「SATO 次世代に残したい里」選考会

四季折々、さまざまな表情をみせる日本の里。その豊かな姿を紹介するプロジェクトが10年ぶりに開催され、ひと月にひとつの里を取り上げるための選考会をおこなった。今回は、26の里から、春・夏・秋・冬それぞれ1~3ずつ、合計8つの里を選考する。

「里それぞれの魅力があるなか、プライオリティをつけるという大変な選考です」とのあいさつで始まった選考会。選考委員それぞれのまったく異なる里への視点をもとに、議論は白熱し、予定時間を大幅にオーバー。選考会を通して、日本の多彩な魅力が鮮やかに浮き彫りになっていった。

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、選考委員が一堂に会さないようオンライン会議形式で開催した

選考委員

  • あん・まくどなるどあんまくどなるど

  • 村瀬 誠むらせまこと

  • 大木 洵人おおきじゅんと

  • 保井 崇志やすいたかし

  • 岩倉 しおりいわくらしおり

選考では以下の3つのポイント「Perpetual(持続可能性的観点)」「Symbiotic(共生的観点)」「Artistic(芸術的観点)」を選考基準とし、春・夏・秋・冬の季節ごとの景観にも着目し意見が交わされた。

1. Perpetual(持続可能性的観点)
10年前に行われた「にほんの里100選」の事業趣旨および、ロレックス社のPerpetual Planet Initiativeが掲げているテーマでもある。10年前と比べても現在日本の里山はその持続可能性がさらに危ぶまれており、この点について若い人々を含めた社会に広く知らしめることが本事業の目的であるため。
2. Symbiotic(共生的観点)
里とは自然だけで出来るものではなく、人と自然の生活の営みの中で長い時間をかけて生まれてきたものであり、日本ローカルの伝統的かつ象徴的な思想である。人と自然の共生によって紡がれた多くのストーリーが存在し、その里で暮らす人々やコンテクストの重要性に再度スポットライトを当てることが、人々の共感を呼び、本事業が広まる要素となると考えるため。
3. Artistic(芸術的観点)
日本古来より存在し、今後も残すべき日本の美しい原風景が数多くある。この景観は芸術的な美しさを持つといっても過言ではなく、その美しさを若い人々に魅力的に伝えるためにも必要なため。

春の「SATO」

候補地5つのうちもっとも注目を集めた里が『京都府 伊根湾の舟屋群』だ。水面に浮かぶように連なる住居は「芸術的観点が高い」と高評価だった。カメラマンの保井氏は「景観が素晴らしい!」と絶賛した。

保井

地球温暖化で水面上昇した結果、舟屋に問題がおこっていることを、いろんな人に伝えていきたい

大木

初めて見た人は「日本にこんなところがあるんだ!」と感動するのでは

景観以外の視点からも評価が高い。約40年、雨水を利用して都市や農村を救うプロジェクトを行ってきた選考委員の村瀬氏は歴史にも着目。また、20年以上にわたり日本全国の農村・漁村のフィールドワークを続けているあん氏は未来への問題提起もおこなった。

村瀬

内湾に張り付くように建てられた住まいを兼ねた舟屋は、先人の知恵の結晶

あん

将来は危機に陥っている。それは、日本海全体に通じる問題。いまの人々のライフスタイルが近い未来にどういう影響を及ぼすかを考えるきっかけになるのでは

もうひとつ特徴的な候補地が、『東京都 小野路』だ。都市にある自然というコントラストが選考委員たちの興味を強く引いた。

保井

都内で自然・農業体験ができるのは貴重

村瀬

都市における入会(いりあい)による自然保護は、これからの都市農業を考えるヒントになる

さらには「春ではなく、秋で取材する手も!」との、新たな提案まで出た。

ほか、『山口県 祝島』についても、「石積みの棚田はユニーク」と景観への好意的なコメントがあった。一方で、10年前の「にほんの里100選」時にはなかった原発事故にも話が及び、“次世代に残したい里山”として、すばらしい海の生物多様性がある瀬戸内海の生態系保全と原発についても語られた。

初夏の「SATO」

初夏の候補には、北海道の2か所が挙がった。『北海道 浜中町』は湿原と漁業、『黒松内町』はブナ林が特徴と、どちらも美しい自然を地域や行政全体で守ろうと働きかけている。そこで持ち上がったのが「北海道の2か所をパッケージ紹介にしては」というものだ。

あん

北海道は里に関してフロンティアでありながら、独自のアイヌの文化があり、過去と未来が重なっている場所。これからの21世紀にどうやって日本の里の良さを大切にしていけるかを考えると、2つを一緒に紹介することは強いインパクトになるのでは?

もうひとつ注目を浴びたのが『島根県 西ノ島』だ。保井氏は「一番、印象に残った」とまで言い、牛馬の放牧とともに海が見えるインパクトを写真におさめたいと強く推す。大木氏もまた「交通機関が発達していなかった時におこなわれていた農法が、一度なくなったにもかかわらず、復活されている。知らない人はきっと驚くのではないか」と、昔の手法をあえて現代に蘇らせた功績に、持続可能な畜産・農業の可能性を感じさせた。

ほか、『富山県 砺波平野散居村』の人と自然が共存している美しさや、『静岡県・石部(松崎町)』の石組みの棚田など、景観の魅力が多く語られた。

選考会に参加するあん・まくどなるど氏

秋の「SATO」

日本の秋は、紅葉が印象的だ。しかし選考では、そういった目に見える美しさよりも、自然のための取り組みに評価が集まった。861人の村人が一丸となって森林を守り、黒字経営にしている『長野県 根羽村』。コウノトリを保全するために農薬に頼らない農法を実践する『兵庫県 円山川流域』。湖にいる魚が田んぼに入って産卵しやすい環境を作る『滋賀県 白王・円山』。地域の取り組みとポテンシャルも議論にのぼる。

さらに、景観の面からも、歴史の面からも好評の声が多かった『岩手県 萩荘(はぎしょう)・巌美(げんび)』の農村部には、800年前の中世から伝わる屋敷林がある。この歴史に着目し、未来に残したい里として賛同が集まった。

あん

屋敷林は最高です。東北は飢餓が大変だったので、屋敷林だとかろうじて冬が越せる食物が作れるんです。お寺や神社が活動の拠点にもなっていて、新しいことを生み出そうとしている良い事例

村瀬

このイグネ(屋敷林の呼称)の原風景を次世代に伝えるため、NPOと大学の協働に期待したい。若い人々に屋敷林の効果や自然再生の体験をしてほしい

写真撮影のビジュアル面に少し不安も出たが、「虫などのミリの世界や、あぜ道沿いの花を撮影してはどうだろう」と美しさと自然の意義の両面を被写体におさめるという、深みのある里の見せ方の可能性も提案された。

冬の「SATO」

秋が紅葉によらなかったことと同じく、冬もまた、雪の景観ではないところに日本の多様性があるのでは……という視点で選考会は進んだ。吊橋と大井川鉄道の景観が魅力の『静岡県 川根本町』など、その里そのものが持つ魅力に注目する。

とくに『宮城 蕪栗沼(かぶくりぬま)』、『秋田 八森(はちもり)』 は、どちらも一度、環境破壊が深刻になってしまった地域だ。宮城では、世界的に破壊されて問題となっている湿地が、秋田では乱獲により漁業が衰退していた。しかし、地域の人々が力を合わせて乗り越えている。現在、宮城は、国の天然記念物に指定されているマガンなどの渡り鳥がたくさんやってくる。マガンが湖で休息する様子は「衝撃的。夕景で見たい」(保井氏)と、生命の息遣いを感じさせる。また、秋田はハタハタが伝統食として復活した。

ハタハタという名について、こんな話も出た。

浅い海岸で魚が産卵していると「ハタハタ」という音が聞こえてくるそうだ。一時期、秋田でハタハタの数が少なくなった時に、漁師たちが「ハタハタの音が聞こえなくなって寂しくなった」と言っていたという。自然界を語る日本語の由来に、あらためて、選考会参加者たちが日本の生活に伝わる美しさに思いを馳せる場面もあった。

海に囲まれた日本は、場所によって表情が変わる。この静岡、宮城、秋田という3県を並べ、あん氏は「この3か所に“日本列島の万華鏡”が含まれてくるのでは」と目を輝かせた。

あん

里にいろんな人たちが入ってきて、昔の形にこだわらずに、良いものを取り入れている。里の先駆者として、すばらしい過去の歴史と、未来の可能性をつなぐ3県です

それを受けて村瀬氏は、10年前に開催した『にほんの里100選』を振り返り、「10年前とくらべ、地球環境問題が里の環境により深刻な影響を及ぼすようになっている」と述べ

村瀬

宮城の蕪栗沼でマガンが増えすぎたり、沖縄の久米島でサンゴが白化、死滅したりしているのは、地球の温暖化の環境サイン。里の環境保全の取り組みを地球規模の取り組みにしていく必要がある

選考会に参加する保井 崇志氏

最後に

選考会は白熱し、予定時間を1時間ほどオーバーして議論が交わされた。ひとつ一つの里について、丁寧に熟考された。そのうえで最終的に、「1年かけて紹介される各地の里を通し、どんな日本の全体像が浮かび上がるか」という大きな視点で8つの里が選ばれた。

最後に、今企画の担当カメラマンとして里の景観に深く注目していた保井氏は、「写真活動を見直すきっかけになりました」と選考会を振り返る。

保井

単純に目を引くだけでなく、その裏にあるストーリーや問題や課題を、写真というビジュアルにどれだけ込められるかを考えた

これから始まる取材の中で、どのように日本の里が紹介されていくのか、期待が高まる。

選考会結果

秋の「SATO」
東京都 小野路岩手県 萩荘・厳美の農村部
冬の「SATO」
滋賀県 白王・円山宮城県 蕪栗沼秋田県 八森
春の「SATO」
京都府 伊根湾の舟屋群福岡県 星野村
初夏の「SATO」
北海道 浜中町/黒松内町

※本選考会で選ばれた8か所の里は、新型コロナウイルスの感染拡大状況により、取材地が変更になる可能性があります。

INTERVIEW