地域の人々の暮らしを支えてきた出光興産のサービスステーションを、より多様で幅広いサービスを展開する新たな拠点へと進化させる「スマートよろずや構想」。山梨の地で創業456年を迎える老舗企業、株式会社吉字屋本店は、そんな構想を様々な先駆的な取り組みで形にしつつある特約販売店(以下、特販店)の一つです。同社を率いる第18代髙野孫左ヱ門社長と、出光興産関東第二支店の森田健太郎さんが、サービスステーションのこれからを語り合いました。

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武田信玄のもとに「塩」を運んだ会社
人々の生活を支え続けて456年

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株式会社吉字屋本店 代表取締役社長 髙野孫左ヱ門さん

――吉字屋の創業は、戦国時代の1568年とのこと。大変長い歴史に驚きました。

髙野 「敵に塩を送る」ということわざは、戦国時代末期、塩飢饉で苦しんでいた武田信玄の領民のために、好敵手の上杉謙信が塩を提供したという実話から生まれたものです。この時、信玄の命を受けて越後から塩を運んだのが、先祖である初代の塩屋孫左ヱ門です。その功績から、甲斐国の通貨に刻印されていた「吉」の字を屋号とすることが認められ、「吉字屋」が誕生したのです。

その後、江戸時代中期から灯油や菜種油の取り扱いを始め、明治時代には日本に初めて石油が輸入されたことを機に、吉字屋が日本最古の石油販売特約店に。太平洋戦争や石油ショックといった幾多の時代の荒波を乗り越え、今日に至ります。

振り返れば吉字屋は、塩から始まり、行燈用の油、ランプ用の石油、自動車販売、自動車用燃料、液化石油ガス(LPG)、産業用の燃料や潤滑油、太陽光発電システムと、常に社会環境の変化に対応・適応しながら事業を展開してきました。通底するのは「この地域で生活をする皆さんにとって必要不可欠なものをお届けする」という信念であり、それこそが吉字屋の存在価値であると思っています。

――いま、特に注力されている事業について教えてください。

髙野 吉字屋では近年、「Total Car&Life Care Business」と目指す事業の姿を打ち出しています。モビリティ事業においては、サービスステーションはもちろんのこと、カーメンテナンスや洗車、車検、レンタカーなどの業務も展開。2005年には山梨トヨペットを子会社化し、自動車販売事業にも本格的に着手しました。さらに、産業用燃料やLPガス、太陽光発電システム、保険事業、食料品事業も展開し、お客様の生活全般における安全・安心・快適の実現を目指しています。

「最古にして最新たれ」「利より信」
時代を超えて受け継がれてきた思い

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――吉字屋が大切にしてきた理念やモットーを教えてください。

髙野 どんな時も必ず立ち返るのが「最古にして最新たれ」という経営姿勢です。吉字屋には、地域社会になくてはならない存在であろうと、真に役立つものを先駆けて提供し続けてきた歴史があり、そこで積み重ねてきた知識や経験が次の新たなチャンスへとつながっていきました。また、目先の利益ではなく、地域社会からの信用・信頼を大切にする「利より信」という仕事の価値観も、代々受け継がれてきました。

――その理念が表れているエピソードがあれば教えてください。

髙野 様々ありますが、最近では2014年2月、山梨に「バレンタイン豪雪」と言われる記録的な大雪が降りました。この地域も1mを超える積雪があり、1週間も孤立したほどでした。この時、吉字屋の社員は、前日から準備をして時間通りにサービスステーションを開店。さらに「1回15ℓ給油まで」と自主的に上限を設定しました。

後日、「石油ショック時の経験から、消防や救急、警察が出動する際に給油できるように、そして一人でも多くのお客様に給油できるように、との思いでした」と社員が話してくれた時は、ぐっときましたね。売り上げだけを考えれば、地下タンクに残っている燃料を売り切って早々と店を閉めても変わりません。でも、吉字屋の社員がとった行動には、まさに「利より信」が感じられ、非常にうれしく思いました。

――最近は「吉字屋道場」という取り組みも始めたそうですね。

髙野 社員には喜びややりがいを感じながら働いてほしい、そして、よりよい人材の採用・定着につなげたいという思いで、2年前から始めたのが「吉字屋道場」です。これは、吉字屋のこれまでの歴史やいまの取り組み、脱炭素化の時代に吉字屋が目指していることを伝えたり、社員ができることを自由に意見交換したりする場。1回の定員は10人に絞り、雇用形態も年次も問わず全社員が年1回参加することとしています。「皆さん一人ひとりが吉字屋の継承者です」と始めたこの活動、これからどんな成果が出てくるか期待しています。

――吉字屋に伴走してきた出光興産の森田さんは、吉字屋の取り組みをどう見ていますか。

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出光興産株式会社 森田健太郎さん

森田 社員の方々はもちろん、サービスステーションのアルバイトのスタッフさんとお話ししていても、社長の思いや大切にしてきた理念が浸透していると感じることがあります。吉字屋道場の成果もあるのでしょうし、日頃から風通しが非常に良い会社なのだと思います。

それに、髙野社長の非常に上品で落ち着いた雰囲気が、吉字屋さんの社風にも反映されており、それが「なんでも相談しやすい吉字屋さん」とお客様にも支持されているのだと思います。地元の方はもちろんのこと、出光社内でも吉字屋さんを知らない社員はいませんから、担当になった当初は緊張しましたが(笑)、温かく受け入れてくださって感謝しています。これからも、気を引き締めて取り組んでいきたいです。

髙野 森田さんは、出光興産に入社してすぐ吉字屋の担当になられたんですよね。いつも現場のことをとても大事にしてくださっているなと思いますし、丁寧にコミュニケーションをとってくれているのを感じます。

――ところで、孫左ヱ門さんというお名前は「襲名」をされたそうですね。

髙野 1995年に社長に就任し、その後2009年に、父から孫左ヱ門の名を引き継ぎました。襲名というのは、当主として「吉字屋を今後このようにしていく」という確固たる信念があるかどうかを問われているものだと感じます。この地で事業を行う価値が見出せるのであれば、そのあり方は先代と同じでなくてもいいし、次の代に同じことも求めない。時代や社会に応じた色々な孫左ヱ門がいていいのだと、最近はそんなことを思っています。

太陽光発電、バリアフリー、輸入食材店……
先進的なサービスステーションを次々と

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山梨県甲府市上石田にある「ASKアルプス通りプラザSS」

――山梨県内で運営している4つのサービスステーションでは、太陽光発電パネルの設置をはじめ、先駆的な取り組みをされています。

髙野 1990年、日本で、民間で初めて太陽光発電システムを導入した施設が「ASKアルプス通りプラザSS」(山梨・上石田)です。山梨は当時から、東海沖地震の警戒区域に指定されていました。エネルギーの供給業者として、非常時の燃料供給は「社会的な責務」であるとの考えのもと、太陽光発電システムと、熱源から電力と熱を生産・供給するコージェネレーションシステムを併設した給油所を作りました。開所当時は、通産省(現・経産省)の課長が祝辞を述べに来たり、韓国からも視察団がやってきたりするなど、大変な注目を集めました。

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ASKアルプス通りプラザSSの屋上に設置されている太陽光発電システム
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車椅子ユーザーのためのスロープを設置

――サービスステーションのバリアフリー化にも、早くから取り組まれました。

髙野 様々なお客様に愛されるSSを目指すべく、「ASKアルプス通りプラザSS」には、車椅子用のスロープとユニバーサルトイレを設置しています。私の知る限り、30数年前にこうした取り組みをしていたサービスステーションはほかにありませんでした。

また、「セルフASK甲府南SS」(山梨・甲府)に併設した山梨トヨペットの拠点「モビリティカフェFrascar」では、福祉車両に関する相談に応じています。ご自身で運転することが困難な方はオーダーメイド対応を必要とすることが大半なので、月1回、メーカーの方に直接相談できる場は貴重だと喜ばれています。

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セルフASK甲府南SSに併設している「モビリティカフェFrascar」
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ユーザーに合わせてオーダーメイドできる福祉車両の相談を受け付けている

ちなみに、SSの名前についている「ASK」とは、Amenity and Safety with Kichijiya(便利・安全・安心を吉字屋から)の略であると同時に、Ask、つまり「何でも言ってください」という思いを込めています。

――2011年からは、イタリア食材のお店も併設されたんですね。

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「モビリティカフェFrascar」内にあるイタリア食材のお店「Regalo(リガーロ)」

髙野 吉字屋発祥の業である塩事業を再び本格的に展開するようになったのが、2007年のことです。そのご縁で、イタリアの塩やパスタ、オリーブオイル、チーズ、ワインなどを扱う食材店「Regalo(リガーロ)」を2011年にオープンしました。いまは、「セルフASK甲府南SS」の隣に移転し、買い物に加え、食事や休憩ができるスペースになっています。

ちなみに、Regaloでご提供しているモッツァレラチーズは、私は「日本一フレッシュ」と自負しているんです(笑)。日曜にイタリアで乳を絞り加工、その後、空輸し検疫を経て、木曜には甲府の店頭に並んでいますからね。口に含むとホエーがじゅわぁ〜と広がるオススメの逸品ですよ!

森田 Regaloのパスタやデザートはどれも本当においしいですし、メニューも頻繁に入れ変わるので私も楽しみにしています。洗車やタイヤ交換を待つお客様がくつろいだり、山梨トヨペットさんのブースで車まわりの相談をしたりできる場にもなっています。また、ほかのサービスステーションでのイベント時に、ここのデザートをキッチンカーで販売しているのですが、とても好評なんです。今後、キッチンカーの展開をもっと増やしていけたら、と考えているところです。

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モッツァレラチーズにトマトソースとオリーブオイルを添えて
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Regaloで人気のオリジナルチーズケーキ

――これから目指すサービスステーションの姿はどのようなものですか。

髙野 サービスステーションの店舗が集約されていく時代、求められるのは「SSの機能強化(ワンストップサービス)」だと思っています。例えば給油に来たお客様が、車検や車販、コーティングの相談などもできるといった具合に。特に公共交通機関が限られているこの地で、自由で快適なモビリティを確保するには、私たちが果たせる役割は大きいと思っています。 

森田 1人のお客様と複数のつながりを持つという「一顧客・複数取引」の方針は、450年以上この地で商売をされてきた吉字屋さんに対するお客様の信頼がベースにあってこそ成り立つものだと思います。現状に決して満足しない姿勢も、吉字屋さんらしいなと思います。

「スマートよろずや」への進化で
地域の“御用聞き”のような存在に

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――「スマートよろずや構想」への可能性や期待をお聞かせください。

森田 2030年、揮発油の需要はいまより3割減の70%、40年には7割減の30%になるという試算があります。また、EVの保有台数が40年に向けて急増するという予測もあります。こうした変化に対応していくための施策の一つが、従来のサービスステーションを、多様なエネルギーやモビリティ、サービスの拠点に生まれ変わらせる「スマートよろずや構想」です。全国には約6000の出光興産のサービスステーションがありますが、地域のニーズや課題に合わせた6000通りの「スマートよろずや」が作られていってほしいと思っています。

髙野 昔、「御用聞き」っていましたよね。しょうゆや味噌、酒などの消費ペースを推し測りちょうどいい頃合いで各家庭を回るといったような。「スマートよろずや」もちょうどそんな発想で、この地で生活・仕事をしている人に深く関わり、皆さんの役に立てるサービスの提供を目指すものと理解しています。

特販店としては、出光興産の脱炭素に向けた様々な取り組みや、デジタル化による省人化と高い顧客満足の両立に向けた仕組みづくりには、大いに期待しています。それから、全国の約6000のサービスステーションが個々に取り組むだけでなく、連携して「よろずやネットワーク」のようなものを作り、新たな価値を生み出せたら面白いのではと思っています。

――特販店の次世代経営者向け研修「出光経営カレッジ」に、御子息の髙野泰斗取締役が参加したそうですね。

髙野 出光経営カレッジでは、同業他社の中での吉字屋、出光興産にとっての吉字屋というものを、客観的に捉えるいい機会を与えていただいたと思っています。出光興産の方やほかの特販店さんとの出会いもありましたし、これまで本人が考えていたことを覆されるような内容もあったと聞いており、参加して本当によかったと思っています。いつの日か、彼なりの「吉字屋像」を作っていくためのヒントを得られたのではないかと思います。

―― 最後に、今後の事業展開に向けて意気込みをお聞かせください。

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森田 いま出光グループのサービスステーションをご利用いただいているお客様は、全国に3000万人以上いらっしゃいます。これは、吉字屋さんをはじめ、全国の特販店さんがお客様との信頼関係を構築してきた証であり、そのつながりこそが出光の一番の強みだと思っています。その大切な拠点を守り続けていくために、特販店さんと出光興産の思いやノウハウを掛け合わせながら、共に新たなアポロステーションを確立していきたいと思います。

髙野 「いま責任を果たすこと」そして「将来に備えること」、この両方が大切です。前者においては、主軸であるエネルギー領域における安定供給、そしてお客様に必要とされるものを確実にお届けするという役割を担い続けることに注力していきます。後者については、社会環境の変化に常にアンテナを張り巡らしながら挑戦を続けていければと思います。近年は、山梨大学が中心となって取り組んでいる「水素・燃料電池」の社会実装に向けた活動にも参加しています。これからも決して臆病にならずに新たなチャレンジを続け、「最古にして最新たれ」を実践してまいります。

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