
定型にとらわれず、植物、器、環境から発想を得る “一葉式いけ花”。
家元の家系に生まれ、次期家元となる粕谷尚弘さんは、「花や植物は年齢を重ねるとその良さがわかります」と魅力を語る。
大学生時代、初めてその奥深さに気付いたという粕谷さん。
“いけ花”の継承者として国内はもちろん海外からも期待を寄せられている。


“一葉式いけ花”は昭和12年、祖父と祖父の姉が作った流派です。お花には古典花と自由花がありますが、私達は自由花で、まずは基本を学び、そこから段々自由になっていきます。最終的には植物の良さを自分なりに引き出すことを目指していきます。現在、父が三代目家元となり、僕が次期家元になる予定です。
二代目の祖父と三代目の父が海外に発信する取組みを積極的に行ったこともあり、北米、ヨーロッパ、アジアと世界に支部が多数あります。アメリカ、ニュージーランド、オーストラリア、インド、南アフリカなど多くの国に支部があり、そこで教室を開いている方がお弟子さんを取り、国外での規模は大きくなっています。日本国内では北海道から沖縄、宮古島まで全国に支部があります。
僕自身も何度も海外に出張し、数日間にわたりワークショップを開いています。現地の方も数日宿泊してワークショップに参加するのは大変なことだと思いますが、それでも100名規模でお弟子さんが集まってくれるのはありがたいことです。
僕がデモンストレーションを行うこともありますが、家元が表舞台に立つ時は裏方でサポートをします。また普段は教室をやっていて、生徒さんに教えることもします。
家元の家系ということで、子供の頃からみっちり学んできたかというと、そんなことはありません。もちろん基礎や要所は教わったと思いますが、どちらかと言えば、家元が生徒さんに教えている内容や、実際にお花を生ける姿を目の当たりにして、そこから学び取るといった感じです。中高生ぐらいからそのように接していたので、家元が言ったことを教科書で改めて見て、学んでいく……といった感じでした。

僕は杉並の専修大学附属高校から、そのまま専修大学に進みました。流派のこともあり、経営学部で経営を学べば、先々役立つのでは? という考えもあって進学しました。
大学では

学生時代、僕は次男なので、将来家元になるという意識はあまり持っていませんでした。転機になったのは大学3年生の時で、複数の流派の若手が集うイベントで作品を出すチャンスが巡ってきました。それまでは裏方的に親の手伝いをしてきましたが、そこで作品を発表した時、表現することの楽しさを感じて、そこから「この道に進むのも悪くないんじゃないかな」と思うようになりました。
また大学3年でちょうど就職活動の時期を迎えていました。いくつかの会社で面接をしていただきましたが、就職氷河期で思うように進路が決まらず、また面接で落とされることに傷つくこともありました。その想いを作品に代えて、自分自身の想いを投影していったという面もあります。
“一葉式いけ花”は、それぞれの個性を大切にし、自分式の花を生けることを目指します。大学3年の時も、誰かに評価されたからというよりも、自分で表現できることの面白さを感じて、自分が認めることができる、そこに魅力を感じました。一方で、やろうと思ったことを理解してくれる人がいる実感も得られました。誰かが、見ていてくれているという喜びもあったと思います。
大学卒業後、専修大学の生田キャンパスの図書館で展覧会をさせてもらいました。実はこれが初の個展でした。卒業前に「展示物募集」というチラシを見かけて、あ、やろかなと(笑)。同級生が入社式で社会人としてスタートを切るのと同じように、自分も区切りとしてチャレンジしました。以来、個展に近いものは毎年1~2回は開催しています。
大学では卒業10年目に武道館で、また昨年のホームカミングデーでもデモンストレーションをさせていただいています。個展の情報はたまにホームページやフェイスブックで掲載していますので、ご興味があればぜひ一度見に来ていただけますと幸いです。


大学卒業後、04年から留学し、度々花展に作品を発表してきました。日々過ごしてきて、将来家元を継ぐというのは、なにか儀式や宣言があったわけではありませんでした。「いけばなインターナショナル」という世界大会が5年に一度あり、その東京大会の時、様々な流派の次期家元が作品を展示し、そのなかで僕も展示することになりました。その時に自分の名前を見たら、「IEMOTO-Designated」と次期家元を意味する家元嗣が英語で書かれていて、「あ、僕が継ぐのか」と(笑)。家元はいきなりが多くて、その時の大会も本番直前に、「サブステージは、お前やってこい」という感じで、驚かされました。
いけ花は写真には残っても、そのもの自体は決して残ることはありません。誰かがやらなければあっという間に無くなる文化だと思います。いけ花をする人を増やしていくことが自分の使命だと思っています。
また植物の魅力はある程度年齢を重ねないとわからない部分もあると思います。校友のみなさんにも魅力を知っていただけたらとても嬉しいですね。

大学卒業後、海外留学を経て帰国し、個展や流派内外の花展に作品を発表する粕谷尚弘さん。
各所で「いけばな展」、「いけばなライブ」を積極的に行い、映画やドラマ等の華道指導や美術協力、他分野のアーティストや作家とのコラボレーションにも取り組んでいます。
海外ではニューヨークメトロポリタン美術館での「いけばなデモンストレーション」をはじめ、世界中でライブ、ワークショップを開催し、IKEBANAの評価を高め、逆輸入的に日本での再評価を目指しています。




かすや なおひろ●1980(昭和55)年生まれ。東京都出身。専修大学経営学部経営学科卒業。一葉式いけ花三代家元・粕谷明弘氏の次男として生まれる。幼少から学生時代にかけて家元に師事。大学卒業後、個展や流派内外の花展にも作品を発表し、各所で“いけばなライブ”を行う。