「六三四の剣」や「龍―RON」などの作品で知られるまんが家・村上もとかの「JIN―仁」(スーパージャンプ)が連載9年目を迎えた。あまり例のない歴史医療まんがだが、このほど単行本の12巻が刊行され、累計も100万部を突破。人気が広がりつつある。
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主人公・南方仁は東都大付属病院の脳外科医局長。タイムスリップで日本の幕末に流され、コレラや梅毒などに苦しむ江戸の人々を救うために奔走する。西郷隆盛、坂本龍馬、一橋慶喜ら、歴史上の人物も登場するが、「物語の中心となるのは、あくまで病気に苦しむ当時の庶民たち。そこに飛び込んだ現代の医者が何ができるのか。それを描きたかった」と村上は話す。
物語の魅力の一つが、抗生物質であるペニシリンの抽出など、史実では江戸時代にできなかったはずの医療行為を、仁が創意工夫を重ねながらやり遂げてゆく点だ。「当時の時代環境の中で、どの程度のことまでなら可能なのか、一つ一つ医療の専門家の方に確かめています。ただ、仁は本来、脳外科が専門なのに、研修医の頃の記憶などを頼りに、必要なら帝王切開までやってしまう。その意味では、ものすごい医者なのかもしれません」
村上は51年生まれ。「赤いペガサス」(77年)で、当時まだ珍しかったF1の世界を描き、剣道まんが「六三四の剣」では、小学館漫画賞(84年)を受賞した。
だが、戦前から第2次大戦を舞台にした前作「龍」以来、歴史ものに力を注ぐ。「小伝馬町の牢(ろう)屋敷の格子の幅まで調べました。ただ、そのまま描くと、中の人間の顔が見えなくなってしまうので、作品では少し広めにしています」。細部まで表現された吉原や江戸の湯屋などの描写は、まるでそこにいる気分になるほど。
そんなこだわりが評価されたのか、30代までの読者が多い「スーパージャンプ」の中で、50代以上の読者からのファンレターが目立つという。
このほど出た12巻では、仁は長崎に赴き、暴漢に襲われた英国商人トマス・グラバーの手術を担当する。「物語はこれからがクライマックス。仁は政治に巻き込まれ、歴史にどこまでかかわるべきかで思い悩む。そのあたりをきっちり描いていきたい」(宮代栄一)