座談会・インタビュー記事
更年期障害の対処は「話すこと」から
つらさを抱えないための対策を考える

めまいやホットフラッシュ(のぼせ)をはじめ、自信喪失に関節痛など、更年期には様々な症状が表れることがあります。目に見えない不調だけに「周囲に負担をかけたくない」と、治療・改善の道を閉ざしてしまう女性は少なくないようです。性差なく活躍できる社会を進展させるうえで、更年期障害は大きな課題の一つ。女性の更年期の健康と充実を目指す「ハルノヒ スマイルプロジェクト」が主催した、個人・医療・国における課題や取り組みを語らう特別座談会の模様をお届けします。
更年期障害は個人にも社会にも大きな課題に
町 日本では女性の健康課題における損失額が約3.4兆円あり、そのうち更年期障害が約1.9兆円を占めるといいます(※1)。原因はどのようなことなのでしょうか。
甲賀 働き盛りの女性が不調によってパフォーマンス低下状態に陥ること、あとは症状によって自信を失い、キャリアを手放してしまうことなどが挙げられます。
小宮 つらさが重なっている状況もありそうです。社会構造の変化に伴って初産年齢が上がり、子の思春期と母の更年期が重なって双方のメンタルヘルスが低下してしまうことも。
丸川 我が家はまさにその時期が重なった状態です。私自身は婦人科にかかっていますが、更年期症状の自覚がある人でも約8割が未受診(※2)というデータがあり、気がかりです。
甲賀 そうですね。受診していただくとまずは除外診断といって、他の病気による症状ではないかを調べます。受診に至らないと、サプリメントなどで対策した気持ちになってしまう人もいます。めまいで耳鼻科に行ってもわからず、関節痛で整形外科に行ってもわからず……という具合に、原因が掴めないまま医療機関をいくつも回ることになってしまうケースも。
丸川 医療問題に取り組んでいると、婦人科の数や質に地域差を感じることもあります。女性活躍を目指して政府が毎年策定している「女性版骨太の方針」に関連して、一般診療の現場における適切な対応や専門医とのより緊密な連携を目指す「女性のヘルスケアに関するガイダンス(中高年期編)」が作成されました。今後は研修などの体制を検討していくことになります。
小宮 とても意義があるものになったと思います。医療は地域ごとに特性があるものですが、こういう部分では均てん化が必要です。

甲賀 医療の受け皿がきちんとあることが大切ですね。日本産科婦人科学会や日本女性医学学会などでは、専門医を育成しようという学会活動を続けています。
町 現場で更年期障害の診療をされていて、どんなことを感じますか。
甲賀 手段は色々とあるのですが、ホルモン補充療法(以下HRT)などの治療を始めていただくと、やはり皆さん「楽になった」「もっと早くにかかればよかった」とおっしゃられます。塗り薬や貼り薬などの種類があります。
小宮 女性ホルモンが不足して起きている症状なので、そのようなかたちで補充してあげると変化が見られます。また一般にはなかなか知られていないのですが、骨粗しょう症や認知症の予防に関するエビデンスもあるので、更年期以降の生活の質にも関わってきます。
丸川 今年の4月から、女性特有の健康課題に関する問診項目が新たに提示されました。これは企業が導入する一般的な健康診断に用いるもので、この問診をまずきちんと産業保健の現場でやっていただくことと、産業医や産業保健スタッフの皆さんがこれを「どうやって医療につなげていくのか」が大切です。マニュアルもありますが、こちらも研修を進めなくてはということで国が取り組んでいます。
甲賀 前向きに取り組んでいただいているぶん、私たちがこれまで以上に普及啓発をしていく必要があると思います。
※1 経済産業省ヘルスケア産業課「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」
※2 厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」基本集計結果2022年7月26日
治療の充実に基盤整備とリテラシー形成が必要
町 塗り薬や貼り薬などと聞くと、治療自体は難しくないイメージです。
甲賀 はい。ただ、海外と比較して日本は人工的な薬と距離を取る意識が強いです。ホルモンやワクチンよりも、漢方やサプリメントなどが身近に感じられるのかもしれません。
小宮 「お産は病気ではない」とか「痛みに耐えるのが美徳」というような空気も影響しているかと。

丸川 診療されていて、どういうところに難しさを感じますか。治療していただく側の私自身は当初、HRTの複数ある選択肢の違いがよくわからずで。そして「ゴールはどうしたいですか?」と医師に尋ねられて、どう決めたらいいのか戸惑った記憶があります。
甲賀 まず更年期障害そのものが、採血などの数値だけでわかりやすく特定できないところですね。そしてHRTも塗り薬が合わなければ貼り薬にしますし、骨の密度や血糖値やコレステロール値などに応じてチューニングが必要になってきます。HRT以外の治療に切り替えることも。
丸川 なるほど。続けながら考えていくものだと。
小宮 その通りです。個別化医療ですから。補充すべき適切なエストロゲンも人によって違いますし、子宮の有無などでも対処が異なります。もちろん、前提となる患者さん自身の考え方によっても変わってくるので。
町 個人の知識や意向も重要ですね。これには教育も関わってきませんか。
小宮 そう思います。いきなり更年期の話だけをするのではなく、ライフステージを通して見ていかなくてはなりません。
甲賀 ええ、それも若いうちから。性教育が避妊に偏りがちなことも問題だと思います。年齢を重ねていく自分の体を、その時々でいかに大切に扱うかということへの意識を高める必要があります。例えば、閉経後の圧迫骨折などは骨粗しょう症が大きな原因ではありますが、実はHRTできちんとホルモン補充ができていればリスクを下げられたはず……と思うこともありますし。
丸川 確かに、健康教育の充実は国として進めていくべきことだと感じています。あとは管轄が年代で分かれていることも課題でしょうね。本来ならば一続きであるべきで、協議会のようなものができると変わってくるかなと。
町 包括的に考えるという意味では、小宮先生の所属先「女性の健康総合センター」は新たな取り組みの一つですよね。
小宮 はい。女性の健康を診るうえでは婦人科が大きな役割を果たすものの、女性の総合診療のあり方を検討してきました。特に5月に立ち上がった「更年期外来」の診療は内科・外科・婦人科・精神科などによる他科連携です。このほか、女性の健康・疾患に特化した研究の推進や、女性の健康に関わる最新のエビデンスの収集・情報提供を行います。
町 活動を広めていくには多量のデータが必要になりそうです。
丸川 私は医療情報政策にも取り組んでいるのですが、データを統合・解析できる基盤整備を構想しています。
小宮 ぜひそういったネットワークに加えていただけたらと思います。
町 診断ネットワークもカギの一つと言えそうですか。がんならば診療連携の拠点病院などがありますが。
甲賀 一般病院への橋渡しも含めて、整備されていくことを期待したいです。
不調を正しく伝えるためみんなで一歩踏み出す
町 課題の一つに「不調を伝えられるか」というものもあります。まだ語りづらい空気があるように感じます。
丸川 女性初の総理大臣が誕生し、ご本人が実は自分も更年期の課題を抱えていたとオープンにされました。ほかにも、著名人が自分の更年期や健康にかかる課題について発信してもらえるのは、心強いことですね。
甲賀 これまでは当事者が「家庭でも職場でも言えない」と胸に秘めていて、表面化しにくかった側面があると思います。
小宮 「私は耐えてきた」「それが当たり前」という上の世代の言葉や空気もあったかと。
甲賀 そして、医療がそれを受け止められる体制ではなかったことも一因です。
丸川 医療の受け皿と共に、就業継続の支援も必要ですね。キャリアの向上を健康課題が阻むことはあってはなりません。職場、特に経営層がきちんと理解をするということが大切です。政府が進める健康経営の中でも、女性の健康は大きな課題です。
町 職場の理解なしには進まないということですね。生理休暇などもありますが、更年期も休暇の対象として取り扱われれば……。
甲賀 生理休暇ですら、男性上司だと伝えづらいと言いますしね。管理職男性の研修などを担当することがあるのですが、男性側も更年期や閉経などの話題には萎縮してしまうところがあります。パワハラやセクハラにあたるのではないかという不安があると。
町 全部まとめて「女性の休暇」のような、扱いや名称に工夫があってもいいかもしれませんね。

小宮 今広がりつつある「ウェルネス」「ウェルビーイング」はヒントになると思います。本当に苦しければまずは病院へ。でもその手前の「ちょっと今日は……」という時に手を打ちやすくなれば。今は女性がメインであっても、いずれ男性の不調も同じ観点で取り扱えるようになると思います。
丸川 男性にも更年期はありますしね。
小宮 そうです。更年期の性差を見ると、女性は閉経でホルモンが急激に低下します。男性は比較的緩やかで、原因として影響があるのはストレスや運動不足などです。大事なのは、女性にホルモンの急低下が起きることは明白なので、HRTなどできちんと対処しましょうと伝えていくことですね。
丸川 伝えやすくする道筋で言えば、一般企業も医療も政治も、意思決定の場に女性が参画していることが極めて重要だと感じます。
甲賀 おっしゃる通りです。海外の話ですが、医療では、意思決定や協議の場の男性比率が高いと、男性特有の疾患に関する決定が優遇される傾向にあるというデータがあります。日本も場の傾向として男性比率が高いので、女性の参加が増えることでバランスが取れてくると思います。
町 女性に寄り添う医療の実現、診療体制の構築を期待したいですね。
甲賀 HRTに関連するところでも各所への働きかけはあります。例えば、医療機関での管理料の導入です。昨年12月、3学会(日本産婦人科医会、日本産科婦人科学会、日本女性医学学会)から丁寧な問診や継続的な管理を行うための医療構造改革を求める「ホルモン補充療法治療管理料の新設に関する要望書」を、内閣総理大臣、厚生労働大臣、厚生労働副大臣宛に提出しました。
小宮 やはりHRTは継続して治療・診断していく必要があるので、婦人科医が時間をかけて診療できる体制が望ましいと。月経困難症はすでに管理料が導入されていて、通い続けられるようになった患者さんが増えたというデータもあります。

町 様々な課題が見えたお話になりました。では、最後に読者の皆さんへのメッセージをお願いします。
甲賀 健康上の理由で女性たちが自分の仕事や家庭や趣味など多様な夢をかなえられずにいるのは、産婦人科医としては非常に悔しいことです。健康を下支えしたいという思いがあります。そして、HRTのような理にかなっているにも関わらず浸透しきっていない治療を広く届けられるようにしたいです。全国で適正な治療が施せるような体制づくりを目指していきますので、ご期待ください。
小宮 出産期や更年期、女性は長らくたくさんの我慢をしてきました。しかし、そういう時代は終わりました。不調や苦しい思いを一人で抱えず、まずは相談してください。医療につながっていただくための働きかけを、しっかりやっていきたいと思います。
丸川 課題解決の扉が明確になりました。私たちは今、その入り口に立っていると思います。力を合わせて取り組んでいきたいですね。女性も社会を動かす大きな力になり得る高い能力を持っています。生涯健康に、その能力を発揮し続けていただくために、政治も力を発揮していきたいと思います。
町 本日はありがとうございました。

日本産科婦人科学会常務理事。千葉大学医学部卒業。東京大学大学院医学系研究科修了。同大学院医学系研究科産婦人科学講座准教授を経て、2023年から現職。専門分野は生殖内分泌・女性医学。一般女性への啓発だけでなく、産婦人科医に向けた更年期症状の診断・治療の普及にも尽力している。日本生殖医学会生殖医療専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内分泌学会専門医・指導医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医・指導医。

山形大学医学部卒業。ベイラー医科大学(アメリカ)で研究に従事したのち、福島県立医科大学附属病院で性差医療センター部長や同センター教授を務める。福島県女性医師支援センター長などを経て、2024年から現職。国立成育医療研究センターでは、女性総合診療センターの女性外科と婦人科診療部長も兼任。専門分野は生殖内分泌、女性ヘルスケア、性差医療、漢方医療。日本産婦人科学会専門医・指導医、生殖医療専門医、日本東洋医学会漢方専門医。

東京大学経済学部卒業。テレビ朝日にアナウンサーとして入社。2007年に参議院議員選挙で初当選。自民党内の厚生労働部会長として診療報酬改定を担ったほか、ゲノム医療推進のワーキングチーム設置。超党派議連の会長代行として「ゲノム医療推進法」の成立に尽力する。現在も医療や社会保障、女性活躍をはじめとする多様な分野で精力的に活動している。環境大臣、東京オリンピック・パラリンピック担当大臣などを歴任。26年1月の衆議院議員選挙に初当選。

立教大学文学部卒業。日本テレビにアナウンサーとして入社。報道キャスター、厚生労働省担当記者としてがん医療、医療事故、難病などの医療問題や介護問題を取材。2011年にフリー転身。著書に両親を介護した体験をまとめた『十年介護』、すべてのケアラーに向けた『受援力』がある。元ヤングケアラー。
朝日新聞社アカウントソリューション本部

