
神戸の海から始まった3つの挑戦
AI×海・環境学習・
藻場でつくるブルーカーボン
2026.02.19
港町である神戸。現在、神戸海域や瀬戸内海が直面する問題に対して、産学が連携してさまざまなアプローチを行っています。豊かな海を守るために、私たちはどんなことができるのでしょうか。神戸市が「海の未来づくりプロジェクト」として行っている多様な取り組みについて、神戸大学サステナブル都市研究会Sea.vic(池畑遥、北村真弥、林谷美槻)がリポートします。
神戸市が運営する「神戸SDGsオペレーションユニット」は持続可能なまちづくりを目指して、民間企業など外部のプレーヤーを巻き込んだプロジェクトを推進しています。ともに活動する団体のひとつが、「神戸大学サステナブル都市研究会」です。
神戸大学サステナブル都市研究会は、「海・ヒト・まち」をキーワードに未来の都市を産学官で考えていくために創設されました。ブルーカーボン(海洋)、グリーンカーボン(里山)、ホワイトカーボン(街中)の分野で連携を進め、この中に学生組織「Sea. vic」が置かれています。Sea. vicのメンバーは、所属学部はそれぞれ異なりますが、「都市開発」「環境」といったテーマに関心を持つ学生が集まって活動しています。
神戸大学サステナブル都市研究会 https://www.sdgs.kobe-u.ac.jp/project19.html
「海の未来をつくるには産官学がもっと連携し、技術や人材の育成が必要ではないか」という神戸市からの声掛けをきっかけに、今回、同研究会との「海の未来づくりプロジェクト」がスタートしました。具体的には①海×AI ②海の環境学習 ③持続可能な藻場づくり(ブルーカーボン)の3つの取り組みが行われました。それぞれの内容について、紹介します。
神戸の海をテーマに、AIで課題解決
2025年11月、神戸大学で、デジタルの力で課題を解決するイノベーション人材の育成を行なっているライフイズテック株式会社と連携したAI体験イベントが開催され、神戸大学をはじめ近隣の大学から約15人が参加しました。本イベントは、神戸市の海に関する課題を学び、AI技術を用いてその現状を訴えるCMを制作することを目的として行われました。
冒頭では神戸市の担当者から、私たちの生活から排出されるプラスチックごみが雨や風により川を経て海へ流れ込み、海洋ごみとなっているといった現状について説明がありました。こうした問題意識を共有したうえで、参加者はAI生成技術を活用したCM制作実習に取り組みました。
私(池畑)自身は、海岸に大量のごみが漂着している写真が印象に残ったため、家庭でのごみの分別を怠ることが海洋問題につながるというメッセージを伝えるCMを制作することにしました。画像や動画をAIに生成してもらうにはプロンプト(指示文)の作成が必要ですが、思いどおりのものを作ることに苦戦しました。スタッフの助言を受けながらプロンプトを改善し、徐々に映像を作り上げていきました。
中盤ではウミトロン株式会社の事業開発マネジャー・浅野由佳理さんによる講演が行われました。同社は持続可能な水産養殖の実装を目指し、自動給餌(きゅうじ)用のAIを開発・実用化しています。講演では「AIの便利な機能を使うのは人間であり、使用者が使いやすいプロンプトを作ることが重要である」といった指摘があり、これはCM制作の過程とも通じる示唆に富む内容でした。
最後に発表会を行い、各自が制作したCMを披露しました。短時間でありながら個性豊かな作品が多数生まれ、テクノロジーをうまく使えば、課題を多くの人にわかりやすく伝えられることを実感しました。若い世代の私たちが、海の未来にどう貢献できるかを具体的に考える、いい機会になりました。
地元の小学生と環境モニタリング
総合環境エンジニアリング事業を行う株式会社KANSOテクノスによる、神戸市立東須磨小学校の5年生を対象とした海の環境学習会が25年11月に開催されました。体育館での座学と須磨海岸での体験学習の二部構成で、生徒が身近な海の環境について学べる機会です。
まず、体育館での座学です。神戸市立工業高等専門学校の小澤研究室の協力のもと、水中ドローンで撮影した動画を使って、須磨の海の生き物やゴミについて学びました。海の近くに住んでいるものの、海の「中」を見ることが少ない生徒たちは、動く魚や底に沈むゴミに興味津々で、たくさんのメモを取っていました。
次に、須磨海岸に電車で移動し、須磨を含めた4つの海の栄養や汚れを測る体験学習を行いました。自分たちで海の水を汲んで試料にしたり、試薬を混ぜて色の変化を見たり、海ごとに値が異なっているのを発見する作業に、みんな夢中でした。また、先生の問いかけによって目指すべき「豊かな海」とは何かについて、前半の座学で学んだことを生かしながら、自分たちで考えている姿が印象的でした。
これまでも須磨の海を中心に色々な学習を積んできた彼らは、今回の学習会の後は生活排水の処理について学ぶそうです。企業が持つ技術やノウハウを活かした学習会が学校教育の中の一部となり、継続的な学びにつながっている取り組みは、今後も注目されるのではないでしょうか。
持続可能な藻場づくりに向けて(ブルーカーボン)
日本の沿岸部で、地球環境の悪化による藻場の消失が問題となっています。藻場は海の生態系保全で重要な役割を担うだけでなく、二酸化炭素(CO₂)を吸収・固定する機能をもつことから、地球温暖化対策としても注目されています。そのような藻場の可能性に着目し、藻場の再生・拡大に関わる技術開発や関連サービス事業に取り組んでいるのが、株式会社BLUABLE(ブルアブル)です。
同社は神戸市と連携し、25年11月より神戸の海域で手軽な藻場創生キットの技術実証をスタートさせました。持続可能な藻場づくりには、コストや手間を抑えて造成することがとても重要で、これからの実用化が期待されます。
そして、持続的な取り組みに向けてもう一つのカギとなるのが、「ブルーカーボン」です。ブルーカーボンとは、海洋生態系が光合成によりCO₂を取り込み、その後海底や深海に蓄積される炭素のことです。さらに、これを第三者機関が認証し「クレジット」として企業が購入できる形にしたのが「ブルーカーボンクレジット」です。事業活動で多くのCO₂を排出する企業がこのクレジットを購入すると、その分のCO₂を削減したとみなすことができます。同社は、このクレジットの申請代行も行っています。
藻場を造成した自治体や漁業者、環境保全団体などは、クレジットの売り上げから造成にかかった費用を差し引いた金額を収益として得て、さらなる藻場造成や地域向けイベントなどの資金として活用できます。つまり、地元企業が支払ったクレジット代金は地域に還元される仕組みになっています。
現時点では企業のCO₂排出量に法的な規制や罰則はありません。それにもかかわらずクレジットを購入する企業があるのは、事業活動を支えてくれている地域に対し、感謝の気持ちを還元したいという考えを企業側が持っていることが大きいと知りました。地元企業のそうした思いが形になる点に、この仕組みの素晴らしさと、将来の環境事業としての大きな可能性を感じました。


池畑 遥
CM作成を通して、AIを十分に生かすには、使い手側の学びが必要だと気づきました。イベントを通して、AIの現場活用事例や神戸の海問題についても触れることができ、興味関心が広がる良い機会となりました。
北村 真弥
色々な企業や団体の方との交流を通して、海に関する課題や魅力を多様な観点から学びました。そして、私だったらどのような関わり方が出来るだろうかと考える貴重な機会となりました。そのような機会が多くの人に訪れるように、今後も積極的に活動に取り組んでいきたいと思います。
林谷 美槻
インタビューを通して、自分が今まで知らなかった環境事業や新たな地域住民と地元企業のつながり方について知ることができ、とても楽しく学ばせていただきました。将来の社会のために行動されている活動が、より多くの方に知っていただけたらいいなと思いました。