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100点満点のテストならば10点は捨てる
失敗を恐れずに冒険に挑め

心臓外科医 天野 篤さん

受験勉強は、医師に必要なことを訓練するチャンスでもある。

天野医師は、「受験生のときに医師として必要な資質を鍛えることができる」と話します。

「医師のなかでも、外科医は特にプレッシャーやストレスを感じることが多い。そのストレスを自分で管理できないといけないので、受験生時代から訓練し、乗り越えた人が医療現場で戦力となり、戦えます」

受験生へのアドバイスを求めると、「机に向かったら、すぐに勉強すること」と即答。

「これが自然にできるようになれば、80%以上合格します! ゴルフは構えたらすぐに打つのがコツ。それと同じです」

また、1~2時間勉強する時間があるとき、「大体このぐらいのことをやろうと計画し、進捗がほぼ一致することも大切」だといいます。

「持ち時間に対するワークを確立できれば、90%以上合格します! 手術も同じで、時間を常に気にしなければいけません。長時間の手術は患者さんの負担になるので、できるだけ手術時間を短くするための工夫をしています」

受験生のときに計画を立て、時間を意識しながら勉強することは、医師や研究者になってからも役に立つのです。さらに必要なのが「失敗を恐れないこと」だと話します。

「私が提唱しているのが、90点主義。満点を目指さず、10点は捨ててもいいから冒険を。参考書に書いていないこと、出題者が見たことがないようなことを書くといい。90点の答案が120点になることもあります。そのためには、受験勉強にひもづいたことだけを勉強するのではなく、興味を持ったらとことん調べ、深みにはまってみるのもいい。この姿勢は医師を含む科学者にとって必要なことです」

医学部入学後、国際交流も重視される時代なので、受験英語に疲れたら、スカイプでネイティブとやり取りしたり、英語学校に行ったりするのもおすすめだといいます。

「医学部受験で大事なのは、他人との闘いではなく、自分との闘いだということです。『あいつが合格したから自分は落ちた』『自分が合格したからあいつが落ちた』といった考え方はしないほうがいいのです。スポーツと同じで、自分との闘いに持ち込めた人が、納得のいく結果を出せます」

偏差値に見合った大学だけを受験せず、行きたいと思う大学があればオープンキャンパスに行き、「将来、自分はここで学ぶんだ」という動機づけをすることも大事だとアドバイスします。
首都圏や関西圏に住む生徒が、学費だけをみて地方の国公立大に進学し、卒業後に出身地に戻るケースは少なくありません。このため、地方で働く医師が不足するという医師の偏在が問題になっています。

「首都圏に住んでいて、将来、首都圏で働きたいのなら、地方の国立大ではなく、本学のように学費が安い私大に進んだほうが、関連病院もあるし、人脈ができて働きやすいと思います」

一般家庭の子どもが医師になる場合には、家族の協力が必要不可欠だといいます。

「家族みんなで、医学生6年間の勉強を支える必要があります。卒業後も研修医の2年間、その後の2年間は正念場。この計10年間ぐらいを本人が頑張り、家族もサポートすれば、その後は順調に医師としてやっていけるでしょう。私大に進学したとしても、数年で学費を返せるぐらいの収入を得られます」

現在、安倍内閣が「働き方改革」を推し進めており、「高度プロフェッショナル制度」という言葉も出ています。週に4〜5回は院長室に泊まり込む天野医師は、働き方改革について、どう考えているのでしょうか。

「適性管理がうたわれていないから、規制するのはおかしいと思います。きちんと休みをとれば、本来の仕事も良くなるというエビデンスがたくさん出てくれば、そうなるかもしれませんが、私も含め多くの医師は余った時間にもやることがたくさんあります。それらをやることによって、スキルも収入もあがるため、医師という仕事は働き方改革にそぐわない。また、必要な手術を渋る患者さんに『命と仕事のどちらが大事か』と聞くと、『迷惑をかけられないから、仕事』と8割が答えるので、実現は無理だろうと思います」

将来、医療界のリーダーとなるよう高校生のときから育成したい

天野医師は、現在の学生を見て、こう嘆きます。

「昔は、何かに挑戦したい、自分を試したいという果敢な学生が多かったのですが、今は『そこそこでいいや』という学生が増えました。結果、外科医になりたい学生が減ったのでしょう。医療界でも責任を負えるリーダーが必要なので、人材育成にも力を入れていかなくてはと感じています」

そんな思いで3年前から始めたのが、医師を目指す高校生を対象とした「早期医療体験プログラム」です。

「夏休みに医療者の視点で手術や診察などを見学し、早い時期から動機づけを行い、将来は医療界のリーダーになってほしいと願っています。20年間はこのプログラムを続け、参加した生徒が30代後半になったときに、体験を元に本当のリーダーとして活躍しているかどうかを見たいですね」

順天堂大学の定年まであと3年ほどだが、今も手術の腕は上達しているという。

「私の手術で症状が劇的に改善しゴルフを再びプレーできるなど、患者さんが元気になると心臓外科医になってよかったと心から思います。仕事にやりがいを感じるし、楽しいので、生まれ変わってもまた心臓外科医になりたい」

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取材・文/庄村敦子 写真/小山幸祐(朝日新聞出版)

あまの・あつし/埼玉県生まれ。順天堂大学心臓血管外科教授、順天堂医院院長。1983年日本大学医学部卒業。新東京病院などを経て現職。オフポンプ冠動脈バイパス手術の第一人者。2012年に天皇陛下の心臓手術を執刀。

※掲載内容は取材・作成当時のものです。
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