朝日新聞社
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災害に強いまちへ
デジタル技術の進化を体感
震災30年シンポジウム

2025.02.21

2025年1月17日は阪神・淡路大震災から30年という節目です。2024年元日に起きた能登半島地震では、地震の強いエネルギーによって社会が大きな影響を受けると改めて感じました。これから先、地震は何度でも発生する可能性があります。大震災を経験した神戸の教訓を、いかに能登のような災害で生かすか、いかに次の世代につなげていくかが重要です。

そんな中、防災全般に活用が期待されるのがデジタル技術です。デジタル技術の開発の現状などを考えようと、2024年12月13日、神戸朝日ホール(神戸市中央区)で「『実践型』デジタルで変える! 私たちの防災」と題したシンポジウムが開催されました。

その様子を、私たち2人(真田有希=神戸学院大学3年、千賀京美=神戸女子大学3年)がリポートします。

臼田裕一郎さん
臼田裕一郎さん

デジタル防災 能登で見た現状と課題

まず、国立研究開発法人防災科学技術研究所総合防災情報センター長の臼田裕一郎さんが、能登半島地震での経験を話しました。「24時間365日、ずっと防災のことを考えている」というプロフェッショナルです。

能登半島地震では、津波、地盤の液状化や隆起、建物や道路の損壊、土砂崩れ、火災などの被害がありました。阪神・淡路大震災での出来事が重なって見えます。

臼田さんによると、能登半島地震では2階建て建物の1階部分が潰れているケースが多く、大きな地震に耐えられる建物と耐えられない建物があることが分かったそうです。被災地には半年たっても状況が変わっていない場所もあり、「復旧復興にすごく時間がかかっている。非常に苦しい災害だ」と語りました。

能登半島地震後、石川県輪島市の様子=臼田さんのスライドから
能登半島地震後、石川県輪島市の様子=臼田さんのスライドから

デバイス進化 情報集約に生きた

一方、阪神・淡路大震災との違いとして、技術の進歩を挙げました。360度カメラや衛星通信のスターリンクといったデバイスによって、情報の把握や共有がしやすくなりました。臼田さんたちは、建物の被害や土砂崩れ、給水・入浴支援の状況など、いろいろな情報を早期にかき集めて現場や支援者に届ける活動をスタート。建物や道路の被害、避難所や給水所の状況などを集約できたといいます。

交通系ICカードも役立ちました。被災者のICカードを読み取ることで、避難所の利用、入浴施設の利用などの状況も把握できるようになり、さらに罹災(りさい)証明の申請などとひもづけることもできるようになりました。こうした技術によって、昔ながらの「(避難所など)場所に対する支援」ではなく「(一人ひとりの)人に対する支援」が可能になり、それが今後の方向性であり、課題でもあるそうです。

30年前では活用できなかったデジタル技術が現代では活用され、身近なICカードを使って被災者の把握ができるようになったことを知り、デジタル技術の進化に驚きました。

安部孝太郎さんの講演
安部孝太郎さんの講演

デジタルツイン 帰宅困難者を減らす

次に、NTTドコモ経営企画部事業開発室部長の安部孝太郎さんが、デジタルツインによる防災について話しました。神戸市と理化学研究所と共同で進めている取り組みです。

デジタルツインは、現実世界をデジタル空間上に再現。現実の双子(ツイン)のようなデータ環境を作り、シミュレーションに生かします。

安部さんたちは、坂の多い神戸市の地形を再現。人や道路のデータを地図に落とし込み、どれくらいの場所で混雑が起こるかをシミュレーションしたそうです。安部さんは、帰宅困難者対策につなげることで「1人でも多くの人が安心安全に過ごせる未来、まちが作れたらいいなと思っています」と語りました。

例えば、神戸の旧居留地エリアにはオフィスワーカーが多く、1.4万人から1.7万人が勤めているそうです。シミュレーションの結果、災害時にこうした人々が三宮や神戸、元町といった駅に行かずにその場にとどまれば、三宮周辺に帰宅困難者が殺到することが減り、混雑が40%軽減されることがわかりました。私(真田)は旧居留地エリアにバイト先があるので、自分にも深く関わる問題だと思いました。

LINEを活用 災害掲示板で情報共有

ここからは第2部。パネルディスカッションを通じて、シンポジウムの参加者も自分のスマホを使ってデジタル防災の取り組みを実践、体験してみる内容です。

■パネリスト
臼田裕一郎さん 国立研究開発法人防災科学技術研究所総合防災情報センター長/AI防災協議会・防災DX官民共創協議会理事長
鈴木哲也さん LINEヤフー株式会社サステナビリティ推進統括本部CSR本部長
福島直央さん ファストドクター株式会社 執行役員/神戸市レジリエンステクノロジーオフィサー
上月崇生さん 神戸市危機管理室課長(防災体制整備担当)
藤本真一さん NPO法人阪神淡路大震災1.17希望の灯り代表/阪神淡路大震災1.17のつどい実行委員長=司会

(左から)鈴木哲也さん、福島直央さん、上月崇生さん、藤本真一さん
(左から)鈴木哲也さん、福島直央さん、上月崇生さん、藤本真一さん

最初に、LINEを活用した災害情報共有システム「神戸市災害掲示板」を体験しました。「災害時は情報が足りない」ことから、神戸市とAI防災協議会が共同で開発したそうです。

災害時は、誰もがパニックになり自分のことに必死になると考えられます。そんなとき、どんな手段で情報を提供する側になれるのでしょうか?

この災害掲示板は、一人ひとりがスマホに被災状況を入力することで、全体として膨大な情報を集めます。実際に使ってみると、とても簡単な操作で情報提供・共有ができました。

神戸市災害掲示板
神戸市災害掲示板

神戸市のLINEのトーク画面を開き、「地震により停電し、信号機の機能を失っているため道路が混雑しています」と試しに書き込んで送信してみました。次に、地図上で自分の居場所を登録、写真も送信します。

こうした情報が集まり、スクリーンに投影されていきました。

ただ、誰でも投稿できるので、誤った情報やデマが流れないか心配です。これは、たくさんの人が投稿することで解決できるそうです。多くの人が善意の投稿をすればするほど、正しい情報が伝わるようになるからです。

この掲示板の実証実験で、神戸市では約1万人の方が参加したといいます。「やはり神戸市の方々は防災に対する気持ちが強い」と、AI防災協議会理事も務める福島さん(ファストドクター株式会社執行役員)は語りました。

スマホ避難シミュレーション
スマホ避難シミュレーション

地震だ! スマホで避難シミュレーション

次に、スマホ避難シミュレーションを試しました。スマホやパソコンからアクセスでき、ゲーム感覚で楽しく使うことができるアプリです。「災害に備えたほうがいい」という意識はみんな高いけれど、行動に移している人が極端に少ないという課題から、その差を埋めるために考えられました。

「スタート」ボタンを押すと、部屋が揺れる様子が表示され、中央にいるキャラクターが「地震だ!」と気づきます。「その場で頭を抱えて伏せる」など三つの選択肢が出てきて、回答していくとストーリーが進んでいきます。

子どもでも答えられ、キャラクターが実際に動くため楽しく学ぶことができそうです。家庭や学校での防災学習などで活用できると感じました。

地震10秒診断
地震10秒診断

地震の起こる確率は? 10秒で診断

最後に試したのは「地震10秒診断」です。

スマホやパソコンからアクセスするだけで「30年以内に起こる地震予測」を教えてくれます。電気やガス、水道が止まる日数のほか、建物の倒壊、火事の確率も診断できました。

いつ地震が起こるかわからない中、シミュレーションをすることで普段からできることや用意しておくべきことなどを考え直すきっかけとなりました。防災に対する意識も高まると思うので、多くの人に使ってもらいたいと思います。

阪神・淡路大震災後、ポートアイランドから長田・兵庫方面を望む=1995年1月17日、神戸市提供
阪神・淡路大震災後、ポートアイランドから長田・兵庫方面を望む=1995年1月17日、神戸市提供

阪神・淡路から能登 どんな変化があった?

デジタルツールを試した後は、「神戸に何ができるか、私たちに何ができるか」をパネリストのみなさんで話し合いました。

上月さん(神戸市危機管理室課長)は「『神戸市リアルタイム防災情報』というサイトを開設しており、災害に関する様々な情報を市民に分かりやすくリアルタイムで提供しています」と、神戸市の防災の取り組みを紹介しました。津波対策や水道・電気の供給システムなどハード面での整備も進めているそうです。

鈴木さん(LINEヤフー株式会社サステナビリティ推進統括本部CSR本部長)は、復旧復興をどう進めるか、長期的な観点で話しました。「復興のためには、被災地に継続して人が来る仕組みが大事です。SNSなどで双方向のやり取りができるサービスを作っていきたい」

復興に向けた取り組み

「できること、まだまだある」

福島さんは、情報を受け取るだけでなく、積極的に発信することの大切さを説きました。「災害など危機的な状況のときは『情報を出す』という方向で考えていただきたい。正確な情報を出せば出すだけ、みんなが助かる可能性が上がります」

藤本さん(NPO法人阪神淡路大震災1.17希望の灯り代表)は「阪神・淡路大震災から30年たちましたが、みなさんができること、神戸ができることは、まだまだあります。過去を語ること、そして今できることを伝えていくこと。それによって、新しく起きる災害に対しても一緒に立ち向かうことができると思います」と締めくくりました。

真田 有希

大震災を経験した神戸だからこそ、防災への積極的な姿勢を感じました。「防災とAI」という初めて学ぶことが多いテーマでしたが、ツールを体験し、より多くの方に知ってほしいと思いました。これらのツールが神戸から広まり、災害大国の日本で広く活用されてほしいと思います。

千賀 京美

防災に対する神戸の方々の意識の高さを実感しました。アプリの体験では、いざというときに役に立つ知識が多く、子どもたちでも楽しく学ぶことができると感じました。実家のある京都などでも、神戸で取り組まれていることが実現できたらいいなと思いました。