われら専修人 vol.10 デビュー作「負け逃げ」というタイトルには実はポジティブな意味が込められています こざわ たまこ 小説家

学生時代より、芝居、戯曲、そして文学と創作活動を続けてきた、こざわたまこさん。専修大学卒業後も、働きながら文章を書き続けています。東日本大震災を機に、出身地である福島県南相馬市の震災以前を描くことを決意。新潮社主催「女による女のためのR-18文学賞」を受賞し昨秋、初の単行本が刊行されました。

震災前の気持ちをストレートに書きとめた作品


こざわ たまこさん

大学を卒業して3年目の2012年、新潮社が主催する公募新人文学賞「女による女のためのR-18文学賞」の読者賞を受賞しました。卒業後に就職し、働きながら執筆を続け、書き上げた作品でした。

実は就職してからは小説を書くということは少ししかしておらず、ちょっと書いてはやめてということを繰り返していました。最後まで書き上げることはなく、このまま表現の場から遠ざかるのかなぁと思っていました。

そんななか、2011年に震災があり、故郷の人達が元気をなくしてしまう状況が続いていました。「なんで福島出身の私たちがこんな目に」という思いが地元の人はもちろん、東京に出てきた私自身にもありました。どうしようもない力が働いて被害者になってしまい、「なぜ自分の生まれた場所が奪われるのか」「なぜこのようなことになったのか」ということをぐるぐると考えていました。それを払拭したいという気持ちがあって、改めて小説を書こうと思ったのです。

小説を書くにあたって、被害者意識とは切り離した部分に目を向けようと考えました。福島を応援する気持ちはもちろんありますし、震災前、自分が過ごしていた故郷は大事な場所です。でも手放しで「全部が好きだ」と思える場所ではなくて、しがらみや土着的なものには嫌悪感を抱いていました。それが嫌で東京に出てきた気持ちもあります。震災後、「大切にしよう」という気持ちが芽生える前の普通に生活していた頃の気持ちを書きたいと思いました。そこで田舎の閉塞感に悩んでいる高校生を主人公にしたんです。普通に「福島のこういうところ嫌だよね」「田舎ってこんな嫌なところあるよね」と、そういうふうに言えるのは自然なことだと思っています。

勝ち逃げできる人はほんの一握りで、ずるいこと


『負け逃げ』 こざわたまこ
新潮社 1,728円(税抜)
2011年の震災以前に作者が抱いていた、地元の閉塞感、鬱屈した風景、そしてそこで生きる高校生、大人の姿を赤裸々に描く。「大型スーパーと国道沿いのラブホが夜を照らす小さな町で、息苦しさを抱えて暮らす高校生と大人たち」、彼らが抱える若さとあきらめ、せめぎあう葛藤がスピード感ある映画のような筆致で読者に迫る。

2015年9月、新潮社から初の単行本となる『負け逃げ』が発刊されました。このタイトルは一見ネガティブですが、実は「勝ち逃げできる人たちはずるいな」、という気持ちが私自身のなかにあるんです。しかも勝ち逃げできる人は少なくて、大抵は負けてしまう。負け組のなかでも逃げることぐらいは許されてほしいと思うのです。「負け」と「逃げ」でネガティブですが、「勝ち逃げ」というずるい行為よりも希望をこめています。

本のストーリーは受賞作の『僕の災い』から、連なる物語を短編でまとめています。私の故郷への思いが詰められています。また、“田舎”という言葉から自分が連想した家族の問題、学校の問題が描かれています。状況設定などは重いと感じられるかもしれませんが、途中であきらめずに最後まで読んでいただけたら嬉しいです(笑)。重い話に出てくる登場人物達がどんな結末を迎えるのか、楽しみにしてください。

演劇部や戯曲での学びが小説にも生かされています

高校時代から演劇部に所属していたこともあり、大学入学時にはサークル歓迎の舞台を見て、やはり演劇部(※1)に入部し、4年間続けました。

子どもの頃には引っ込み思案で授業中に手も挙げられなかったのですが、高校から大学と演劇に関わって、人前でしゃべったり、表現できたりすることが自分のなかで自信になりました。とはいえ、最初は裏方のつもりで入ったのですが、人がいないからという理由で舞台に立つことになって。

裏方では、やはり脚本に興味がありました。小説や漫画が好きなので、その延長で「書きたいな」と思っていたのも確かです。高校在学中には脚本を書き、その台本で演劇部で大会に出場しました。

いま、芝居は観る専門ですね。小説を書いている時の会話の部分が演劇の戯曲を書いていた時の感覚に近く、ちょっとは生かされているのかなと思います。例えば、できるだけ説明せずに説明するということがあります。「過去に罪を犯している」「出戻りの人」といった背景が会話の端々や相手の受け答えで、匂わすという具合です。これは戯曲のやり方だと思います。それが小説のなかでも一から十まで説明しなくても、相手との受け応えでわかるように会話を進めていくところが近いと思います。

大学では2年生から所属した小林恭二先生のゼミ「文藝創作」で多くのことを学びました。ゼミでは1年に2~3作の作品を仕上げ、それを発表するという活動をしていました。20枚制限の短編でしたが、書いている内容はいまとあんまり変わってないです。田舎を題材にしたものが多かったですが、いまよりも奇をてらった感じで、周りと違ったものを書きたいという思いが強かったです(笑)。

先生にはデビューの報告をしましたが、私が戯曲を続けるものと思っていらしたようで、小説を書いているということに驚いてらっしゃいました。

※1 専修大学演劇研究会「劇団畝傍座(うねびざ)」

閉じられた空間とそこにいる人そこから抜け出す衝動を描きたい

いま、担当編集者の方と取り組んでいるのが母と娘の話です。しがらみや閉塞的な空間のなかで、どういう人間関係が繰り広げられていくのかということを書きたいと思っています。その場からの逃げ出しや、そこに居続ける葛藤を描くのが目指すところです。また『僕の災い』を書いた時のような初期衝動を5年経っても10年経っても変わらずに持ち続けていたいと思っています。周囲の反応や意見に惑わされず、しがらみから抜け出したいという衝動をしっかり描いていくつもりです。

小林先生のゼミで特に教わったことは、「最後まで書き続けること」です。クオリティや内容云々より、最後まで書き上げるということを厳しくおっしゃっていました。もし作家を目指される方がいらっしゃったら、最後まで書ききって欲しいなと思います。また私自身もそうですが、小林先生との出会い、友人との出会いなど大学での出会いを大切にしていきたいと思っています。もし付き合いがなくなっても、出会いで得たものは残っていくものです。大学で巡りあった人、出来事を大切にして欲しいと思います。(談)

作家・こざわたまこが影響をうけた本

『トワイライト』
重松清

「文学賞受賞作ではありませんが、同窓会もので、集まった大人がタイムカプセルをきっかけに展開していくノスタルジーな話です。好きで何度も読みかえしています」

『トパーズ』
村上 龍

「初めて読んだ村上龍さんの作品です。10代の頃に読んで刺激が強くてのめりこんでいきました。小説でこんなことを書いて良いのか! と衝撃でした」

『I T イット』
スティーブン・キング

「ラストが素晴らしい作品だと思います。文庫だと4冊組で、とても長く、読むのが大変なのですが最後の1行を読むと頑張って読んできてよかったと思える作品です」

土田世紀さんの作品

「もうお亡くなりになった漫画家さんですが、『夜回り先生』『編集王』などの代表作があります。中高生の時に出会って、その熱さに感動し、いまも読み返しています。すごく好きな作家さんです」

こざわ たまこ●福島県南相馬市出身。2009(平成21)年、文学部日本文学科卒業。2012年、第11回「女による女のためのR-18文学賞」にて「ハロー、厄災」(※2)が読者賞を受賞する。自分自身の過去や経験を題材に執筆。在学時には小林恭二教授のゼミに所属。

※2 受賞作は単行本収録にあたり『僕の災い』に改題。