われら専修人 vol.16 一人ひとりが動き出せば介護業界はもっとおもしろくなる 秋本 可愛 株式会社Join for Kaigo 代表取締役

介護に関わる全ての人が自己実現できる社会を作りたい─。
若者が活躍できる環境づくり、関心を持つきっかけづくりに力を入れてきた秋本さん。
興味を持ったきっかけや活動を通じて学んだこと、今後の取り組みについてうかがった。

認知症を防ぐフリーペーパー作りに 打ち込んだ学生時代


秋本 可愛さん

若気の至りで卒業後すぐに起業して、最初はうまくいかずしんどいこともありました。でも、そこで支えてくれたのは仲間でした。彼らはいつも私を奮い立たせてくれます。一緒に面白いことがしたいから、私も頑張れる。振り返ってみると、学生時代からいつも私の周りには尊敬できる仲間がたくさんいました。

山口県から上京してきて、はじめて生田キャンパスを見た時は「都会の大きな大学だ!」と浮かれたのをよく覚えています。入学当初はサークルがとにかく楽しくて、授業の記憶が全然ないんです。まだ卒業して5年なのに、不思議ですね(笑)。

転機になったのは、2年の時にインカレの起業サークルに入ったことです。高校までずっとバスケットボールをしてきたので、打ち込むことがほしくなって入ったサークルでした。そこには同じ歳なのに意識が高く、やりたいことが明確な人がたくさんいました。その環境が大きな刺激になりましたね。

たまたまチームを組んだメンバーのおばあちゃんが認知症だったことから、「認知症の悲しみを減らしたい」とフリーペーパーを作ることに。それがコンテストで高く評価され、準グランプリをいただきました。この経験が、私が介護の世界に興味を持ったきっかけです。

介護業界に必要なのは課題解決力を持った若い力!

ちょうど大学2年の冬に東日本大震災がありました。あの時は、誰しもが「自分には何ができるだろう」と社会と向き合いましたよね。その時に私の目の前にあったのが、介護でした。


秋本さんが在学中に制作した、認知症予防に繋がるフリーペーパー「孫心」は、「Student Freepaper Forum 2011」で準グランプリを受賞。これを機に介護業界で名が知られることに。

介護は楽しいです。いろんな高齢者の方がいて、お互いの関わりの中で笑顔が増えたり、できないことができるようになって一緒に喜んだり。ただ、私が施設で働いた2年間でも職員の入れ替わりが激しく、介護する側の介護放棄の問題にも直面しました。そこで見えてきたのは、人生の最期が必ずしも幸せではないという現実と、そこを支える人たちは強い思いを持っているのに、それが叶えられない環境があるということでした。

フリーペーパーで賞をいただいて、介護に取り組む学生ということでいろんな方に興味を持ってもらいましたが、驚いたのは他に若い人がいないことでした。介護こそ、課題解決できる人が増えるべき業界なんじゃないか、若い人がもっと活躍できる環境をつくらなくてはいけないんじゃないか、そして、それに気付いてしまった私こそが取り組むべきなんじゃないか、そんな思いが強くなりました。同時に、介護業界への人材斡旋も大事ですが、それ以前の問題、つまり「掘り起こし」が必要だと考えたら、起業への道はすっと開けました。

新たな未来の介護を考えるコミュニティを立ち上げ

私がやりたかったことがリーダーシップ教育だと気付いたのは、独立して3年目でした。きっかけは「マイプロ」というアクションを生み出すプログラムに出会ったこと。「2025年、介護のリーダーは日本のリーダーになる」という思いから、新たな未来の介護について考えるコミュニティとして立ち上げたのが「HEISEI KAIGO LEADERS」です。

今では若手の介護リーダーみたいなポジションをいただいて、全国各地で講演させてもらうことも増えました。先日は厚生労働省の若手メンバーの方々と2050年に向けて何をすべきか意見交換をさせてもらったりも。そういう意識が高い人たちと仕事をさせてもらう中で思うのは、介護領域に限らず、それぞれの地域でどう生きたいか、そのために何をすべきかをもっと一人ひとり考えておかないといけないということです。

介護業界は若者に温かい業界で、たくさんの成長する機会をいただいています。今の私がすべきことは、次代を担う学生さんたちに何を伝えていけるかを考えること。できるだけ早くその流れを作るのが、今の私の使命だと思っています。


秋本さんが発起人となり立ち上がった「HEISEI KAIGO LEADERS」。一人ひとりの胸の中にある介護への思いを、小さくてもいいので何かしらのアクションに変えていくことを目指しながら、日本の介護の未来をつくるリーダーを育てていくコミュニティだ。写真は、介護への想いを行動につなげるためのワークショップ「KAIGO MY PROJECT」の様子。(写真提供:秋本さん)

人材育成に携わる者として人の可能性を愛したい

いろいろな活動をしていくうえで大事にしているのは、「できる・できないではなく、やりたいか・やりたくないか」という言葉です。挑戦したいけど怖い、そんなときにこの言葉が浮かぶと、すごく後押ししてくれます。「ああ、私これやりたい」って自然と一歩が出るんです。

あとは、人材育成に取り組む中で、人の可能性を愛することです。「可愛」という私の名前は、可能性を愛する、なんです。それってものすごく難しいんです。まずは自分の可能性を愛してあげないといけませんからね。

私はよく、学生さんに「早いうちからどれだけかっこいい大人に出会えるかだ」ということを話します。大体は近くにいる大人で限定してしまいがちですが、いろんな人に出会っていくと、「ここまでやっちゃうかっこいい人がいる」「私もこんなふうになりたい」と刺激を受けることが本当に多いんです。大事なのは出会いを大切にすること。そして、その時に「じゃあ自分はどう頑張るか」をしっかり考えることだと思います。

高齢化先進国である日本の取り組みには、世界中が注目しています。介護に限らず、障がい者や児童の問題など、地域にはいろいろな課題があるでしょう。  私は、介護領域で働く人は「いち早く気付ける人」ではないかと思っているんです。地域の課題にいち早く気付き、どう支えていくか、何ができるかを考え続けていくことが、社会全体を良くしていくんだと信じています。

何より、介護とは大切な家族の問題でもあります。介護離職という言葉が広がっているように、少しずつですが介護のことをオープンに話す場面は増えています。しかし、まだまだ家族の中の問題だと抱えこんでしまう人は少なくありません。でも、介護は決して特別なことではないですし、それを特に若い人にもっと知ってもらいたいんです。

一人ひとりが少しずつでも動き出せば、介護はもっと面白いものになるはず。そのためにも、これからの介護について一緒に考えていけたらいいなと思います。(談)

*2025年に団塊世代が後期高齢者となり、超高齢社会へ突入すると言われている「2025年問題」。高齢者の割合が全人口に対して18%を超え、社会保障費の増大や介護を担う人材の不足が懸念されています

あきもと かあい●1990(平成2)年生まれ。山口県出身。大学2年時に起業サークル「For Success」でプロジェクトチームを結成し、認知症予防に繋がるフリーペーパー「孫心」を発行。全国の学生フリーペーパーコンテストで準グランプリを受賞する。商学部マーケティング学科卒業後、2013年4月に株式会社Join for Kaigo設立。超高齢社会を創造的に生きる次世代リーダーのコミュニティ「HEISEI KAIGO LEADERS」の運営など、若き介護リーダーの一人として期待されている。