めればよかった」
という声も聞かれます
甲賀教授 仕事を続けてきた女性も、ここからもっとがんばるのか、ここで役職定年するのか、岐路に立たされる時期でもあります。
町さん 出産年齢が遅くなってきているので、子育てと重なる人もいます。
甲賀教授 子どもの思春期と更年期が重なる人もいて、それはそれでとてもつらいという声を聞きます。
町さん 治療を受けた人は、その後、どのような感想を持たれていますか。
甲賀教授 早い人だと治療を始めて1週間ぐらいで症状が軽くなったり、なくなったりしたことから「もっと早く通院を始めればよかった」という声も聞かれます。人前だけでなく寝ているときにも汗をかいて眠れず、翌朝に不調を来す悪循環になっている人に、HRTは効きやすいとされています。
ホルモン補充療法(HRT)が有効な主な症状
更年期のかかりつけ医を探したいけれど
探せない現実社会があります
町さん 婦人科の受診には抵抗がある人が多いと思います。婦人科の症状や悩みなど自分のプライベートをさらけ出して相談しなければなりませんので、やはり医師との相性も大事だと思います。もし合わなかったら違う医師に相談しようという気持ちで、最初の医療機関を受診するといいですね。更年期とは長く付き合っていくことになりますので、1回や2回の治療で終わりません。かかりつけ医が見つかるといいのですが。
甲賀教授 更年期という病態があって、いろいろなメカニズムがわかってきて、どういう治療をしたらいいかということについては、最近新しいエビデンスが出てきたり、薬が開発されたりしてきています。ただ、医療現場においても、更年期に特化した治療をすごく専門的にやっている医師が日本全国にくまなくいるという状況ではありません。
HRTの治療の流れ
患者さんが抱えた課題を聞き向き合う診療は
今難しい環境に置かれています
町さん 更年期症状を抱える女性が、医療機関を受診することに対する「いろいろな壁」があるという実態と、更年期症状の相談や治療をする医療機関の受け入れ体制に課題があることが明らかになってきました。
甲賀教授 更年期は診療に時間がかかります。社会的なことも含めていろいろなお話を伺って、抱えている課題を抽出して、それに向き合って診療をしていくからです。専門的知識がある医師でも今はそれがやりにくい、医療機関や医師が置かれた環境があります。ゆっくり診るということが難しい環境です。
町さん 一生懸命な医師ほど厳しい環境に置かれているということもあるのですね。
甲賀教授 ジレンマに皆さん悩んでいます。エビデンスが出てきたり、新しい治療法が出てきたりして、働き盛りの女性に役立つ状況が整えられつつありますが、一方で現場の状況を考えると破綻(はたん)してしまうのではないかと危惧しています。わかりやすい病気とは違うので、やはり背景も含めてお話を伺い治療していくので、「3分診療」みたいなことができないのが、HRTの治療です。
町さん 女性も高齢者も働いている人が増えてきています。そういう意味では働く戦力として女性の健康を守る役目がありますね。
甲賀教授 企業の産業医が女性の健康に関するレクチャーをしているケースもありますが、そこで止まってしまっているのが現状だと思います。産業医が治療するということでもありません。
町さん 女性の健康管理の課題が社会的に放置されているという状況は見過ごせないですね。
甲賀教授 副作用なく使える薬の種類も増えてきています。皆さんが想像されるよりも安全な治療法だと思っていただいていいと思います。この治療法を採り入れた方が女性にとってベネフィットが大きいという考え方です。

更年期症状でキャリアや人生を
諦める女性をなくしたい
――女性が抱える課題で、それを自ら語りにくい、受診しにくい心理的社会的側面があることで、結果として女性の健康が放置されてしまっている状況を改善するためにはどうしたらいいのでしょうか。「ハルノヒ スマイルプロジェクト」は、更年期でも女性が日々を生き生きと過ごすために始まった、女性の更年期について考える新たなプロジェクトです。
甲賀教授 キャリアを築いてきて、これからももうちょっと頑張ろうというときに更年期症状が重なってしまい、例えば昇進を諦めたり、やりたい仕事を継続できなかったりすることが日本で起きているということは非常に残念なことです。助けるための手立てに政府が取り組まないのであれば、それは女性活躍の推進に相反するのではないでしょうか。
町さん 女性だけが声を上げるのではなく、男性にも理解してもらい、ともに声を上げてほしいですね。
甲賀教授 当事者の女性だけでなく、更年期前後の女性、そして更年期症状に悩む母親と日々接する子どもといった当事者の周囲の人たちにも啓発していくべきことだと思います。

千葉大学大学院医学研究院産婦人科学教授。日本産科婦人科学会常務理事。千葉大学医学部卒業。東京大学大学院医学系研究科修了。同大学院医学系研究科産婦人科学講座准教授を経て、2023年より現職。専門分野は生殖内分泌・女性医学。一般女性への啓発だけでなく、産婦人科医に向けた更年期症状の診断・治療の普及にも尽力している。日本生殖医学会生殖医療専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内分泌学会専門医・指導医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医・指導医。

フリーアナウンサー。立教大学文学部卒業。日本テレビにアナウンサーとして入社。報道キャスター、厚生労働省担当記者としてがん医療、医療事故、難病などの医療問題や介護問題を取材。2011年にフリーに転身。著書に両親を介護した体験をまとめた『十年介護』、すべてのケアラーに向けた『受援力』がある。元ヤングケアラー。
