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2023年3月27日

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高等学校のがん教育で正しい知識を身につける 高等学校のがん教育で正しい知識を身につける

 高等学校においての「がん教育」が、2022年4月から本格的に始まりました。大阪教育大学附属高等学校 平野校舎では3学期の「保健」の授業で4回にわたり、がんについて学んでいます。その2回目として2023年1月に「がん出張授業」を実施。大阪国際がんセンター総長で大阪対がん協会会長でもある松浦成昭先生を講師として招き、がんに対する正しい知識を学びました。また、元SKE48のメンバーでがんサバイバーの声優・矢方美紀さんのメッセージ動画「がんを乗
り越えて」の視聴により、がん患
者さんの想いを受け止めました。

松浦 成昭 先生

大阪国際がんセンター総長・
大阪対がん協会会長

松浦先生
高等学校においての「がん教育」についての概要

松浦 成昭 先生

大阪国際がんセンター総長・大阪対がん協会会長

  • がんを正しく学ぶ

     今回の「がん出張授業」は、2022年1月にがん教育に携わる専門医や行政担当者、教育関係者が集まって開催された「がん教育大阪サミット」を受けて行われたものです。サミットでは、がん教育を行う上での現場の課題やニーズを抽出し、生徒の年齢に適した教材が必要ではとの意見が挙がってきました。このため、がん経験者の体験談を伝えるビデオ教材として、元SKE48のメンバーでがんサバイバーの声優・矢方美紀さんのメッセージ動画「がんを乗り越えて」を制作し、大阪府内の高等学校で授業を実施することになりました。

     大阪教育大学附属高等学校平野校舎での「がん出張授業」は、治療方法を中心にがん全般についての概要を学んだ「がん教育」の1回目の授業のあとの2回目として、2年生の生徒114人が参加し行われました。授業の冒頭には担当教員から、1回目の授業後に取ったアンケート結果が伝えられました。「がんと聞いてどのようなイメージを思い浮かべますか」という質問に、「身近な病気」と答えた生徒が最も多く、「長い期間の入院が必要」が2番目に続く結果に。「がんは怖い病気だと思いますか」という問いには、9割の生徒が「そう思う」と答えていました。担当教員からは「1回目に学んだ基礎知識を整理し、今日はがんについて正しく学びましょう」と、2回目の授業の目的が伝えられました。

    事前アンケート1の図 事前アンケート2の図

     がんサバイバーである矢方美紀さんのメッセージ動画(詳細は下記参照)を視聴した後、松浦先生が「がんを正しく知りましょう」をテーマに講義をスタート。「1回目の授業で、がんは日本人の死因1位ということや、がんがどこにできるかを習ったと思います」と前回を振り返り、がんが1番多くできるのは大腸、2番目は肺、3番目は胃であり、食べ物や空気が入るような外部とつながっているところにがんができやすいといわれていることを説明しました。

     松浦先生は、がんがなぜできるのかが解明された背景についても紹介。「40年ほど前、ある研究者が大腸がんの細胞から遺伝子を取り出し、正常細胞に入れるとがん化を引き起こす遺伝子『がん遺伝子』を見つけました。このがん遺伝子ががんを引き起こす元凶であると思われましたが、正常細胞にもがん遺伝子とそっくりな遺伝子が見つかりました。これをプロト(原型)がん遺伝子といいます。つまり、がん化を引き起こす遺伝子は、もともと正常細胞にあるものが年月を経て少し変異したのではないかということが分かりました」と説明しました。

     「なぜこのような変異が起こるのでしょうか。正常細胞は本来、周りの細胞と協調しながらゆっくり増えていきます。皆さんの髪の毛や爪は毎日ちょっとずつ伸びますよね。これは根元の細胞が増殖しているからです。また、ケガをした時には、その部位を治さないといけないので、細胞は急いで増えます。このように周りの細胞と協力しながら細胞増殖するための遺伝子があるのです。この遺伝子がいろいろな原因、例えば喫煙や不良な食事習慣、ウイルス感染、放射線照射などが原因で変異し、自分勝手に増え続けるがん細胞に変異するのではないかといわれています。ほとんどのがんは、長年にわたって遺伝子の異常が蓄積してくることが原因で発生すると考えられています」と伝えました。

     松浦先生は、年齢・性別がん罹患(りかん)率や死亡率についても説明。罹患率は年齢とともに増加し、男性は女性の2倍くらいかかる人が多いこと、若い世代でがんになる人もいること、30~55歳の世代は乳がんや子宮がんのため女性の方が罹患率が高いことを紹介しました。「日本では毎年約100万人が新たにがんにかかり、40万人くらいが亡くなっています。近年、罹患率は増えていますが、がんの治療成績は着実に向上し、現在の5年生存率は約6~7割。がんは治りうる病気になったということをぜひ知っておいてください」とがんを克服する人も増えていることにも言及しました。

    講義風景
  • 予防への理解を深め次回以降の授業へとつなげる

     松浦先生は、がんが見つかるきっかけは、何らかの症状があって病院に行く場合と検診で発見される場合とがあり、画像検査(X線、超音波など)や顕微鏡でがん細胞を見つける病理検査などを行って診断することを話しました。がんの治療方法については1回目のがんの授業で学んだ、手術、放射線治療、薬物療法ががんの治療の3本柱であることを復習。「早期のがんであれば、手術か放射線治療で治るようになってきています。治療をした後もがんは再発することがあるので、5年くらい経過を診ないと治ったとはいえません」と経過観察をすることにも触れられました。

     がん患者の心のケアについても話がありました。「がんになると身体的・精神的な苦痛があり、病院では患者さんのつらさを和らげることに全力を挙げています。退院してからもつらい状態が続くことがあるので、そのサポートも必要です。患者さんの願いは、早く回復して元の生活に戻ること。身近な人ががんになったらみんなで支えましょう」と呼びかけました。

     最後は、がんの予防について紹介。予防には、生活習慣の改善などでがんの発生そのものを予防する一次予防と、検診などで早期発見・早期治療することでがんによる死亡を防ぐ二次予防があることを話しました。「がんの危険因子としてはっきりと分かっているのが喫煙と飲酒です。防御因子として確実なものはあまりありませんが、肝臓がんではコーヒーが『ほぼ確実な防御因子』といわれています。国は5つのがん検診(肺がん・大腸がん・胃がん・乳がん・子宮がん)を推奨しており、私たちは検診にとても力を入れています。検診でがんが見つかった人の方が、それ以外で見つかった人よりも5年生存率が高いからです。みなさんの保護者にも『がん検診に行った?』と聞いてみてください」と、生徒から保護者への検診受診を働きかけました。

     松浦先生の講義が終了すると、担当教員が「がんを見つけるには、がん検診を受けることが1番の方法だと思いました。みなさんは大阪府のがん検診の受診率を知っていますか。今は知らないですよね。そのような予防につながることを次回は学んでいこうと思っています」と3回目のがんの授業につなげました。

    講義を聞く生徒
  • 質疑応答

    聴講した生徒からは、
    活発な質問がありました

    • 17歳でがんになった場合など、若い人専用の治療はありますか。

      若い人専用の治療法というのはありません。治療方法はがんの種類によりますが、年齢による違いはなく、初期のがんなら手術か放射線治療を行います。

    • 若い人の方が高齢者よりも体力があるので、治療が行いやすいイメージがあります。若い人のがんが手ごわいのは、がん細胞がより増殖しやすいからでしょうか。

      14歳以下の子どものがんは8割くらい治っていますが、一般論として若い世代のがんは増殖が速いと考えられており「手ごわい」ことが多く、少し治りにくいです。

    • 質疑応答の様子
    • がんになった人に周囲ができる具体的なケアには、どのようなものがありますか。

      メッセージ動画の中で、矢方さんが脱毛した時に「頭の形がきれい」と友人がほめてあげたように、落ち込まないよう配慮してあげることです。仲間として一緒に勉強したりスポーツをしたりして支えてほしいです。

    • 日本人における部位別がんの防御因子で確実なものはないが、肝臓に対してはコーヒーが「ほぼ確実」というお話でしたが、摂取量の目安はどのくらいですか。

      コーヒーを毎日飲む人は肝がんの発生率が半分くらいに減少し、1日5杯以上飲むと4分の1にまで低下するという研究報告が出ています。

がんサバイバー・矢方美紀さん(声優)の
動画を視聴

 治療で脱毛し、着けていたウィッグを取った時に、『頭の形がきれい』といって理解してくれた友だちに救われました」とメッセージ動画「がんを乗り越えて」(制作・小野薬品工業。約10分)で語った矢方美紀さん。この動画では、25歳で乳がんと診断された経緯や治療について触れており、手術後に通院しながら抗がん剤治療を5カ月、放射線治療を1カ月行い、再発を防ぐために手術後5年経った現在もホルモン治療を受けています。
 「高校生のみなさん、がんは日本人の2人に1人がかかる病気といわれていますが、早期に治療すると治りうる病気です。だから、ちゃんと自分の体と向き合ってください。そして、がん患者さんのことを知ってください。がんを克服しながら普通に生活しているがん患者さんがたくさんいます。がんは決して怖い病気ではありません。がん患者さんと接する機会を怖がらず、みなさんと同じように接してください」と、矢方さんは動画を通じて呼びかけました。

  • 授業後の認識の変容

     授業後には、生徒へのアンケートを実施しました。今回の授業の満足度は「満足した」と回答した生徒が8割近くで、「あまり満足しなかった」「満足しなかった」の回答はなしという高い評価でした。この選択肢を選んだ理由については「がんについて知らなかったことを知れた」というコメントが多く見られ、「専門家から授業を受けられた」「がんに対する防御因子を知れた」などとあり、がんについて詳しく知ることができたことが満足度につながったようです。

     がんサバイバー・矢方さんの動画「がんを乗り越えて」については、「理解できた」「満足した」の割合が高く、伝えたいメッセージが理解されたと考えられます。松浦先生の講義は「理解できた」「興味を感じた」「満足した」「もっと知りたい」のすべての項目で「そう思う」と答えた生徒が7割以上あり、3回目以降のがん教育の授業への期待も高まっているようです。

     「がんサバイバーの動画を見て、がんに対するイメージは変わりましたか」という質問には、「変わった」「どちらかというと変わった」と答えた生徒が約7割で、生徒のがんに対するイメージが大きく変化しました。コメント欄には「不治の病というイメージから、早期に適切な治療を行えば治りうる病気という認識に変わった」「がん患者さんが普通に生活して仕事をしていることに驚いた」などの声がありました。松浦先生の講義についても「がんに対するイメージが変わった」「どちらかというと変わった」と回答した生徒は6割以上。がんの予防や防御因子などが正しく伝わり、イメージが変化したことがうかがえます。「このような特別授業があったらまた参加したいですか」という質問には、「参加したい」「まあ参加したい」と回答した生徒が9割以上。満足度の高さが次回への参加意欲につながったと考えられます。

    事後アンケート3の図 事後アンケート4の図
  • 【共 催】 小野薬品工業株式会社、朝日新聞社メディアビジネス局
  • 【後 援】 文部科学省、日本医師会、大阪府医師会、大阪対がん協会、
    日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会