
あの日からもうすぐ30年
神戸の中心で考えた
「いつも」のなかの「もしも」
2024.06.14
災害がやってきた! 避難しなくちゃ! あれっ、そもそも避難場所ってどこだっけ?普段から対策をしていないと、いざとなったときに行動できないですよね……。そこで5月、防災を考えるイベント「いつものもしもCARAVAN神戸」に行ってみました。
関西学院大学社会学部2年の池田未来(20)と尾形怜寧(20)がリポートします。
神戸三宮駅から10分ほど歩くと、会場の東遊園地に着きました。神戸市役所本庁舎の南隣にある広々とした公園です。
芝生の広場にステージが設けられ、それを囲むように白いテントが連なっています。テントの下では、出展企業の方々が笑顔で作業しています。なかには学生もちらほら。文化祭のような雰囲気です。
まずは食料! 災害食の簡単蒸しパン
災害時に必要なものと言ったら何を思い浮かべますか? 一般的に必要なもののツートップは、食料と電気と言われているそうです。
まず食料だ、と思って探したら、神戸学院大学のテントで「防災食アレンジレシピ」の展示を発見。無印良品の米粉のパンケーキと抹茶ラテ、バターチキンカレーで蒸しパンを作っていました。
調理法は簡単。材料をポリ袋に入れて湯煎するだけです。試食したら、もちもちして、おいしい!
調理法を考えたのは神戸学院大学の学生団体「防災女子」。10年前から活動していて、「災害食BOOK」というレシピ集も発行しています。おうちの冷蔵庫にマグネットで留めておくと、「もしも」のときに役立ちそうです。
無水ハミガキ 水がなくても
おなかが満たされました! 食後は、歯磨きです。でも、災害時は水がもったいなくて、歯磨きをする人が減ってしまうらしいです。
それを防ぐために、歯ブラシメーカーのヤマトエスロンは、水を使わない無水ハミガキセットを開発したそうです。
水の代わりにお口の汚れを拭う歯磨きシートとミニ歯ブラシ、デンタルフロスのセット。水が届くまでの3日間を想定した安心パックは、避難所で使いやすく、環境にも配慮した小さなサイズです。登山にも使えるよね!
携帯用トイレ 抗菌・消臭効果も
歯を磨いたら、お手洗いに行きたくなってきた! でも、災害時は水が流れないのか。どうしよう……。
その悩みを解決する携帯用トイレを、スターライト工業が展示していました。黒いポリ袋(排便袋)と凝固剤を組み合わせたセットです。
使い方は、ポリ袋を洋式トイレに取り付けて、使用後に凝固剤を入れるだけ。「業界トップクラスの速さ約5秒で固まる」とうたわれているだけあって、みるみる固まっていきました。あとはポリ袋の口を結ぶだけ。環境にやさしいバイオマス素材が使われていて、抗菌・消臭効果も備えているそうです。
会場全体の電気 EVで供給
そうそう、忘れてはいけない! 食料と同じくらい必要なもの。電気です。
停電時の助けになるのはEV(電気自動車)です。今回のイベント全体の電力は、なんと日産自動車のEV4台から供給されているそうです。
移動手段として使っている車に、こんな使い方があったなんて。EVを普及させることが課題らしい。脱炭素で環境にやさしく、かつ災害時には救世主になれる。頼もしいヒーローじゃん!
ほかにも目にした多くの展示は「いつも」でも「もしも」でも使えるものばかり。いざとなってからでは遅いから、「いつも」から備えておくことの重要さに気づかされました。
能登半島地震から考える これからの備え
こうした展示だけでなく、ステージでは「能登半島地震への支援からわかるこれからの備え」と題したトークセッションも開催されました。どうしたら「そのとき」に備えられるか、6人の登壇者とともに考えます。

「普段から備蓄を 最低3日分」
最初に登壇したのは、神戸市危機管理室 係長(計画担当)の蔵元良平さん。
能登半島地震では、神戸市から職員が約900人も(!)支援に行ったそうです。知らなかった。
蔵元さん自身は1月と3月の2回、被災地に行き、さまざまな支援の調整役をしたそうです。
被災地では道路に亀裂が入って通れなかったり、港の岸壁が隆起して船が着岸できなかったりして、支援物資が届けにくい状況がありました。
蔵元さんは「市民のみなさんに備蓄をお願いしたい。最低でも3日分、できれば7日分。普段買っているものを少しずつ多めに買っておくだけで役立ちます」と呼びかけました。

避難所へ 電気のバケツリレー
次に話したのは、会場の電気をまかなっていた日産自動車の日本事業広報渉外部部長、高橋雄一郎さん。
能登半島地震では、EV「アリア」を8台、石川県穴水町と珠洲市に持っていったそうです。アリアは1台で一般的な家庭の5〜7日分の電気をまかなえるそうです。EVのバッテリーが枯渇しかけたら、熊本県から提供してもらった充電トラックで充電して、各地で給電しました。
高橋さんは「EVは平常時は脱炭素に役立つけれど、災害時にも使えます」と話します。「EVから電気を取り出せる」からです。
2019年に千葉県で台風による長期停電が起きたときには「リーフ」を53台、避難所などに持っていきました。電気が復旧した場所で充電して、停電している場所に駆けつける。そんな「電気のバケツリレー」を続けたそうです。

モバイルハウス 「もしも」に活用
災害時は、住まいなど建物の確保も大切です。このことについて、竹中工務店経営企画室新規事業推進グループ・シニアチーフエキスパート、廣里成隆さんが話してくれました。
竹中工務店は、工事現場で仮設事務所として使っているモバイルハウスを能登に持っていって、壊れた建物を直す支援を行ったそうです。
モバイルハウスは屋根のソーラーパネルで発電でき、蓄電もできます。衛星通信を使うことで、地上の基地局が被災して壊れていても通信できるそうです。スグレモノなんですね。
能登で活躍したモバイルハウスは、大阪・関西万博の工事現場で使われていたとか。まさに工事現場の「いつも」を地域の「もしも」に使っていく取り組みです。
「災害が起きたときに駆けつけられる体制を作っていく。その最初の試みになりました」と廣里さんは言います。

ものを運び出すことが心のケアにつながる
私たち大学生世代も登壇しました。神戸学院大学の学生2人です。若者防災協議会代表、藤原勝利さん(3年) と能登応援サークルネットワークの中田愛香さん(2年)は、複数の学生団体で作った「能登応援サークルネットワーク」のメンバーでもあります。
2人とも輪島市にボランティアで行って、被災者の方々が壊れた家から取り出すのを諦めていた輪島塗の漆器類や祭りの道具などを運び出すといった支援を行ったそうです。
藤原さんは、被災者にとって思い出深いものを運び出すことで「被災者の方々の表情がどんどん変わっていった」のを目の当たりにして、こうした活動が「心の支援、メンタルケアにもつながっている」ことを実感したそうです。
中田さんも同感で、「同級生や仲間たちも巻き込んで、息の長い支援を続けていきたい」と話しました。

楽しく防災 生活に組み込んで
最後に話したのは、イベントを主催する良品計画ソーシャルグッド事業部、石川和子さんです。
「いつものもしも」は、阪神・淡路大震災の記憶を風化させないためのプロジェクトとして2008年にスタート。東日本大震災があった2011年からプロジェクト名を「いつものもしも」に変更しました。2020年から始まった「CARAVAN」は神戸で23回目になったそうです。息の長い活動なんですね。
能登半島地震でも、会社として募金活動をしたほか、被災者に衣料品や食料品を寄付したそうです。
本業の雑貨でも、さまざまな防災グッズを開発しています。「CARAVAN」は、そうした商品を使いながら楽しく防災を学んでいただく機会として続けている、と言います。石川さんは「普段から家族全員が使えるようになっていなければ、備えにならない」と、防災を生活の中に組み込むことの大切さを語ってくれました。


池田 未来
私は、取材を通して自分の防災への意識の低さに気づかされました。「もしも」を「いつも」と切り離さずに考える、という良品計画の担当者さんの言葉に、胸を打たれました。
「もしも」を「いつも」の中に溶け込ませる1アレンジが自分の身を、周囲の人の命を守ることにつながると思いました。
CARAVANで体験した、防災への波打つ鼓動がみなさんに響きますように。そして、みなさんの「いつも」の行動の意識が、「もしも」の行動につながることを願っています。
尾形 怜寧
もしも、明日災害が起こるとしたらその備えができていますか?
災害はいつ起こるかわかりません。20年後かもしれないし、もしかしたら明日かもしれない。
わからないからこそ、「もしも」をどれだけ考えながら「いつも」を過ごすのか、災害時に「いつも」しているからできる、という状況をどれだけつくれるか。
良品計画の石川さんの言葉を借りると、「備えを標準装備する」ことの大切さをイベントを通して感じました。