日本医師会シンポジウム 採録 全ての子どもが、
健やかに成長できるために
~小児在宅ケアの推進を目指して~

動画講演

ご挨拶中川俊男
日本医師会会長

写真:中川 俊男 日本医師会会長

 我が国では、周産期医療や小児医療の進展、医療現場の方々のご尽力などにより、小児の死亡率は以前に比べて大きく減少しました。一方で、低出生体重児や、障害や慢性疾患などによって、長期の療養を必要とする子どもの数も増え、医療的ケア児は約2万人いるといわれています。 写真:中川 俊男 日本医師会会長

 このような状況下で、今年6月、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が成立した意義は大変大きいものです。小児在宅ケアをさらに推進していくためにも、本シンポジウムを通じて、医療的ケア児を取り巻く現状や今後の課題を国民の皆さんにご理解いただければ幸いです。

講演前田浩利
日本医師会小児在宅ケア検討委員会委員、
医療法人財団はるたか会理事長

地域で小児在宅ケアを
実践する

写真:前田浩利 日本医師会小児在宅ケア検討委員会委員、医療法人財団はるたか会理事長

まえだ・ひろとし/東京医科歯科大学医学部卒業。土浦協同病院小児科等を経て、1999年、あおぞら診療所(千葉・松戸)設立。2013年、医療法人財団はるたか会を設立し、理事長に就任。

増加する
「医療的ケア児」

 医療的ケア児(以下、ケア児)の背景には、小児医療の進歩があります。日本は、新生児死亡率が世界一低い国です。さらに直近30年間でも、子どもの死亡者数は減少しています。
 ところが、これが新たな問題を引き起こします。13年前、都内で脳出血を起こした妊婦さんが亡くなるという事件が起きました。原因は、新生児集中治療室が満床の病院が多く、受け入れ先がなかなか見つからなかったこと。医療の高度化で多くの子どもが元気に退院していく一方で、医療的ケアに頼って生きる子どもは病院に居続ける。そのため新たな患者を受け入れられない、という問題が日本中で起こっていたのです。
 現在2万人といわれるケア児は、この10年で約2倍に増加し、なかでも人工呼吸器等を必要とする重いケア児は4,600人、この14年で17倍に増加しています。

地域でケア児を
支える体制づくりを

 私は小児科医として、ケア児の訪問診療をしています。私どもの法人では、全国5つの診療所で約1,000人のケア児に在宅医療を提供しています。東京都では、2011年に在宅クリニックを作り、ケア児を「病院から地域へ」帰すことに尽力してきました。いま東京都では、新生児の長期入院の問題はほぼ解決しています。
 実は日本では長い間、「医療の必要な子どもは病院にいる、家や地域にはいない」と考えられており、ケア児は障害福祉サービスの対象ではありませんでした。そのため、ケア児の在宅支援の仕組みは整っておらず、市区町村との交渉を家族が担わなければならない、デイケア施設やヘルパーの数が少ない、登校には付き添いが必要、地域間でサービスの差が大きい等、いくつもの課題があります。
 ケア児が地域で成長し、学び、働けるように。また、ケア児も家族も幸せに暮らせるように──。医療・福祉・教育が連携し、社会全体でケア児と家族を支える体制を構築していけたらと思っています。

表:医療的ケア児の数

出所:奈倉道明氏(埼玉医大総合医療センター)の調査結果より作成

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講演自見はなこ
参議院議員、自民党女性局長

医療的ケア児と
こども政策

写真:自見はなこ 参議院議員

じみ・はなこ/2016年、参議院議員選挙比例区で初当選。「成育基本法推進議員連盟」事務局長、「Children Firstの子ども行政のあり方勉強会」立ち上げ等で活躍。小児科専門医・認定内科医。

多様な課題解決を担う
「こども庁」の創設を

 私は5年前まで小児科医として勤務し、医療的ケア児の支援にも携わっていました。そうした現場で政治の役割の重要性を感じ、国会議員になりました。
 子どもを取り巻く課題は、虐待やいじめ、障害、難病、貧困、不登校など多岐にわたります。これらの課題には複数の府省庁が関わっており、子どもに関する政策を網羅的に把握し司令塔となる存在はありません。
 例えばケア児の場合、様々な支援施策を担うのは厚生労働省ですが、ケア児の学校現場での課題は文部科学省の所管となります。さらに、18歳を境に都道府県と市区町村で所管が分断されることも、混乱を招いています。
 こうした縦割り行政を克服するために、総合調整機能を持つ「こども庁」創設に向けて様々な活動を実施しています。
 この取り組みのベースとなっているのが、超党派の議員連盟の活動により2018年に成立した「成育基本法」です。これは成育過程にある者や妊産婦に適切な成育医療の提供を推進するためのもので、ケア児についても包括的な支援体制の構築が明記されています。令和4年度予算概算要求では、保育所等でのケア児の受け入れ体制整備のために、国から自治体への補助率の引き上げなどの拡充が求められています。

国の「責務」を明記 
医療的ケア児支援法

 今年6月11日、議員立法により「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」、いわゆる医療的ケア児支援法が成立しました。ケア児が保育・教育を受けられる体制を確保する、18歳以上も含めた切れ目ない支援を行う、保護者の意思を最大限尊重する等、ケア児の生活全般を包み込み支える施策となっています。
 すべての子どもに医療・療育・教育・福祉の一体的な支援を届けるために、そしてこの支援の輪をさらに広げるために、今後も活動を続けてまいります。

表:医療的ケア児支援法の基本理念
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講演内多勝康
国立成育医療研究センター
もみじの家ハウスマネージャー

医療的ケア児者と家族を
社会が支える時代へ

写真:内多勝康 国立成育医療研究センター、もみじの家ハウスマネージャー

うちだ・かつやす/元NHKアナウンサー。社会福祉士。「クローズアップ現代」での取材を機に医療的ケア児の存在を知り、社会的支援の必要性を痛感。NHK退局後、2016年より現職。

当たり前のことが
かなえられない現状

 初めに、医療的ケア児者の家族を対象に実施された調査結果(*)から、生活の様子をご紹介します。
まず、多くの家族が抱える共通の課題として「慢性的な睡眠不足」「自分の体調が悪くても医療機関を受診できない」「子どもを連れた外出は困難を極める」などがあげられます。
 さらに母親のコメントとして「命の危険と隣り合わせで目が離せない」「社会から孤立している感じがする」「仕事を辞めざるを得ず家計が圧迫されている」、父親からは「リハビリや看護で早退するため仕事に支障が出る」、兄弟姉妹からは「母に甘えたくても相手にされない」「自分たちの学校には来てもらえず寂しい」などの声がありました。
 医療的ケア児の家族は、一般的な家庭では当たり前にできることがかなわない現状があるといえるでしょう。また、ひとり親家庭では、周囲に頼れる人がおらず孤立しているという、さらに深刻な状況が明らかになりました。

表:「行いたいこと」が容易にできない、ケア児者の家族の生活

出所:「医療的ケア児者とその家族の生活実態調査」(実施:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)より一部抜粋

肩の荷を下ろして
安心して過ごせる場を

 こうしたケア児や家族を少しでも支えるために、2016年、「国立成育医療研究センターもみじの家」が創設されました。国立成育医療研究センターが母体の医療型短期入所施設で、19歳未満のケア児と家族が最長9泊10日、くつろいで過ごすことができます。
 提供するケアは、看護師による24時間の「医療的ケア」、風呂や食事等の「生活介助」、保育士や介護福祉士による遊びや学びのプログラム「日中活動」です。利用希望者は大変多く、毎月20〜50家族の利用をお断りしなければならない状況です。
 これほど需要があっても、「もみじの家」では年間約2,300万円もの赤字が出ています。大変ありがたいことに我々は民間の方々の寄付に支えていただいていますが、このような不安定な収支の状況では同様の施設はなかなか増えません。
 今年施行された「医療的ケア児支援法」は、こうした状況を改善する追い風になるでしょう。ケア児の日常生活・社会生活を「社会全体で支える」とうたった基本理念は本当に素晴らしいものです。またこの理念を形にすることは、属性にかかわらず誰もが地域で存在し生活できる「インクルーシブ社会」に向けて、日本が大きく前進する機会になると期待しています。

(*)医療的ケア児者とその家族の生活実態調査 
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2020/05/koukai_200520_1_2.pdf

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