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がん教育大阪サミット開催 がん教育大阪サミット開催
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高等学校における「がん教育」元年 高等学校における「がん教育」元年

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 がんの正しい知識を身につけ、健康と命の大切さを学ぶ「がん教育」が4月から高等学校で本格的に始まります。授業内容や教材などは都道府県、学校により異なり、現場では不安の声も聞かれます。そこで、大阪でがん教育に携わるがん専門医や行政担当者、教育関係者が集まり「がん教育大阪サミット」を開催し、がん教育を推進するための課題を語り合いました。

会議風景

松浦 成昭 先生

大阪国際がんセンター 総長
大阪対がん協会 会長

リモートでの参加

溝端 茂樹 先生

大阪府立堺東高等学校 校長

清田 正彰 先生

大阪府健康医療部 健康推進室長

山本 益久 先生

大阪府教育庁 教育振興室 保健体育課
首席指導主事/課長補佐

個別写真撮影時のみマスクを外しています。

八木早希アナウンサー

司 会

八木 早希さん

(フリーアナウンサー)

2人に1人がかかる
がんを正しく
理解するために

松浦成昭氏
八木 はじめに、がんを取り巻く現状について教えてください。

松浦 がんは日本人の死因第1位の病気で、がんで亡くなる方は増加の一途をたどっています。がんにかかる人も増えており、最近は年間約100万もの人ががんになっています。がんが増加している一番の要因は高齢化ですが、喫煙や食生活などの生活習慣とも関わりが深く予防が大事です。かつて、がんは不治の病とされ、がんにかかることは死の宣告を受けたのと同じだと考えられていた時代がありました。私が医師になった40数年前は、患者さんにがんという病名を伝えていませんでした。そのころは、がん患者さんの多くが残念ながら亡くなりましたが、その後、がん医療はどんどん進歩し、今は5年生存率が7割近くもあり、がんを早期発見すれば治る確率が高まります。このことが世間一般にはあまり伝わっておらず、「がんになると死ぬかもしれない」と短絡的に考えられています。こういう状況をぜひ改善したいと思います。がんになっても治る方が増えているということは、がんを経験した後に職場復帰される方が増えるということです。そういう方達の支援もしなければいけない時代に来ています。

八木 学校教育に「がん教育」が求められている理由をお聞かせください。

山本 がんは2人に1人がかかるとされ、国民の健康に大きな影響を与えていますが、子どもたちには「怖い病気」という印象が強く、正しく理解してもらう必要性があるからです。ある中学校でがん教育の授業を視察した時のことですが、授業前はがんがどのような病気なのか、どんな治療があるのかを生徒に聞いてもほとんど反応がない状況でした。教材のビデオを見てもらってからアンケートを取ると、「がんは治る病気」「がんは早めに見つけるとよい」と具体的な声が聞かれました。子どもたちにいかに早く正しい知識を身につけてもらうかは、以前から必要なことと言われてきたことですが、ここに来てようやく、がん教育の動きが加速化してきたように感じます。

清田 大阪府はがん検診の受診率が低く、がんでの死亡率が高いことから、がん対策は非常に重要と考えており、2012年度ごろから中学校などへの出前講座によるがん教育を進めてきました。15年度からは、市町村教育委員会にご協力をいただき、「大阪府がん対策基金」を活用した中学校でのがん教育のモデル事業もスタートしました。この間、大阪府としては、教育委員会と連携し、講師となる医師との調整や教材の作成などに取り組んできましたが、学習指導要領の改訂で22年度から高等学校の「保健」の授業でがんを扱うことから、これまでの私たちの取り組みが活用できればと考えています。

山本 大阪府教育庁から府立学校や市町村教育委員会に対し、がん教育を通じて生徒にがんの正しい知識とがん患者への理解を深めてもらうことを目的に、20年度から25年度を目標に外部講師を1回以上招いてがん教育を行うように依頼しています。実際に、外部講師を招いた学校の教員からは「生徒のがんに対する理解が深まったのはもちろん、生きることの大切さを伝えることができました。またこのような授業を行いたいです」という声をいただいています。
松浦成昭氏

医師らの協力を得て
外部講師を派遣する
リストを作成

八木 私はがんサバイバーから話を聞くラジオ番組のパーソナリティーを務めているのですが、がんを経験して命の大切さを実感したという方々の生き方に学ぶことが多いです。外部講師の現状を教えていただけますか。

山本 21年度の実施希望は府立高等学校16校、中学校17市41校、支援学校9校で、22年度に外部講師を招く意向調査はすでに終えています。今はコロナの影響で、体育館などに多くの生徒を集めることはできませんが、学校によっては各教室にモニターを置き、別の部屋で外部講師が話す内容を配信する方法で授業を実施した学校もあります。医師らの外部講師についてはがん診療拠点病院のご協力で充実したリストが作成できています。
清田正彰氏

松浦 私は、大阪府の医療体制は、非常に優れていると思っています。というのも、大阪府には国指定のがん診療連携拠点病院が18、大阪府がん診療拠点病院が49あり、大阪府がん診療連携協議会を作っており、私はその会長を務めています。これらの病院関係者を集め、教育庁の方にがん教育の講演をしていただきました。外部講師派遣の協力を依頼したところ、「子どもたちにがんを教えるのは大事」と前向きに考えていただき「がん教育も拠点病院の使命」として、外部講師を派遣いただけることになりました。医療現場と大阪府、教育庁が協力する体制ができ上がっていると思っています。

八木 これまでの実績から、外部講師リストがあるのは強みですね。

清田 そうですね。大阪府としては、必要に応じて学校と医療関係者の間に入り、コーディネート役のような役割を担わせていただきます。

清田正彰氏

高等学校で行った
DVD資材を使った
がん教育の例

八木 大阪府立堺東高等学校では昨年、がんの授業を行われたそうですね。

溝端 教育庁からの依頼もあり、がんの正しい知識と命の大切さを学ぶため、看護専門学校の学生が演じたDVDを2年生の一部のクラスで見てもらう授業をしました。このDVDは、親ががんになったことを子どもに隠すものの、結果的に子どもは病気のことを知り、親を支えるというストーリーです。1年生の時に生活習慣病の一環としてがんを習っていましたが、授業を受ける前は「がんは怖い」という生徒が大半でした。しかし、授業後は「がんは怖い病気ではない」という生徒が増え、「がんは早期発見・早期治療で治る病気」「がんを隠す必要はない」「がんイコール死ではなく、がんにはいろいろなステージがあり、早い段階で治療すれば十分に治る病気」と理解できた生徒もいて、意識がガラリと変わったことを感じました。授業の前には、親や親せきなど身近にがんになった人がいるかどうかのアンケートを取りました。授業を受けたくないという生徒もおり、その生徒には事前に授業内容を伝え、気持ちがつらくならないかを確認し、もしDVDを見ていて視聴したくないというような場面が出た時は、保健室で待機していていいという対処法まで話し合いました。身近にがんの人がいる生徒には、そのような配慮をして授業に臨みました。

松浦 外部講師を派遣した病院からは、「生徒が目を輝かせて話を聞いてくれたり、質問してくれたりするのがうれしい」という感想を聞いています。生徒からのいろいろな反応は教える方も感じ取っていて、やりがいにつながるようです。

溝端 私が保健体育の教員として生徒にがんを教えていたころは、冒頭で松浦先生がおっしゃったように「がんになる人が多いから、がんにならないように生活習慣を改めましょう」と教える程度でした。教科書に図解としてがん発生のメカニズムが載っていましたが、さっと伝えるくらいでした。学習指導要領が改訂され、22年度の「保健」の教科書にはがんだけで4ページを割いているものもあります。これからは、がんに特化した授業が展開できるのではないかと期待しています。

溝端茂樹氏
溝端茂樹氏

多様な教育課題への対応の中
外部講師を招く時間を
いかに確保するか

八木 がん教育を進めていく上での課題は、何だと思われますか。

溝端 「保健」の教科でのがん教育は授業に組み込めますが、学年全体で外部講師の話を聞くとなると、多様な教育課題への対応の中で時間をどう確保し、どのように講師を選定し、打ち合わせなどを調整する時間も必要です。がん経験者を招き命の大切さを育む話をしてもらうのか、がんという病気そのものについての基本的な情報を伝えるのかなど、どこに重きを置いて教えるかで時間の取り方は変わると思います。
山本益久
									氏

山本 学校全体を通じて行う教育活動は、情報モラルや国際理解、消費者教育など多岐にわたります。年間のカリキュラムは前年の夏ごろから計画を始めます。多様な教育課題への対応の中でがん教育を行うのは、カリキュラムの工夫が必要だと思います。

清田 学校現場の過密スケジュールは、がん教育を進める上での大きな課題であり、現場のご理解、ご協力が欠かせません。大阪府としてはがんの早期発見・早期治療のために定期検診の重要性を啓発していますが、大人になってからでは響きにくい状況です。高校生が大人になった時に、がん検診の必要性を思い出せるような印象に残る教育をお願いしたいです。

松浦 内閣府の幸福度の調査では「健康」に対する国民の関心が最も高く、高校教育で健康の大切さを教えるのは優先順位が高いと思います。健康をはばむ色々な病気がありますが、がんは命にかかわることもあるので、一つのモデルとして取り上げていただければと思います。

溝端 松浦先生がおっしゃったように、がんを一つの例として、将来はがん検診を受けて自分の健康をチェックするなど、生涯にわたって健康であり続ける能力を育てていくことが大事だと思います。

八木 がんサバイバーにお話をうかがうと、「闘病もつらかったけれど、周りの人たちの病気への理解のなさや、社会から取り残されていくような状況がつらかった」という方もいらっしゃいました。これは多様性を受け入れる、人権の問題にもつながることかもしれません。

松浦 がん経験者の中には、手術などの治療で障がいを負い、中には差別を受ける方も少なくありません。また厚労省の調査で、がんになった方の約3割は、仕事を辞めざるを得ない状況に追い込まれていると報告されています。これらは、社会や会社の理解が追いついていないから起こることでしょう。社会的弱者を受け入れて、支える姿勢を子どものころから教えることも大事だと思います。

八木 SDGsには「誰ひとり取り残さない」という考え方がありますが、がん患者さんへの理解はこの観点からも言えることですね。ところで、生徒から見れば、がんは大人になってからのことでまだ先の話というイメージがあると思いますが、AYA世代(15~39歳)のがんについても考える必要があるかと思います。

松浦 そうなんです。がんは高齢者に多い病気ですが、3分の1は65歳以下の壮年世代が罹患し、乳がんは40代が一番多いです。AYA世代もがんにかかりますが、種類が上の世代とは異なりますし、困り事も学校や友人関係、恋愛、結婚、出産など若い世代特有のものがあります。大阪府は府がん対策基金でAYA世代の支援活動をしていますが、高校生でも自分たちの仲間がある日突然がんになるかもしれないのです。入院して学校に復帰した時に、どのようにサポートできるかをがん教育で考えるのもよいと思います。
山本益久
							氏

教材のがん情報を
アップデートする
体制づくりが重要

八木 がんを伝えるための教材は、どのようなものがよいのでしょうか。

溝端 文部科学省が作成した教材に加えて、さらに教員に聞くとDVDやスライド教材など、手軽にがん教育で使えるテーマごとの教材を求めています。頻繁に外部講師を呼ぶのは難しいので、例えば患者さんの体験談を伝えるDVDを生徒に見せて感じたことをまとめるのも一つの方法です。教える教員もがんの専門的な知識を身につける必要があり、研修用にオンデマンドの動画をいつでも見られるようにしておくと理解が深まると思います。

山本 先日訪問した中学校のがん教育の現場では1~3年生に同じテーマ、同じ教材で教えていました。3年生は、がん患者やその家族など、複数の視点に立ち理解しようとしている様子がうかがえましたが、1年生には難しいように感じました。年齢に適した教材を使うことが高等学校でも必要です。

清田 おっしゃる通り、学年に応じて正しい知識を分かりやすく教えることは大事だと思います。がんの情報はネットや本などにあふれており、がん対策に取り組んでいる私たちでも「この情報は正しいのか?」と迷うことがあります。がん治療の最前線におられる医師の話には、難しい内容も含まれるので、いかに高校生に分かりやすく伝えるかがポイントになるでしょう。がん教育において、生徒にどのような内容をどのように教えるかは、教員と外部講師の医師との間で話し合いを重ねていく必要がありますね。

溝端 専門用語がたくさん出てくると生徒たちは理解できないので、やさしい言葉で伝えていただけると胸にすとんと落ちると思います。

八木 外部講師には分かりやすい話し方をしてくれたり、高校生に向けて伝えることを明確に理解したりしている方が望まれますね。事前準備のためのマニュアルのようものがあるといいかもしれません。

溝端 がん経験者に講師となってお話しいただく時に、「がんは怖い」という話を全面的に出すと生徒は引いてしまいます。この時間ではこういうことを伝えてほしい、とあらかじめ講師と打ち合わせできるとよいと思います。

八木 医療の進歩は早く、教材などは情報のアップデートが求められます。

山本 そう思います。1年かけて作ったものは1年前の情報ですから、アップデートする体制づくりは重要です。

松浦 医療の進歩はめざましく、医療現場では半年おきくらいにガイドラインが変わります。そこまでではなくても、医療の進歩に合わせた情報のアップデートを考えていかないといけません。子どもたちにがんの正しい知識を身につけてもらうために、学校の先生の意見を聞き、健康医療部、教育庁と協力しながら適切な教材、教え方を考えていきたいと思います。

会議風景
八木 今回の「がん教育大阪サミット」では、今後本格化する高等学校へのがん教育の課題を抽出しました。有意義なご意見をいただき、ありがとうございました。
会議風景

SDGsターゲットと
私たちの活動

sdgs
SDGsターゲットと私たちの活動
SDGs項目

【共 催】
小野薬品工業株式会社、朝日新聞社メディアビジネス局

【後 援】
文部科学省、大阪府、大阪府教育庁、日本医師会、大阪府医師会、大阪対がん協会、
日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会