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日本医師会シンポジウム 採録 子どもたちの「いま」に寄り添う

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ご挨拶

 近年、我が国の子どもたちを取り巻く環境は極めて厳しい状況にあります。ネット上のいじめや児童虐待、さらに、コロナの影響による運動不足や精神的なストレスも問題となっています。また、内閣府の報告書によれば、子どもの7人に1人が相対的に貧困の状況にあるとされています。
 こうした状況を踏まえ、日本医師会では、講習会を通じて医師の意識向上を図ったり、積極的に政策提言を行ったりと、様々な活動に取り組んでいます。
 今回のシンポジウムでは、貧困などの子どもを取り巻く環境が成長に及ぼす影響、学校医の関わり、「こども家庭庁」の設置の意義などについて、お話をいただきます。子どもたちを取り巻く現状や課題を皆さまと共有し、その解決に向けて共に取り組んでいければと思っています。 写真:中川 俊男 日本医師会会長 中川俊男 日本医師会会長

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子どもの健やかな成長を阻害する要因

写真:五十嵐隆 国立成育医療研究センター理事長

五十嵐 隆 国立成育医療研究センター理事長
いがらし・たかし/東京大学医学部医学科卒業。ハーバード大学ボストン小児病院等を経て、東京大学小児科教授、東京大学医学部附属病院副院長、日本小児科学会会長、こども環境学会会長、日本保健協会理事など要職を歴任。2012年から現職。

身体的・心理的・社会的健康とは

 昨年、ユニセフの研究機関が報告したOECD加盟38カ国の子どもたちの健康に関する調査で、日本の子どもの身体的健康度は第1位でした。しかし心理的健康度は37位であり、アンバランスさが浮き彫りとなっています。

 欧米などと比べて、日本は貧富の差が比較的少ない社会と考えられてきました。しかし2018年のデータで、日本の子どもの相対的貧困率は13.5%に上ります。そして子どもたちの成長にとって、相対的貧困がさまざまな影響を与えることもわかっています。

 たとえば健康な生活習慣を身につける機会が減り、虫歯や肥満、低身長、骨粗鬆症などの増加につながる。自己肯定感や物事に取り組む意欲を持つことが難しくなる。仲間はずれやいじめの対象になる。また、こうした家庭では子どもが虐待を受ける割合が高い一方、同居する家族のケアのために自分の学習や生活が阻害される「ヤングケアラー」の問題も指摘されています。こうした家庭の貧困や両親の不和、不適切な養育などの「慢性的逆境」から、子どもが自分の力で抜け出すことは容易ではありません。

 2019年の調査で、日本の10~19歳の死因の第1位は自殺です。心の健康問題の約半数は14歳までに発症しているものの、見過ごされ、未治療のままでいることが多いとされます。国民運動計画である「健やか親子21」においても10代の自殺率を下げることが目標になっていますが、まだ実現することはできていません。

子どもとその家族を支援する体制を

 日本の子どもたちの95%が受診している学校健診は、病気のスクリーニングには極めて有用であり、世界に誇れるシステムです。しかし子どもたちの心の問題をチェックするシステムについては未整備、もしくはスクールカウンセラーなどの果たす役割が十分に検証されていないのが現状です。

 大切なのは身体的・心理的・社会的に子どもたちを支えること、つまり「バイオサイコソーシャル」な問題を発見し、支援につなげることです。そのためには病気の有無にかかわらず、身体、心理、社会性の面から子どもと家族を支援し、子どものリスクに対応できる体制を整備していく必要があります。

 学校医の8割は地域の内科医や小児科医が務めています。内科医や小児科医が、バイオサイコソ―シャルな課題に対応できるスキルを身につけること、そして小児の個別健康相談に対する体制整備が重要と考えます。将来的には、心理的・社会的サポートにもつなげていけるよう学校健診を充実させるのか、米国などのように個別健診の仕組みを充実させるのかを、社会全体で検討することが求められています。 ※さまざまな問題を「生物」「心理」「社会」の問題という3つの側面から捉え、理解していこうという考え方

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講演

学校医が果たす役割

写真:弘瀨知江子 東京都医師会理事

弘瀨 知江子 東京都医師会理事
ひろせ・ちえこ/聖マリアンナ医科大学大学院卒業後、開業医であった父の医院を継承。東京・大森地区医師会理事、副会長、学校医会会長を歴任、東京都医師会学校医委員会委員、令和元年から東京都医師会理事に就任、主に学校保健担当。日本学校保健会評議員。

多岐にわたる学校医の職務

 今から120年ほど前の明治31(1898)年、学校環境衛生の監視と健康障害の早期発見を目的として、公立学校に学校医を置く勅令が公布されました。大正時代には職員の健康保持・増進や児童の保護者に対する衛生講話なども学校医の職務に加えられ、昭和の時代を通じて学校医の重要性はさらに増していきました。平成8(1996)年には学校医が特別非常勤講師として教壇に立つことが可能になり、現在はがん教育や性教育などの保健教育に直接関与することもあります。

 学校保健安全法では、学校医の職務として①学校保健計画および学校安全計画の立案に参与すること、②学校の環境衛生に関する必要な指導と助言、③健康相談、④定期健康診断および臨時健康診断、⑤保健指導など10項目が挙げられています。中でも学校における保健管理の中核を占めるのが定期健康診断で、その主な目的は疾病をスクリーニングし、児童・生徒の健康状態を把握すること、および学校における健康課題を明らかにし、健康教育に役立てることです。

 現在は、学校医だけでなく産業医的役割を担い教職員の健康管理に関しても助言などを行うほか、コロナ禍の中で感染対策に留意しながら健康診断を実施するための対策や感染予防について、学校に指導・助言をすることもあります。

生涯の健康の基礎を養う教育

 第二次大戦後、学校保健・学校安全・学校給食の各分野で施策の拡充が進められた結果、児童・生徒の体格は著しく向上し、感染症などの疾病は減少しました。しかし一方で、体格の伸びに体力の伸びが伴っていない傾向が見られるほか、虫歯や近視、肥満の増加、身体的活動の減少と精神的負担の増大など、新たな健康課題も明らかになっています。学校現場においては、登校はするもののほとんどの時間を保健室で過ごす子どもも少なくありません。

東京都医師会では現在、児童・生徒向けに感染症やアレルギー、未成年の飲酒、喫煙、薬物乱用防止、ネット依存・ゲーム依存などをテーマとしたスライドを制作し、学校医が教室に赴いて授業をする際に使用するなど有効活用されています。

子どもたちが社会の変化に対応しながら、生涯にわたり健康な生活を送るために必要な能力・行動を育成するうえで、重要な意味を持つのが健康教育です。中学・高校で始まったがん教育など、社会の変化を反映した学校保健活動の中で、学校医の担う役割はますます大きくなっています。

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「こども家庭庁」創設の意義

写真:内多勝康 国立成育医療研究センター、もみじの家ハウスマネージャー

自見 はなこ 参議院議員、自民党女性局長
じみ・はなこ/小児科医として勤務した後、2016年、参議院議員選挙比例区で初当選。「成育基本法推進議員連盟」事務局長、「Children Firstの子ども行政のあり方勉強会」立ち上げ等で活躍。小児科専門医・認定内科医。

厳しさを増す、日本の子どもの環境

 いま、我が国の子どもを取り巻く環境は、大変厳しい状況にあります。小中高生の自殺者数は499人(2020年)と、統計を取り始めてから過去最多。児童相談所が相談対応した児童虐待の件数は20万件超(21年度)、さらに、ひとり親世帯の相対的貧困率は約50%という状況が続いています。

 私は小児科の勤務医として6年前まで診療に携わっていましたが、シングルマザーの方からは「仕事を続けるためには、子どもが病気のときも会社を休むわけにはいかない」といった厳しい実態を聞くことも度々ありました。

 国会議員となってからは、子ども政策に関する様々な活動を行ってきましたが、若手の議員有志による勉強会では、自治体や専門家、現場の方々から多数の意見を聞かせていただきました。また、国民の皆さまに対してアンケートを実施させていただきましたが、わずか2週間で約4万8千件もの子育てに関する深刻な悩みが寄せられました。

 こうした厳しい現実、そして皆さまの切実な思いが、「こども家庭庁」創設に向けて活動する私たちの原動力となっています。

「すくすく・のびのび・たくましく」を目指して

いじめ、不登校、虐待、ヤングケアラー、難病、障害など、子どもを巡る問題は多岐にわたります。現在はそれぞれの問題に、厚生労働省、内閣府、文部科学省、法務省、警察庁といった複数の府省庁が対応しており、一元的な司令塔機能はありません。また、国の家族関係支出の対GDP比を比較すると、フィンランドやスウェーデン、フランス、イギリスなどは3%台であるのに対し、日本は1.5〜1.7%にとどまっています。

 こうした状況を踏まえ、2018年に成立したのが「成育基本法」です。これは、日本医師会、日本小児科医会、日本産婦人科医会、日本助産師会、日本歯科医師会をはじめ多くの関係者、そして超党派の議員連盟の活動によって成立したもので、医療・保健・療育・教育・福祉を一元的に結び、成育過程にある者や妊産婦への適切な成育医療の提供を推進するための法律です。その中には、行政のあり方の見直しも検討事項として明記されており、このことが「こども家庭庁」創設の大きな基盤となっています。

 私たちは、すべての子どもが「すくすく・のびのび・たくましく」育つことのできる社会の実現を目指し、「こども家庭庁」創設に向けた提言を行ってきました。具体的には、妊娠期から切れ目のない医療・保健・療育・教育・福祉を一体的に支援すること、就学前教育格差の解消などを通して義務教育への接続を支援すること、さらに、ヤングケアラーや虐待、不登校などの課題解決も含めて子どもの生活全体を支援することを訴えてきました。

 また、縦割り行政の改善に加え、「こども家庭庁」には専任の大臣を置き、司令塔としての機能を持たせること、そして子ども政策に関する予算を倍増することなども要請してきました。

共に「こどもまんなか社会」の実現を

 多くの皆さまの思いが結実し、ようやく、「こども家庭庁」の設置法案を出すところまでこぎつけることができました(2022年4月4日時点)。いま審議をされている「こども家庭庁」の設置法案は、子どもや子育て当事者の視点に立ち、地方自治体やNPOをはじめとする市民社会と積極的に連携を図ることを基本姿勢としています。

 そして、産前産後から子育て期を通じた切れ目のない支援、様々な困難を抱える子どもやその家庭に対する包括的支援を担うことを打ち出しています。また、大臣を置き、他省への勧告権を有するなど、我々が強く求めてきた強い司令塔機能を持つ組織とすることがうたわれています。

 ただし、この法案が成立しても、それは最初の一歩にすぎません。放課後の子どもの居場所づくりや、CDR(予防のための子どもの死亡検証)、DBS(保育・教育従事者の無犯罪証明)、子どものホスピスなど、引き続き様々な検討を進めていきます。

今後も、一人ひとりの子どもが健やかに・幸せに成長していくことのできる「こどもまんなか社会」の実現を目指して、皆さまと共に活動を続けてまいりたいと思います。
※CDR=Child Death Review、DBS=Disclosure and Barring Service

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