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日本癌治療学会 座談会

進化するがん治療未来課題

現在、がん治療は急速な進化を遂げ、ゲノム医療の時代を迎えています。早期に発見すれば治る確率が高まったため、新たな問題も生じています。そのようながん治療にかかわる幅広い課題解決に取り組む日本癌治療学会では、10月に博多で第57回の学術集会を開き、市民公開講座を博多と岐阜で開催します。それに先立ち、がん治療の現状と未来について、関係者の4人に語り合ってもらいました。

  • 日本癌治療学会・日本消化器外科学会
    理事長
    慶應義塾大学 医学部 外科学教室 教授
    慶應義塾大学病院 病院長

    北川雄光 先生

  • 第57回日本癌治療学会学術集会 会長
    岐阜大学大学院
    腫瘍制御学講座・腫瘍外科学分野 教授
    岐阜大学医学部附属病院 病院長

    吉田和弘 先生



  • 仕事と治療の両立支援
    ネット-ブリッジ
    代表

    服部 文 さん




  • フリーアナウンサー

    中井美穂 さん


臓器より遺伝子に着目するゲノム医療

中井 まずは日本癌治療学会とはどのような組織なのか、教えてください。

北川 がん治療にかかわる日本最大の領域・職種横断的な学会です。外科医、内科医、泌尿器科医、産婦人科医、放射線科医、看護師、薬剤師など20種の専門家からなり、会員は1万7000人を超します。

中井 随分以前に入院したとき、病院がさまざまな科に分かれていることに違和感を抱きました。自分の身体は一つなのに、なんで病院はこんなに縦割りなんだろうと……。

北川 確かにそうですね。ただ医療が進歩し、高度化すると、一人の医師ですべてをカバーするのは難しいのが現実です。ただ現在は、そのような縦割りによる弊害を、チーム医療というかたちでフォローしています。

吉田 国のがん対策推進基本計画にもチーム医療の推進が盛り込まれていますが、まさにそれを担っているのが領域・職種横断的な当学会だと思います。

北川 今、医療は患者さん一人ひとりにとって最適な治療方法を分析・選択して行う「プレシジョン・メディシン」の方向へ向かっています。がん治療では分子レベルでがん細胞の特徴を把握し、狙い撃ちにする分子標的治療が急速に進歩しています。がんゲノム医療の時代になると、これまで異なるがんと考えていたものを、遺伝子の変異の観点から一つのがんととらえられるようになります。例えばそれぞれの発生頻度は低いものの、すべて集めるとがん全体の20%を占める希少がんを、臓器の枠組みを超えていくつかのグループに分けて、適切に治療できる時代もやって来るかもしれません。臓器や専門性を超えて研究を進めている当学会の役割も、今後ますます重要になってくると考えています。

服部 遺伝子の変異が共通していれば、同じ薬剤が使える可能性もあるわけですね。

北川 がんゲノム医療はまだ取り組み途上ですが、今年の6月から一部保険診療も始まりました。これから数年で大きな変化があるでしょう。もちろんまだまだ課題もあるので、患者さんに過剰な期待を与えず、正確な情報を伝えることが大事です。

北川雄光 先生

吉田和弘 先生


正しい情報の伝達 周辺サポートが重要

中井 確かに新しい治療法に対しては、マスコミは「夢の治療薬現れる」などと大げさにとりあげがちです。

北川 がんの治療には、一定のエビデンスがあり、最適な治療として推奨されている標準治療があります。でも患者さんのなかには、自分にはもっといい治療法があるはずだと、エビデンスのない民間療法などに走ってしまう人がいます。その結果、標準治療で治癒するチャンスを逸してしまうのはとても残念です。

吉田 私どもにはそのような警告を発する義務があると考えています。そのためにも当学会では、複雑化したがん治療にかかわる情報を客観的に整理した「診療ガイドライン」の公開、評価、策定に取り組んでいます。

北川 がんに関する知識やコミュニケーションスキルを学び、地域でどんな治療が受けられるかといった相談にのる「認定がん医療ネットワークナビゲーター制度」もつくりました。

吉田 患者さんが情報の取捨選択をする手助けをしたり、セカンドオピニオンを紹介したりもするわけです。

中井 がんになると治療費の問題もありますし、グリーフケアなど家族の精神面でのサポートも必要です。

服部 そういった意味では、医療従事者以外のサポートの重要性がますます高まっています。医療だけでなく、周辺環境を含めた患者さんのサポート体制をいかに築くかが問われています。

北川 とくに就労支援は重要です。今は治療技術の進歩によって、仕事とがん治療を両立できる場合も増えています。それなのにがんと診断されたとたん、仕事をやめてしまう人もいます。

服部 治療しながら社会生活を営むことができるようになったのは喜ばしいことですが、それは同時に、治療と長く付き合い、何らかの働きにくさをかかえながら職場に戻るということにもつながります。しかし、理解や受け入れが進まない企業がまだ多いのも現実です。医療の進歩に社会が追いついておらず、がん患者が働くスタンダードなかたちがまだ社会にないのです。そのため悲しい思いをされている方も少なくありません。今はまさに過渡期なわけですが、これから私たちはどのようにがんと共存する社会をつくっていくべきなのか。それを考えるうえでも、学術集会で最先端の医療の現状を、社会にフィードバックしていただくことはすごく意義があることです。

吉田 患者さんが働きながらがんを治せるようにと考えることが、抗がん剤の量や使い方を工夫して副作用が少ない治療法を開発することにもつながります。社会づくりと治療法の開発は、まさに車の両輪だと思います。

服部 文 さん

中井美穂 さん