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パネルディスカッション
パネルディスカッション
子どもたちの「いま」に寄り添うために
児童虐待は過去最多の20万件超に
西尾 令和2年度のデータによると、学校におけるいじめの認知件数は約51万7000件と依然として多いものの、割合としては15.6%減少しています。これはなぜだと思われますか。
西尾 由佳理 フリーアナウンサー
五十嵐 おそらく、コロナ禍で子ども同士の交流が減ったことが一番の理由だと考えられます。また、感染者や医療従事者の家族に対する差別・偏見などを生まないよう、学校として子どもたちに丁寧に目を配り、指導したことも影響していると考えられます。
西尾 一方で、同じく令和2年度中に全国の児童相談所が相談対応した児童虐待件数は20万件超で過去最多となりました。
自見 そうですね。ひとつには面前DV(子どもの目の前で配偶者や家族に対して暴力をふるうこと)を虐待に含めるなど定義が変わったこと、警察が虐待事案に積極的に介入するようになったことなど、いくつかの理由が考えられます。また児童相談所虐待対応ダイヤル「189」がスタートし、相談しやすい体制づくりが進んだことも一因だと思います。
現代の社会では子育てを担う人たちが孤立しがちで、特にひとり親家庭は深刻な状況にあるため、一刻も早い対応が必要となっています。
西尾 日本医師会のいじめや虐待に関する考え、対応を教えてください。
渡辺 いじめに関しては、ネット上のいじめが増加するなど、その形態が変わってきていることを認識すべきであり、新たな対応が必要だと考えています。現在、文科省のいじめ防止対策協議会において、重大事態における調査体制の整備や、被害児童・生徒や保護者への対応の重要性などについて提言しているところです。
虐待については2002年に「児童虐待の早期発見と防止マニュアル」を作成するなど、日本医師会は早くからこの問題に取り組んできました。2011年からは、妊娠期からの医療福祉支援が重要との観点から、「子育て支援フォーラム」を公益財団法人SBI子ども希望財団と共催し、これまで34都道府県で実施しています。
渡辺 弘司 日本医師会常任理事
わたなべ・こうじ/東京医科大学卒業、呉市医師会理事・副会長、広島県医師会常任理事を経て、2020年より現職。文部科学省の中央教育審議会委員の他、日本学校保健会副会長なども務めている。
西尾 学校医としての取り組みはいかがでしょう。
弘瀬 学校医は、日々の診療の中で子どもたちからのいじめや虐待に関する訴えがあった場合には、学校に伝え、課題を解決してもらっています。また、子どもたちと接する機会の多い養護教諭とも情報の共有を図っています。その他、身体的な虐待の兆候があれば、健康診断などの際に学校医が発見できることもあります。健康診断では、心臓・肺・側わんなどの疾患を見落とさないために脱衣による健診が不可欠ですので、プライバシーを尊重し児童生徒が安心して健診を受けることができるためにも区切られたスペースが必要なのですが、ここで、時に虐待を疑わせる傷なども見つけることができます。
西尾 いじめを受けている子どもたちが示すサインとしてはどんなものがあるのでしょうか。
五十嵐 通常、子どもが自分からいじめを受けていると語ることはありません。周囲の人々が普段と変わったことはないか観察しておくことが大事になります。「朝起きてこない」「携帯やメールの着信音に怯える」「家からお金を持ち出す」「表情が暗くなる」「学校で使う物や持ち物がなくなる」といった状況が見られる場合には注意が必要です。
増える10代の自殺 子どもの心に何が
西尾 続いてのテーマは、子どもの自殺です。令和2年、10代の自殺は前年に比べて17%も増加しています。この現状をどうお考えですか。
自見 子どもたちの自殺の原因は、多い順に学校、健康、家庭の問題ですが、おそらくは複数の要因が絡み合っていることも少なくないはずです。いかに自殺を予防するかというのは、社会全体で考えていくべき深刻な課題と受け止めています。
西尾 日本医師会でも子どもの自殺防止に向けた取り組みがありますか。
渡辺 自殺の防止に医療が果たせる役割は非常に大きいと考えています。日本医師会では「自殺予防マニュアル」を刊行しており、精神科医以外の医療関係者も積極的に自殺防止に関与するよう促してきました。コロナ禍においては、児童・生徒の自殺者数と、検索ワード「学校に行きたくない」の推移は相関があるとされています。このことから、今後は、学校側からのより積極的な介入、検索ワードに対する支援のフィードバック、自殺誘導サイトへのアクセス者に対する対応強化などが必要になるのではないかと考えています。
西尾 周りの大人は子どもにどういった様子が見られたら、気をつけなければならないのでしょうか。
五十嵐 「関心を持ってきたことに興味がなくなる」「不安やイライラが増す」「身だしなみが悪くなる」などさまざまな兆候が見られることが分かっています。
西尾 コロナ禍で学校現場が大きく変わったことも、子どもたちに影響を与えているようですね。
弘瀬 そうですね。児童・生徒の生活は激変したので、その影響が今後どんな形で現れてくるか懸念されます。マスクで人の顔がわからないことも、子どもたちに不安を与える原因になっていると考えています。学校医には、子どもたちが新たな学校生活における楽しみを見つけられるよう、正しい知識を教えてもらいたいと思います。
西尾 日本医師会として、学校医は今後どのような取り組みをすべきだと考えていますか。
渡辺 健康に関する国民の知識と意識の向上は国の将来を左右する重要な課題と考えており、学校医には健康診断だけではなく、子どもの健康管理や健康教育にも携わってもらいたいと考えています。また、文部科学省、厚生労働省には、子どもたちにきちんとした教育ができるよう、教職員の健康管理という視点も持って、対応を考えてもらいたいと思います。
西尾 また、近ごろ浮き彫りになってきた新たな問題として、ヤングケアラーの存在があります。中高生の約20人に1人がヤングケアラーであるというデータもあるそうですが。
五十嵐 ある調査では、家族のケアを「1日の時間にして7時間以上」担っている子どもが1割程度いると指摘されています。自分が本来やるべきこと、やりたいことができず、子どもとして当然の権利が守られていない状況といえるでしょう。大切なのは、そうした子どもたちの存在に周囲が気付くことです。学校の先生方であれば、家庭訪問などの際に問題を発見できることもあるのではないかと思います。
「こども家庭庁」創設は初めの一歩
西尾 子どもたちを取り巻く厳しい状況に対して、国として進めている取り組みを教えてください。
自見 講演でもお話ししましたが、医療だけでなく教育、保健、療育、福祉を一元化する横串としての「成育基本法」の基本方針が2021年に閣議決定されました。ご支援いただいた医療関係者のみなさま、異例ともいえる迅速な議論を進めてくださった与野党議員のみなさまには心から感謝申し上げます。
子どもたち一人ひとりがすくすく、のびのび、たくましく育つ社会、保護者も共に支えていく社会を実現するための行政組織として、創設に向けた準備が進むのが「こども家庭庁」です。ただしこれも初めの一歩に過ぎません。ここからの長い道のりを着実に歩んでいかなければならないと考えています。
渡辺 妊娠期から始まる子どもの成長過程における切れ目のない支援は、国家的な課題です。日本医師会としても、成育基本法の有意義かつ効果的な運用のために実効性のある政策提言を行っていきたいと思います。
五十嵐 現在、乳幼児健診は厚生労働省、学校健診は文部科学省の管轄であり、その二つの連携は取られていません。しかし今後は、胎児期から少なくとも高校卒業ぐらいまでは、子どもたちの健康を一貫して把握することが望ましいといえます。身体の疾病治療だけでなく、心理的・社会的な面からも子どもたちを支えられる体制が重要で、「こども家庭庁」がその司令塔となってくださることを期待しています。
西尾 本日は幅広いテーマについてお話しいただきましたが、私自身も親として、こうした課題一つひとつを丁寧に確認していくことが大事なのだと感じました。最後に一言ずつお願いします。
五十嵐 私たち医師は子どもたちが身体、精神、社会的にも元気でいることを願っており、子どもたちが成人になるまで寄り添いたいと考えています。何かありましたら、遠慮なくかかりつけ医に相談して欲しいと思います。
弘瀬 戦争や自然災害の報道に連日接し、命の大切さを感じない日はありません。学校医として、子どもたちが健康で実りある生涯を送れるよう、学校での健康教育に今後も関わっていきたいと思います。
自見 介護保険法の施行以来、日本の社会は介護を家庭だけに押し付けず、みんなで支える社会へと変わってきました。しかし子育てについては、まだ負担の多くを家庭が担っています。こども家庭庁では、行政のアプローチそのものを従来とは変え、制度のはざまに誰ひとり取り残されることがないよう、そしてすべての子どもと家族に寄り添うことができるよう、真剣に取り組んでいきたいと考えています。
渡辺 いじめや虐待、自殺、ヤングケアラーといった心理的・社会的課題に対しては、学校と家庭のどちらで対処すべきか線引きが難しく、誰が福祉との連携の主体となるのかも明確ではないのが現状です。しかし目の前に困っている子どもがいる限り、放置することはできません。今後は子育て世代包括支援センターや要保護児童対策地域協議会など様々な場で、医師が子どもたちの問題に関与していくことが重要です。