日本医師会シンポジウム【採録】知ってほしい!新型たばこの危険性 日本医師会シンポジウム【採録】知ってほしい!新型たばこの危険性

講演 動画

講演 1 

新型たばこ問題
イントロダクション

写真:田淵 貴大 先生

田淵 貴大 大阪国際がんセンター がん対策センター 疫学統計部 部長補佐
たぶち・たかひろ/岡山大学医学部医学科卒業、大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。 岡山大学病院等にて血液内科臨床医として勤務し、2011年より大阪国際がんセンター着任。 専門は公衆衛生学・疫学。日本公衆衛生学会たばこ対策委員会委員長。

誤解されている加熱式たばこのリスク

紙巻きたばことは異なる特徴を持ち、様々な種類がある「新型たばこ」。その中でも、我が国では「加熱式たばこ」が普及しており、2015年の使用率は0.2%程度だったのが、19年以降は10%超にまで伸びています。

加熱式たばことは、葉たばこ入りのスティックをデバイスで加熱し、たばこ成分を含むエアロゾル(気体中に漂う微粒子)を発生させて吸う製品です。よく混同されている「電子たばこ」は、エアロゾルを吸う点は同じですが、スティックではなくリキッド(液体)を加熱するという仕組みの違いがあります。海外では、このリキッドにニコチンが含まれているのが一般的ですが、日本ではニコチン入りの電子たばこは禁止されています。ニコチンなしの電子たばこは、日本ではたばこ事業法が定める「たばこ」製品には該当しないものとして扱われ、加熱式たばこは「たばこ」として扱われます。

加熱式たばこの健康リスクは、正しく理解されているとは言いがたい状況です。例えば、火を使わないため副流煙が少なく、「受動喫煙は起きない」と思われているかも知れませんが、大きな誤解です。また、製品には「紙巻きたばこに比べて有害物質を大幅低減」といったたばこ会社の宣伝文が書かれていますが、有害物質が大幅低減したとしても「健康リスクを大幅低減」するわけではありません。加熱式たばこ喫煙時の血中ニコチン濃度は、紙巻きたばこ喫煙時に比べて大きくは変わらないことを示す研究データもあり、ニコチン依存に陥る危険性は依然としてあります。

田淵先生

「なぜそれを吸うの?」 対話から正しい情報を

紙巻きたばこが数多くの病気のリスクを高めることはよく知られていますが、私は、加熱式たばこが喫煙者に及ぼす健康被害も、紙巻きたばこの場合とは大差はないと考えています。これについては、アメリカのFDA(食品医薬品局)の諮問委員会も同様の見解を示しています。

紙巻きたばこから加熱式たばこに替えても、関連疾患のリスクを減らせるという保証はありません。「たばこ関連の健康リスクを軽減させる一番の方法は、紙巻きたばこも加熱式たばこも両方やめること」。皮肉なことに、加熱式たばこのパンフレット等にはこう書かれています。

新型たばこの使用者は、「害が少ないと思って」「煙で人に迷惑をかけたくない」と、良かれと思って吸っている人が少なくありません。禁煙を促すときは、まず「なぜそれを吸うのか」を尋ねてみてください。対話を通して新型たばこの正しい情報を知ってもらうことが、禁煙への一歩になります。非喫煙者の方もぜひ、身近な人の禁煙を「自分ごと」と考え、支援していただきたいと思います。

講演 2 

新型たばこの
健康影響

写真:田那村 雅子 先生

田那村 雅子 田那村内科小児科医院 副院長/日本禁煙学会認定 禁煙専門指導者
たなむら・まさこ/東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。研修医時代には、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が行うキャンプ・サダコに参加。 2000年より田那村内科小児科医院に勤務し、これまでに1000人以上の禁煙治療を実施。千葉市医師会禁煙推進委員会委員長。

重い肺炎の症例も 子どもの発育にも影響

新型たばこには、「有害物質を大幅低減」などと記載しているものもありますが、例えばリポイド肺炎を引き起こすグリセロールやプロピレングリコールといった成分が、紙巻きたばこの数倍から数百倍も含まれるものもあります。 これらは食品添加物としても使われる成分ですが、大量に吸引した場合の肺への影響は明らかになっていません。

新型たばこが人体に及ぼす悪影響の全容は、これから数十年もかけて観察し、研究していく必要があります。しかし、既に現時点でも、健康被害の症例が国内外で報告されています。例えばアメリカでは、蒸気を吸い込むタイプの電子たばこを吸った喫煙者が急性肺障害を発症し、多数の入院・死亡例が相次いで確認されました。日本でも、加熱式たばこの喫煙によって急性好酸球性肺炎という重い肺炎を発症した事例が出ています。

妊娠中の女性も、加熱式たばこの喫煙には十分に注意してください。母体にとっては、妊娠高血圧症候群の発症リスクが高まりますし、赤ちゃんにとっても、低出生体重やアトピー性皮膚炎・ぜんそくなどのアレルギー疾患のリスクが約2倍に増えるという報告がされています。

田那村先生

禁煙外来を活用して、ニコチン依存から解放を

禁煙外来に来る患者さんの中には、紙巻きたばこから加熱式たばこに替えて「禁煙したつもり」になっている方や、加熱式たばこなら受動喫煙の問題はないだろうと、子どもの側で喫煙する方がいるのも気がかりです。臨床医として、新型たばこの危険性について誤解している喫煙者が多いことは、深刻な問題だと捉えています。

また、消費者庁の調査によると、子どもの誤飲のリスクは紙巻きたばこより加熱式たばこの方が高いそうです。最近は、専用のたばこスティック内に金属片が入っている製品もあるため、くれぐれも注意していただきたいと思います。

たばこに含まれるニコチンは、脳の中で強い快感をもたらす「ドーパミン」という物質を大量に放出させます。しかし脳がその状態に慣れてくると、かえってニコチンがないとイライラする、落ち着かないという禁断症状が出るようになり、喫煙者は絶えず吸い続けていないとストレスが高まったように感じます。この状態は、「ニコチン依存症」という病気です。

たばこの害について理解をしていても、なお吸いたくなるのは、「ニコチン依存症」だからです。ご自分の、そして大切な方々の命を守るために、新型たばこに替えるのではなく、禁煙することを選んでいただきたいと思います。必要であれば禁煙外来を活用し、ニコチン依存から解放されることを願っています。

講演 3 

新型たばこの
規制の現状
世界の動向・日本の課題

写真:望月 友美子 先生

望月 友美子 新町クリニック 健康管理センター 産業保健統括部長
もちづき・ゆみこ/東京大学薬学部、慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。 国立がん研究センター、世界保健機関(WHO)、日本対がん協会等を経て、2020年より新町クリニックに勤務。日本禁煙学会理事、東京都医師会タバコ対策委員会アドバイザー。

加熱式たばこに“優しい”法律の問題点

日本では、たばこの製造・流通等は「たばこ事業法」に基づいて、規制が行われています。ただし、本法の目的は「我が国たばこ産業の健全な発展による財政確保と国民経済の健全な発展」であり、国民の健康については不問です。「たばこ」製品の定義においても、原料に葉たばこを使うことだけが定められ、その含有量や製造法も、使ってはいけない添加物も特に定められていません。

国民の健康を守る観点からは、受動喫煙防止を義務付ける「健康増進法」があります。しかし、2020年4月から施行された改正健康増進法では、屋内は「原則禁煙」と定められたものの、加熱式たばこ専用の喫煙室内では飲食可とするなど、実態としては加熱式たばこの規制にはなっていません。

そもそもこの法律が防ぐのは「望まない」受動喫煙という建て付けが疑問です。果たして「望む」受動喫煙などはあるのでしょうか。日本が批准している、WHOの「たばこ規制枠組条約」第8条の実施ガイドラインが求めるのは「全ての人を受動喫煙から守る」こと。本来なら、喫煙者も含め例外なくあらゆる人をそのリスクから守らなければならないはずです。

望月先生

日本のたばこ規制も「新型」へと刷新を

アメリカでは、2010年に「たばこ煙への暴露にリスクフリーレベルはない(どんな少量でもリスクがある)」「特定の毒性物質の排出を減らしても主要な健康障害を低減させる証拠は不十分」だという政府報告書が出されています。

また、EU(欧州連合)では、2021年発表の「欧州がん撲滅計画」が掲げた「2040年までにたばこ使用人口を5%以下に」という目標に向けて、加熱式たばこへのフレーバー(香料)使用の禁止が提案されました。若年層の新型たばこへの依存性を強めないための取り組みが始まっています。

今この瞬間も、たばこが原因で亡くなる方がいるのです。次世代の人々を新型たばこの害から守るためにも、規制の整備に迅速に取り組む必要があります。新型たばこが時代とともに変化している中、たばこ規制も「新型」へと刷新していかなければなりません。