「わっかフェス」(主催:三菱商事、朝日新聞社、北陸朝日放送)の季節が近づいてきた。今回は金沢市を舞台に、人気アーティストPUFFYや友近、地元の伝統芸能団体、高校生らが集い、音楽やパフォーマンスで地域を彩る。能登半島地震から2年。避難生活や休校を経験し、「当たり前」の尊さを実感してきた石川県立七尾高校吹奏楽局の部員たちも、このステージで演奏を披露し、PUFFYと共に会場を盛り上げる予定だ。本番を前に、その思いを聞いた。

vol.1 「福島から石川へ――。被災地からつながる、歌声の絆」の記事はこちら>>

元気を呼び込む『マツケン』のメロディー

♪タンタッタ、タンタタッタ、タンタッタ、タンタタッタ――

ストーブがともる放課後の七尾高校音楽室。顧問の杉田映理子教諭の指揮のもと、アップテンポなメロディーが流れ出すと、演奏する部員たちの表情がほころんだ。「七高」の定番ナンバー『マツケンサンバⅡ』だ。

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指揮をする杉田教諭の手の動きに集中する七尾高校吹奏楽局の部員たち

フェス本番では、この曲に加え、アニメの主題歌として親しまれている『勇気100%』、石川県中能登町にルーツを持つ歌手・一青窈さんの代表曲『ハナミズキ』の計3曲を披露する。

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部員たちの演奏にあわせて『マツケン』のステップを踏む谷口さん

『マツケンサンバⅡ』では、マツケンさながらの衣装にカツラ姿で軽快なステップを踏む、「タニケン」こと1年生の谷口豪紀(たけのり)さんのパフォーマンスも見どころのひとつだ。

普段は打楽器を担当する谷口さん。昨夏、初代の「マツケン先輩」から指名を受け、2代目に抜擢された。自宅で「本家」の映像を見ながら練習を重ねてきたという。「衣装を着ると、スイッチが入るんです」と少し照れたように笑った。

再び演奏ができた日、「当たり前じゃないんだなって」

現在の部員は3年生が引退し、1、2年生の19人。震災当時は全員が中学生だった。

部長を務める2年生の高橋光彩(ひかり)さんは、中学3年の冬、能登半島地震に遭った。断水が続き、学校も冬休み明けから休校に。およそ1カ月間、祖母の家に身を寄せる生活を送った。中学校の卒業式を目前にして、ようやく自宅へ戻ることができたという。 

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リズムにあわせて演奏する部長の高橋さんはホルン担当

七尾高校に進学し、吹奏楽局に入部。再び楽器の音を響かせたとき、みんなで音を重ねる時間が持つ重みを実感した。「やっぱりみんなで集まって演奏するのは楽しいなって。これは決して『当たり前』じゃないんだなって」。震災を経験し、育ってきた地域や人とのつながりも、これまで以上に大切に感じるようになったという。  

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中学時代はアルトサックスを吹いていた久田さん。高校ではよりサイズが大きく、肺活量を必要とするテナーサックスに挑戦している

テナーサックスを吹く1年生の久田唯心(ゆう)さんも、仲間と演奏できる喜びをかみしめている。震源地に近い能登町で被災した。自宅にいたときに強い揺れに襲われ、食器が割れる音が鳴り続いた。必死の思いで外に飛び出した。

自宅は倒壊こそ免れたものの地盤が緩み、一時は避難生活を余儀なくされた。通っていた中学には転校していった友人もいた。そんな状況の中でも、久田さんは自分の生活や進路に向き合い続けた。

「負けたくないと思ったんです。勉強や受験で思うような結果が出なかったときに、『あの地震があったから』って言い訳をしたくなかった」。現在は実家を離れ、高校近くで下宿しながら学校生活を送っている。

高校で演奏を重ねるうちに、久田さんの思いは次第に「聴いてくれる人」へと向かっていった。

「自分たちも被災した側ですけれど、私たちの音楽で仮設住宅に住んでいる方とか、被災者の方たちをちょっとでも勇気づけられたら、元気になってもらえたら、という気持ちになりました」

演奏できること。仲間と集まれること。音を重ねられること。失われかけた時間を経て、部員たちはその一つひとつの意味を、あらためて感じている。

 先生の迷いを変えた部員たちの言葉

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笑顔で指揮を執る杉田教諭。音楽を楽しむ姿を自ら示す

2年前、七高は震度6強の揺れに見舞われた。校内には被災者が一時避難し、グラウンドが陥没するなどの被害もあったという。「全国のみなさんから届いた温かいメッセージや義援金に支えられました」と、杉田教諭は当時を振り返る。

一方で、被災地の現実を前に、部活動を続けることへの迷いも抱えていた。「こんな状況の中で、私たちは音楽なんてやっていていいんだろうか。そんな思いもありました」

その迷いを変えたのが、当時の部員たちの言葉だった。「生徒たちから、『自分たちの頑張る姿を見せることが、地域や被災した方に元気を届ける力になる』という声が上がったんです。その言葉に驚きましたし、励まされました。生徒たちの姿こそが、地域への一番のエールになるのだと教えられました」

音楽は、誰かの心に寄り添い、前を向く力になる。そう信じて、復興支援のコンサートに声がかかるたび、吹奏楽局はステージに立ってきた。

音楽で、会場がひとつになる瞬間を

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礼儀正しくも和気あいあいとした雰囲気の部員たち

そんな七高吹奏楽局の目標は、「聴いている人たちを幸せにすること」。そのために大切にしているのが、自分たちだけで完結しない演奏だ。

「私たちだけの演奏じゃなくて、観客の皆さんも手拍子などで参加してひとつになる。そういう時間をつくりたいと思っています。私もこの子たちと一緒に楽しみたい」と杉田教諭。その日、その場所に集まった人たちとしか共有できない音と空気を、最高のものにしたい。そんな思いから、指揮をしながら体を揺らし、ときには踊ることもあるという。

「わっかフェス」の会場では、約2千人が観覧する予定だ。

『マツケンサンバⅡ』で会場を沸かせる谷口さんは「2千人を笑顔にするつもりでやります」と意気込む。

部長の高橋さんも、ステージと客席の距離の近さに特別な思いを抱く。「拍手をもらえたり、アンコールをもらえたりすることが、すごく力になっています。楽しそうに演奏している私たちの姿から、少しでも元気を届けられたらうれしいです」

演奏する側と聴く側。境界を越えて、会場全体で音楽を味わい、楽しみたい――。部員たちは、一音一音に思いを込める。その音が、誰かの心にそっと残ることを願いながら。

放課後のサプライズ訪問!
PUFFYが七尾高校吹奏楽局を激励

PUFFY 修正版写真
PUFFYとの交流に笑顔がこぼれる七尾高校吹奏楽局の部員たち

本番まで2週間余りとなった3月2日。放課後の練習に励む七尾高校吹奏楽局の部員たちのもとに、突然、PUFFYの大貫亜美さんと吉村由美さんが姿を見せた。高校生の間でも、かつて大ヒットした楽曲がSNSなどを通じて再び親しまれているといい、思いがけない来訪に、部員たちは驚きの表情を浮かべながら、拍手で二人を迎えた。

この日、部員たちは本番で披露する予定の『勇気100%』を演奏。演奏を聴いたPUFFYは、本番に向けたアドバイスとして、「練習あるのみ! 練習でできたことは本番でもできるから、楽しんでやろう!」とエールを送った。本番では、PUFFYが代表曲のひとつ『渚にまつわるエトセトラ』を歌う際、有志の部員たちがダンスでステージに参加する予定だという。「緊張しそう!」と口にしながら、緊張しないコツを質問する部員たちの姿も見られた。わずかな時間ではあったが、同じ音楽を楽しむ仲間として、PUFFYと吹奏楽局の部員たちは確かな絆を深めていた。

オンラインでの後日配信を受付中
わっかフェス2026バナー

3月26日に開催される「わっかフェス」。会場観覧の申し込みは締め切りましたが、オンラインによる後日配信は引き続き申し込みを受け付けています。PUFFYのほかゲストの友近、金沢の郷土芸能 御陣乗太鼓、石川県内の高校生による吹奏楽と合唱の披露があります。ご興味のある方は上記バナーより詳細をご確認ください。

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