
話題のアーティスト、アイナ・ジ・エンドさんのマネージャー兼チーフプロデューサーを務める森分大翔さんは、入社間もない頃からガールズグループ・BiSH(ビッシュ)のプロモーションに関わるようになり、8年という時間をかけて積み重ねてきた信頼関係から現在のポジションを担うようになったという。その過ぎ去りし時間とは、どのようなものだったのか。学生時代にまでさかのぼってお話をうかがった。
卓越した表現力で見た者の心を揺さぶるアーティスト、アイナ・ジ・エンドさん。人気テレビアニメ『ダンダダン』第2期のオープニングテーマを手掛けるなど、注目を集める彼女のマネージャー兼チーフプロデューサーを務めるのが、森分大翔さんだ。
「天才的な魅力を持つアイナと真剣に向き合いながら、彼女がアーティストとして成長していけるように、目標を達成できるように、いつ何をしていくべきか考え、決断し、実現していくのが私の役目ですね」
自身の仕事内容について説明しているとき、森分さんは「仕事」という言葉を使わなかった。
「アイナとはほぼ毎日一緒にいて、仕事中もプライベートのときも連絡を取り合っているからか、プライベートと仕事の線引きはしなくなっています。うまくいえないんですけど、彼女をマネジメントすることが人生みたいな感覚なんです」
そう思える仕事と出合えた森分さんは、専修大学時代、どのような時間を過ごしていたのだろうか。


森分さんは、高校までプロを目指して野球に打ち込んでいた。しかし、その目標は叶わず、最初の挫折を味わい、専修大学へ進学している。その反動なのかどうかは分からないが、大学では「遊びしかしなかった」と当時を振り返る。
「飲み会ばかりしているサークルに入っていました。そのサークルや学外の仲間たちと一緒に、クラブイベントを主催したりもしていましたね」
クラブイベントとは、DJが選曲した音楽をバックに踊ったり、お酒を飲んだりして楽しむ、昔でいうところの社交場みたいなもの。大学2年のとき、300人規模ほどのクラブイベントを六本木で開いたのをきっかけに、2年間で幾度も開催した。最大で3000人を集めたイベントも自らが主催者となって手掛けている。
「大学に入るまで、クラブなど未知の世界でした。でも、専修大学の先輩に連れて行ってもらってクラブで遊んでいるうちに、自分たちで主催してみたいと仲間たちと盛り上がって」

DJの友人に声をかけたり、会場を手配したり、チケットを手売りしたり。高校時代には想像できないような、貴重な経験ができたという。
「大学生として勉強に勤しむとか、意識高く海外へ留学するとか、そういう人間は周りに一人もいませんでしたが(笑)、地元では出会ったことのないような友達が初めてできました。個性も出身地もバラバラだけど、何か感じるものがある仲間たちと一緒に笑ったり、楽しんだり、イベントを開いたり─専修大学に入ったのは、自分の人生で大きなポイントの一つだと感じています」
専修大学の先輩から紹介された集客のアルバイトでは、営業力を培うこともできた。初対面の相手の興味をいかに引き出すか、自分のプレゼンを通して納得してもらうか、バイト代は出来高制で上乗せされるシステムだったため、どうやって売り上げをつくるかといったことまで考えたという。
「野球に打ち込んだ経験、クラブイベントを主催した経験、アルバイト経験が企業の採用担当に刺さったのか、就職活動はすごく順調でした」
興味がわいた業界、会社をピックアップし、旅行や人材派遣、エンターテインメントなど9社ほどを受け、ほぼ全社から内定が出たそうだ。
ただ、3000人規模クラブイベントを主催し成功させていたことを考えれば、そのままイベント会社を起業するという選択肢もあったのではないだろうか。
「イベントはそれなりの利益が出ていました。でも、学生相手のイベントを大人になっても続けるというのは難しいと感じていて……。それに、3000人のイベントをやり遂げたことで、完全燃焼したところもありました。それなら、一度就職して企業におけるビジネスを経験したほうがいいと思ったんです」
エイベックス・エンタテインメントは10カ月という長期にわたってインターンシップが行われており、その間興味が高まっていったことから入社を決意したそうだ。

入社後、最初に配属された職種がテレビや雑誌、ラジオなどのメディアに所属アーティストを売り込む宣伝担当だった。そして、ここでアイナ・ジ・エンドさんが所属していたガールズグループ、BiSHと関わるようになる。
「私が入社した翌年にBiSHがエイベックスのレーベルからメジャーデビューしました。ただ、当初はたくさんいるアーティストの一つで、私はラジオ担当だったため、彼女たちをラジオに出演させたいときに局へ売り込みにいくという関わり方でした」
BiSHには、彼女たちの所属事務所や楽曲制作チームなどと一緒にプロモーション戦略を立てて実行するコアチームがエイベックス内に存在した。森分さんは、そのコアチームから「プロモーション活動の一つとしてラジオに出したい」という依頼を受け、出演枠を確保しにいっていたわけだ。
そこから2年間隔で自身の担当が変わる度に、BiSHにより深く関わっていくことになっていった。まず、ラジオ担当からテレビ局担当となるとほぼ同時に、コアチームにも所属するようになった。テレビ局への営業については、エイベックスに所属する全アーティストを担当しつつ、BiSHに関してはプロモーション全般に携わるように。
「その後、コアチームに二人いたA&Rの一人が抜けたことで、A&Rの一人となり、もう一人のA&Rが辞めたときからは、一人で務めるようになりました」
A&Rとは、レコード会社において、アーティストの育成や楽曲制作などをサポートする担当者のこと。つまり、BiSHのA&Rとして新曲をいつ出すのか、ツアーはどうするのか、3年後のビジョンとして何を描くのかなどを考え、所属事務所や楽曲制作チーム、メディアなどと調整を重ねながら全責任を負う立場になったわけだ。
しかも、同時期にプロモーション部門の課長職も兼務するようになっている。
「楽曲制作、ツアー、プロモーション戦略などをゼロから考えていく─それなりに経験を重ねてきて、こうすればいいのではないかという道筋を考えることはできるようになっていましたが、正解がある仕事ではないという責任は常に感じていました。私が少しでも怠けてしまったら、彼女たちの人生にも影響してしまう。だから、全力で向き合わないといけないという気持ちが強くなってきたのは、この頃からだったように思います」
こう聞くと、何かを決断することに対してプレッシャーや不安、恐怖といったものがともなってくると思うのだが、「それがなかったのがよかったのかもしれない」と森分さんは明るく答えた。
「野球で挫折はしていますが、専修大学で新しい仲間と出会い、クラブイベントを成功させ、エイベックスに入社してからもいろいろな経験を積み重ねてきています。そして、うまくやれてきたことが自信にもなっています。野球を通じて、へこたれない精神みたいなものも培われているし、難しい局面になっても、『何とかなるでしょ』と思えるんです」


森分さんが、ラジオ担当のプロモーターとしてBiSHに関わり始めた頃、彼女たちは「まったく売れていなかった」。そこから人気が出てきてライブツアーを行うようになり、2021年にはNHK紅白歌合戦に出場、2023年には東京ドーム公演を成功させている。
「最初の頃は小さなライブハウスで歌っていたBiSHが6年後に紅白に出て、8年後に東京ドームでライブする。この成長ストーリーを近くで見ることができたのは本当に忘れられない経験でしたし、今後の人生を考えても、もう一度あるかどうか分からない非常に貴重な体験だと思っています」
その東京ドームライブを最後にBiSHは解散。メンバーだったアイナ・ジ・エンドさんはソロ活動をスタートし、2025年4月からエイベックス・ミュージック・クリエイティブへと事務所も移籍した。移籍の相談を受けたとき、「アイナ・ジ・エンドというアーティストを本気で売るんだったら、俺がやるしかない」という気持ちになったという。だからこそ、エイベックス・ミュージック・クリエイティブへ移籍を決めてくれたことは「信頼してもらえていると実感し、嬉しかった」と語る。
「それまでは、音楽に関するところだけを見ていましたが、移籍後はライブやファンクラブ、グッズなど、彼女のアーティスト活動にかかわる360度すべてのことに対して最終決定を下す立場になりました。その領域の広がりや責任の重さを意識するようになったとき、アーティストとの向き合い方が一段深まった気がしています。本当の意味で、アーティストをプロデュースしているという実感があるんです」
アイナ・ジ・エンドさんは着実にアーティストとしての地盤を固めつつある。冒頭で紹介したアニメのオープニングテーマ『革命道中』はリリース1カ月前時点で、TikTokにおける総再生回数が1000万回を突破。リリース後わずか2週間でストリーミング1000万再生を突破している。今年の10月からは初ツアーもスタートする予定など、一段飛ばしで階段を上っている印象が強い。
「マネジメントすべてを担うようになってからは、ライブのちょっとしたことについても、一つひとつ試行錯誤を繰り返しながら、こだわりを持って取り組んでいます。その分、音楽会社の担当者として関わっていた頃よりも喜びの感触が変わってくるのではないかという気がしています。楽しみなんです」
アイナ・ジ・エンドさんのマネージャーとなり、より深く向き合うようになったことで、森分さん自身に何か変化はあったのかと聞いたところ、「よりピュアになったかもしれない」という返事が返ってきた。
「私は入社以来、ピュアに向き合うことが大事だと考えてきました。任されたなら『なぜ?』と考える前に、とにかくやってみることがすごく大事だな、と。アイナも、戦略やビジネス的なところは分からないと素直に認めて、こちらに任せてくれます。そういう彼女のピュアな部分を最近は受け取っているのかなと感じるんです。アーティストとしての魅力だけでなく、彼女のそういうところもリスペクトしています」
所属事務所のマネージャーとして、アイナ・ジ・エンドさんと向き合うようになってからは、まだ数カ月しか経っていない。マネージャーという立場も初めてのことで、日々勉強の繰り返しだという。ただ、そういう大変さよりも、今後への期待感や楽しみが強く伝わってきた。
(2025年8月取材)
専修大学校友会誌 鳳翼No.113より転載
もりわけ・たいしょう●2015年専修大学経営学部経営学科卒。学生時代からクラブイベントを主催。卒業後は、エイベックス・エンタテインメント株式会社に入社。プロモーターとしてメディアとのネットワークを広げる一方、BiSHのA&Rとしてプロデュースを担当。紅白出場や東京ドーム公演をサポートする。BiSHが解散し、メンバーの一人だったアイナ・ジ・エンドがソロ活動をスタートした後もサポートを継続。2025年4月に所属事務所をエイベックス・ミュージック・クリエイティヴへ移してからはマネージャーとして彼女の全プロデュースを担う。
アイナ・ジ・エンドさんの最新情報
公式サイト

2025年ツアー情報
ワンマンライブ “nukariari” 開催決定!
2025年12月20日(土)
[東京] 東京ガーデンシアター
開場/開演 17:30/18:30
㉄ @-Information
https://supportform.jp/a-information
(平日10:00~17:00)
著書

『達者じゃなくても』
アイナ・ジ・エンド/幻冬舎(2970円)
初のフォトエッセイ。仲間への想いやソロになってから抱いた覚悟などを惜しみなく綴った一冊。専修大学生田キャンパスも撮影場所に!