朝日新聞社
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#空き家活用
#クラウドファンディング

レトロな空き家 みんなで活用
人が集い つながる場所へ
止まった時間 再び動かす

2023.03.02

台所の壁にかけられた日めくりカレンダーは「2006年6月8日」。
床に置かれたパソコンは、カラフルなオレンジ色で、ぽってりとした形の旧型iMac――。
私(出口真愛)を含む学生団体「Re.colab KOBE(リコラボコウベ)」のメンバー十数人は2022年1月、神戸市西区木津にある1軒の空き家を訪れました。

台所の壁にかけられた2006年の日めくりカレンダー
床に置かれた旧型iMac

5歳の頃へタイムスリップ

神戸電鉄・木津駅から徒歩数分。周辺に田畑が広がる集落の中にあるその家は、玄関から中に入ると、持ち主のご家族が暮らしていた十数年前から時が止まったまま、時間を超えて私たちの目の前に現れたかのようでした。
2006年と言えば、私が5歳になった年。当時の世の中のことは覚えていませんが、家のつくりや中に置かれた物を見たときには、少し懐かしい気持ちになりました。

居間に置かれたレトロな扇風機

里山再生の拠点が欲しくて

私たちリコラボは、神戸市内で里山・里海の再生をめざす活動に取り組んでいます。
メーンの活動場所は神戸市北区の「リコラボファーム」。山の中の耕作放棄地を再開拓して麦や野菜を育てています。
メンバーはさまざまな大学から集まっていて、ファーム以外に集まれる場所がないのが悩みでした。「自分たちの拠点をつくりたい」と思っていたところ、ファームから車で15分ほどの木津で誰も住まなくなっていた家をお借りできることになり、内覧に訪れたのです。
家は平屋建てで、玄関を入って右側に台所やお風呂場があります。左側は洋室を通り抜けて一番奥に居間があり、小さな庭に面しています。他にも洋室が2部屋あり、どの部屋にも十数年前まで暮らしていたご家族の物がたくさん残されていました。

片づけ開始! 家の中の物どうする?

家を相続した持ち主の方は、遠方で暮らしていて、この家に来られる機会はほとんどないそうです。持ち主の方から「自由に使っていい。中の物も処分していい」とのお許しをいただき、私たちの活動拠点として、そして、地域の方たちとの交流の拠点として、この家をリノベーションするプロジェクトが動き始めました。

台所の棚を掃除する

まず取り組んだのは、片づけです。
2022年3月、リコラボのメンバーが現地に集まり、一般のごみと同じように処分できる物から片づけていきました。冷蔵庫の中、床下収納、机の上に置いてある物。出てきたたくさんの物たちを、一つ一つ整理していきました。

ごみをまとめて処分

ここで問題となったのが、家具などの大型の物の処分です。
私たちは、神戸市のごみ処理施設に直接持ち込み、処分することを考えました。しかし、事前に問い合わせたところ、原則、自分の物でないと持ち込めないと言われました。突き詰めていくと、他人の廃棄物を処分するには、廃棄物処理業の許可が必要というわけです。
空き家を活用して里山再生の拠点にしたいという私たちの試みは、早くも一つ目の困難に直面しました。

片づけの途中、古い新聞の切り抜きに目がとまる

建築家とコラボ 市の制度に応募

神戸市は2022年4月、空き家の活用を促すための新たな支援制度を始めました。
その名も「建築家との協働による空き家活用促進事業」です。
この制度は、社会課題解決に取り組むために空き家を改修する際、改修にかかる経費の2分の1を上限500万円まで補助する制度です。私たちリコラボは、神戸を拠点に空き家の再生事業に取り組む建築家、「西村組」の西村周治さんと連携してこの制度に応募し、対象の一つとして選定されました。庭を囲むブロック塀を取り払うなどしてリノベーションし、地域の方たちとの交流の場にしたいという計画が評価されました。

神戸市に提出したリノベーション後の完成予想図

悩んでいた大型の物の処分についても、神戸市のごみ処理施設に持ち込めることになりました。ごみを捨てることや片づけること自体が活動の目的ではなく、持ち主からきちんとお借りした家を里山再生の活動拠点や地域住民との交流の場として再整備することが目的だと説明し、理解してもらえたのです。
ただ、改修費用の半分は市から補助してもらえるものの、残りの半分は自分たちで集めなければなりません。そのためのクラウドファンディングの準備を進めているところです。

「使ってほしい」「使いたい」マッチング制度も

現在、全国的に問題となっている空き家問題ですが、神戸市でもその数と割合は増加傾向にあります。国の住宅・土地統計調査によると、神戸市内の2018年の空き家数は10万9200戸、空き家率は13.3%でした。
空き家をそのまま放置すると、老朽化で倒壊したり、不審者が出入りして治安の悪化につながったりする恐れがあります。そこまで行かなくても、人が住んでいない家が多く集まると、地域が衰退しているように見えてしまうというデメリットがあります。
このような状況に対し、神戸市はどんな取り組みをしているのか、そこからどんな課題が見えてきたのか。市建築住宅局の空家空地活用担当課長、和淵大さんにお話を伺いました。

神戸市で空き家活用を担当する和淵さん(左)からお話を伺う

神戸市では主な制度の一つとして、空き家の所有者と空き家を使いたい団体をつなぐ「空き家・空き地地域利用バンク」という仕組みがあります。「地域活動の場として活用する」という条件つきですが、空き家を貸したい・売りたいと思っている人と借りたい・買いたいと思っている人の橋渡しの役割を担っています。
この制度について、「ぴたっとニーズが合っているかと言われれば、そうではない」と和淵さんは言います。実態として、バンクの物件は立地や状態が良くないものも多いのに対し、空き家を希望する団体は便利で安くてすぐに使える物件を求めていることが多いのだそうです。

デザインの力で機運を高める

空き家活用の機運をもっと高めたい。そのために神戸市が始めた施策の一つが「建築家との協働による空き家活用促進事業」です。
「建築家との協働」には、建築家のデザインの力によって、建物を外観も含めて魅力的に改修し、空き家の活用を「見える化」するという狙いがあります。空き家が増えて衰退しているように見えたエリアはそのレッテルを変えることができ、地域を巻き込んで空き家活用の機運を高めることができると考えられています。

ダイヤル式の黒電話

「小さなまちづくり」 住む人だけでなく

「(空き家問題に取り組むことは)小さなまちづくりだと思うんですね」
インタビューの中で、和淵さんのこの言葉が印象に残りました。
空き家が利用されることは、地域の活性化につながるメリットがある一方で、地域に住む人の中から「静かに暮らしたい」「外からいろんな人が出入りするのが怖い」と反対の声が上がることもあると言います。
家自体は個人のものであっても、その家がどのように使われるかは、その地域全体に大きく影響することなのです。
私たちがお借りした家をどう使うかも、私たち学生だけの問題ではなく、地域の方たちの暮らしに関わることなのだと改めて自覚することができました。

家本来の役割を取り戻す

2023年1月、リコラボのメンバーは、木津の家の近くで、地域の方たちによる川の掃除に参加しました。

近所の方たちと一緒に川を掃除する

作業が終わった後、お借りしている家の居間にメンバーが集まり、地域の方たちからいただいた材料を使って鍋を作って食べました。
テーブルを囲んで和気あいあいと食事をとる様子は、止まっていた家の中の時間が再び動き出したかのようでした。

お借りしている家の居間でイノシシ鍋会

家は、そこに住む人たちの思い出や愛着がたくさん詰まった場所です。たとえ住む人がいなくなっても、手放すことが難しいことは多々あるだろうと思います。
でも、私はイノシシ鍋会の様子を見て、思いました。
家の役割って何だろう。住む人に物理的・精神的に安心をもたらすこと? いや、きっとそれだけじゃない。人が人とのつながりを生み出し、広げながら、新たな思い出を作っていく場所。それが家なのではないかと。
だとしたら、家は使われることによって、初めて家本来の役割を果たすのではないか。そう感じたのです。
私たちのリノベーションプロジェクトはまだこれからです。
縁あってお借りできたこの家を、地域の方たちとのつながりの場所にできるようにしていきたいと思っています。

中山 遥香

家を使う人がいなくなったときにどうするのか。また、家の活用の難しさなどをこの記事の執筆を通して考えさせられました。お借りした家を通じて新たなつながりが生まれることを楽しみにしています。