朝日新聞社
#布引エリア
#テクノロジー
#おんたき茶屋

都会のオアシス 布引の滝
新神戸駅から ふらっと登山
自然と歴史 まちづくりに生かす

2024.03.25

古くから歌に詠まれ、絵に描かれてきた布引の滝。新神戸駅からの道中と、滝の横、自然の中にあるおんたき茶屋を、布引エリアの研究に取り組む小代薫・神戸大学経済経営研究所特命講師と神戸市の職員の方々と訪ねました。このエリアでは、おんたき茶屋を改修したり登山道をライトアップしたりといった計画が動いているそうです。

滝にまつわる歴史や豆知識を解説してもらいながらのツアー。驚くことだらけの登山の様子を関西学院大学1年の石川彩(19)と、神戸大学1年の今津来望(19)がリポートします。

砂子橋は国の重要文化財に指定されている

新神戸駅の裏側に
こんなところが!?

2024年2月20日、火曜日。この日は上着がいらないような暖かさでした。

私たちは午後1時に新神戸駅に集合し、布引の滝へと向かいました。

新神戸駅1階のバスロータリーから生田川に沿って山側に駅舎を抜けると、すぐ山。桃の花が舞って出迎えてくれました。がっしりとした駅舎の裏に、こんな山道があるとは!

民家が何棟かある道に沿って進むと、神戸市のマークがついている赤レンガの橋が見えました。明治30年ごろに建設された砂子(いさご)橋。導水管を通すために建設された石造アーチ橋で、国の重要文化財に指定されています。

すぐそばで、木の伐採が進んでいます。なぜ?(その理由は、後で分かります)

おんたき茶屋への急坂は、擬木の手すりが続く。古い擬木は1934(昭和9)年ごろの設置とみられる=小代薫さん提供

外国人っぽい観光客とすれ違いながら登っていきます。木製に見える手すりに触れ、擬木(木に似せた人工物)であることに気づいて驚きました。小代先生によると、この擬木は、うねっていたり節が立体的だったりして、擬木マニアから評判が高いそうです。

布引の滝のうち、最下流にある雌滝(めんたき)

自然の美 布引の滝

登っていくと、荒々しい岩の山肌が見えてきて、その奥に滝が現れました。雌滝(めんたき)です。

布引の滝は四つの滝(雄滝、夫婦滝、鼓ケ滝、雌滝)の総称ですが、このうち最も下流にある雌滝です。

滝の前に橋が架かっていて、正面から滝を見ることができました。時の流れがゆっくり感じられました。ぼーっと眺めていたいなぁ。

昔は隣にある取水塔から対岸にかけて橋が架かっていて涼めたそうですが、危険なため、現在は取水塔も立ち入り禁止になっています。取水塔まで行くと滝つぼの近くまで行くことができ、より臨場感がありそうです。

滝つぼは広くて、泳ぎたくなりました。この日は水量が少なく、水量が多い日であればより迫力を感じることができそうです。

登山道に植えられた山桜

滝近くの登山道には小さい山桜が植えられていて、つぼみがついていました。地元の登山会の人が4年前に植え、今春に花開くかもしれない、と小代先生は言いました。楽しみです。

おんたき茶屋の土台部分

100年の時を超えるおんたき茶屋

さらに坂と階段を登って見えてきたのは、古そうなトタンの壁。おんたき茶屋の真下、建物の土台にあたる場所です。

「ここは元々、石場建てだったところを、セメントと板で補強しているんです」(小代先生)

「石場建て」とは、建物を支える柱が、礎石の上に載っているだけの伝統的な構法。地面と建物が切り離され、床下の風通しがいいのが特長です。ところが、小代先生の言う通り、大きな石の上にセメントを流し込んだ形跡がありました。トタン板が風を遮り、風通しのよさを感じません。

この建物は、改修される計画が進んでいます。改修後は、すっきりと柱が通っているのがわかるようになればいいな。

細い道を登って建物の入り口に近づくと、昼食を食べ損ねた私の空きっ腹にダイレクトアタックする、とてもいい匂いが。

調理場に入ると、コンロの上の鍋から湯気が立ち上っています。匂いの元が、おでんだと分かりました。おいしそう!

調理場のおでん

海と滝が見える絶景スポット 
いまは居間

そんなおでんを横目に、お茶屋の家主さんの居間に上がらせていただきました。

生活空間に上がるのに若干のためらいを覚えつつも、一番奥の部屋へ。南の窓から山の間に神戸の海が見え、北には雄滝が望めるという絶好の場所。風が吹き抜けて気持ちいい!

ここは改修後、お客さん用のスペースになることが想定されています。ぜひ多くの人に体験してほしいです。

おんたき茶屋の客席は雄滝が眺められる「映えスポット」

居住スペースから出ると、お茶屋の客席が。そこには、若いお客さん(それも女性)がたくさん!

客席からは木々を通して、高さ43メートルの雄滝が見えます。滝の方角から涼しい風が吹いてきて、登山でほてった体を冷やしてくれました。ぼーっとしたいときにも来たい場所です。

最近、「映えスポット」としてInstagramに写真がたくさん投稿されているそうです。

おんたき茶屋の建物は、パッチワークのような(フランス語で手仕事を意味するブリコラージュというそうです)増改築の跡があって古さを感じましたが、なじみの人がそこに温かみを感じている理由もよくわかります。この雰囲気をいかに残して改修するかが鍵となりそうです。

おんたき茶屋の全景

下山は一瞬! 
時が止まったような空間も

登りに比べて、下りは一瞬。

途中、広場のような場所に出ました。徳光院というお寺の境内です。朱塗りの門の横には、樹齢何百年もありそうな、大きな木があります。空気が澄み、時が止まっているような静けさ。木々を揺らす風の音に耳を傾けてしまう空間でした。

砂子橋に戻ると、伐採が終わって木々がすっきりしており、橋がきれいに見えました。数本切るだけでこんなにも違うんだなぁ。伐採の理由が分かりました。

新神戸駅に戻ると、現実に帰ってきたような感覚がありました。

欧米から来たと思われる観光客の方が何組もいました。スターバックスのタンブラーを持ちながら登っている人も。布引へ気軽に寄れることがわかります。

新しい発見がある布引エリア。今回は時間がありませんでしたが、次はおんたき茶屋でおでんを食べたいです!

建物・環境・観光…
活用へ進む研究

新神戸駅から、神戸大学の小代研究室へ車で移動しました。

研究室では、布引の滝とおんたき茶屋について研究中のことを、建物・環境・観光の三つの観点で、大学院生に話していただきました。

(上)気流のシミュレーション=神戸大学小代研究室+藤井倫太郎(神戸大学大学院生)
(下)おんたき茶屋の構造解析画面。線は部材を表している=神戸大学小代研究室+井下宙(神戸大学大学院生)

気流をシミュレーション 
風も香りも

布引エリアでは感性が刺激されましたが、ここからは理論、理性の世界へ。

まずは環境。ここでは気流について研究を進めているそうです。プロジェクターで映し出されたのは、山から海へと傾斜する神戸の地形。気温や湿度、風向きなどによって、空気中の粒子がどのように動き、広がるか、パソコンでシミュレーションしているということでした。

今は山から海へというマクロな視点で気流を分析していますが、ゆくゆくはおんたき茶屋のような一つの建物に流れる風を予測できるようにしたい、ということでした。

おんたき茶屋で感じた風や香りなど、目には見えない温かみや爽やかさが、どのように形作られているのか。建物の改修やエリアの開発に、生かせるかもしれません。

おんたき茶屋の改修後のイメージ。伝統的な構法がよく分かる外観になっている=小代薫建築事務所

いまの雰囲気 残して改修

次に建物。現在のおんたき茶屋の安全性を確認するために構造解析を行っています。地震が起きたときにかかる水平方向の力が各々の柱や梁にどのくらい負荷をかけているかを調べるそうです。

大きな負荷がかかるところが赤く示され、若干の不安が……。とはいえ、実際に建物を見た後だと、とても分かりやすい! 「百聞は一見にしかず」を実感しました。

分析のために、建物の柱などの構造を現地で調べたそうですが、土台部分はこれからだそうです。

このような分析は、なぜ必要なのでしょうか。小代先生によると、お茶屋の雰囲気を変えないために、できる限り今の部材を残したい、という思いがあるそうです。

また、山の斜面に建っているというユニークさを生かすため、昔ながらの「懸造り」「石場建て」を再現するには、構造上の危険がないように設計しないといけない、というわけです。

神戸市の長井さん、牛若さん

空き家を活用 
登山道ライトアップ

布引エリアは、どのように整備されていくのでしょうか。神戸市建設局公園部管理課利活用担当課長の牛若健吾さんと、企画調整局調整課課長(SDGs推進担当)の長井伸晃さんに話を聞きました。

布引には、立地がいいという「武器」があります。なにしろ新神戸駅のすぐ近く。「身近で自然と歴史を感じられる場所で、布引の右に出るものはない!」と言ってもいいのではないでしょうか。

そんな布引を盛り上げるために神戸市が考えているのは、空き家の活用と、ハイキングコースの整備です。砂子橋の近くには民家が並んでいますが、一部は空き家になっているそうです。それらの空き家を改修し、訪れた人たちに使ってもらう計画です。

魅力的な計画ですが、住んでいる人にとって観光客が増えてしまうのはどうなのか……? 気になって質問してみました。

「それぞれの所有者や地域の方々と話し合いながら進めているので、息の長いプロジェクトになりそうです」と長井さん。

また、登山道の整備やライトアップも計画しているそうです。日が暮れる時間に、ふらっと滝を見に行く。そんな体験ができるのも、市街地からすぐ近くの布引ならではですね!

摂津国布引瀧(明治10年代か)=原画提供:前田康男氏、着彩:小代薫建築事務所(鬣峻)」

完成イメージは100年前の版画

将来の布引エリアのイメージも聞きました。

明治時代、布引エリアは「布引遊園地」として、にぎわっていました。お茶屋が立ち並び、市民がふらっと訪れて、滝を眺めたり、食事をしたりしてふれあう。その様子は、明治時代とみられる版画に残っています。

「100年前の姿とまではいかなくても、そういうところを意識しながら進めていけたらなと思っています」と長井さんは語ります。

地域の方が気軽に訪れることができる場所として守りつつ、観光客も呼んでにぎわい賑わいを取り戻そうとする「整備」。布引エリアに関わる方々の熱意が伝わってきました。地域の方とともに取り組みながら、より魅力的な場所になるのが楽しみです。

今津 来望

布引エリアの整備で大事なのは、地元の人と一緒に盛り上げること。歴史を知ることが、愛着を持つことにつながります。市民とともに考えていきながら、にぎわいのあるエリアにしていってほしいです。

石川 彩

布引は二度目の訪問だったのですが、新しい発見がたくさんありました。次はおんたき茶屋でゆっくりしたり、快晴の日に訪れたり、紅葉狩りに行ったりしたいです! 肉眼で見た滝は、写真とは比べものにならないくらい美しいので、ぜひ訪れてほしいです。