パネルディスカッション 動画
新型たばこのリスクと
これからの課題

新型たばこをめぐる様々な誤解
西尾 新型たばこを取り巻く様々な誤解についてお伺いします。まず、新型たばこの中で、「加熱式たばこ」と「電子たばこ」はどう違うのでしょうか。
西尾 由佳理 フリーアナウンサー(司会進行)
田淵 混同されがちですが、「加熱式たばこ」と「電子たばこ」は別のものです。「加熱式たばこ」は、葉たばこを加熱することで蒸気を発生させるもので、ニコチンが入っています。対して、「電子たばこ」は、リキッド(液体)を加熱することで蒸気を発生させるものであり、日本で販売されている製品にはニコチンが入っていません。それゆえに依存症になりにくいので、電子たばこはそれほど普及していません。ちなみに、世界の多くの国で流行している電子たばこは、ニコチン入りのリキッドを使った電子たばこです。
西尾 加熱式たばこと電子たばこは、どちらも有害であることは間違いないのでしょうか。
田淵 はい。全ての製品において有害性物質を含んでいることは明らかで、健康を害すると考えられます。中には一部の有害成分がかなり少ない製品もありますが、だからといって人体への影響も少ないと判断すべきではありません。
田那村 街中で子どもを抱きながら加熱式たばこを吸っている方を見かけることがありますが、子どもの顔にかかっているその息に発がん性物質が入っていると思うとハラハラします。医療従事者として、新型たばこの知識をもっと広めていかなければと思います。
西尾 紙巻きたばこから新型たばこに切り替えた、という方もいると思いますが、それは「禁煙」とは違うのですか。
田淵 それは禁煙とはいえません。禁煙とは、「新型たばこを含む全てのたばこをやめ続けること」です。新型たばこの喫煙者の中には、「自分は良いたばこを吸っている」と感じる人もいるようですが、残念ながらそれは誤解です。ぜひ正しい知識を得て本当の禁煙をしてほしいですし、そのために我々も全力でサポートしたいと思います。
望月
私は現クリニックに入職した際に、それまでの禁煙外来を強化しました。私の場合、特別な技術を用いるわけではなく、禁煙というのは、“登山”のようなものだと患者さんにお話ししてイメージを共有します。医師や看護師は山岳ガイドのように付き添い見守る、処方する貼り薬は登山を助けてくれるストックのようなものだと。そして、「3カ月後には間違いなく禁煙という山の頂上に立てますよ」と励ますところから始めます。
一番大事なのは、「禁煙できる」というビジョンを共有し信頼関係を作ることだと思います。患者さんには自身の禁煙の動機やストーリーを常に確認してもらいながら、無駄な支出が減ったなどのポジティブな体験に気づいてもらうこと。このようにして私どもの禁煙外来では、約95%の方が禁煙に成功しています。
「世界最低レベル」脱却のために
西尾 日本医師会では、どのような禁煙対策に取り組んできたのか教えてください。
黒瀨 日本医師会では、20年以上前から禁煙推進に積極的に取り組んでいます。最近では2017年に、日本歯科医師会、日本薬剤師会、日本看護協会とともに、受動喫煙の防止対策を強化・実現するための署名活動を実施しました。これは、東京オリンピック・パラリンピックに向け、たばこ対策に抜本的に取り組む必要性があったこと、また、「世界最低レベル」とWHOに指摘された日本の受動喫煙の状況を脱しなければという危機感から実施したものです。264万人を超す署名を集め、同年8月には、4師会長で、署名とともに要望書「例外規定のない受動喫煙防止対策の強化・実現について」を加藤勝信厚労大臣(当時)に提出しました。
黒瀨 巌 日本医師会 常任理事
くろせ・いわお/慶應義塾大学医学部卒業、慶應義塾大学大学院医学研究科修了。日本臨床内科医会認定医、日本人間ドック学会認定医、日本医師会認定産業医。医療法人社団慶洋会理事長。 2022年より現職。日本医師会執行部では、公衆衛生・禁煙対策・がん対策などを担当。
西尾 国民に向けた啓発活動にも熱心に取り組んでいますね。
黒瀨 ポスターやテレビ番組、市民公開フォーラムなど、様々なかたちで禁煙をテーマに取り上げてきました。特に、2017年に制作した小冊子『あなたのため、そばにいる人のため 禁煙は愛』は、企業での健康教育、かかりつけ医による禁煙治療の補助など、多くの場面で活用いただいています。こまめに改訂を重ねており、最新版では新型たばこの健康リスクについても取り上げています。
その他にも中高生向けに、日本医師会公式キャラクター・日医君が解説する動画「新型たばこも吸っちゃダメ!」を日本医師会の公式YouTubeチャンネルで配信し、好評の声をいただいています。
子どもへの影響は深刻 教育にも重点を
西尾 新型たばこについて、特に子どもの受動喫煙の影響を教えてください。
田那村 新型たばこの受動喫煙の影響については、現時点では分かっていない点も多いのですが、少なくとも紙巻きたばこの受動喫煙については、乳幼児突然死症候群の一因となることが明らかとなっています。他にも、受動喫煙によって子どもが肺炎や気管支炎、中耳炎になりやすくなったり、ぜんそくの発作が重くなったりすることが分かっています。また、子どもが将来がんになる確率も上がります。私は、新型たばこの場合でも、紙巻きたばこと同様の受動喫煙による害があるのではと危惧しています。
誤飲も深刻な問題です。特に加熱式たばこの場合は、家のゴミ箱に捨てた吸い殻を子どもが拾って飲んでしまったという報告もあります。さらに、妊産婦が加熱式たばこを吸うことによる胎児や子どもへの悪影響については、田淵先生の研究グループが次々と研究結果を発表しています。妊産婦やこれから妊娠を考えている人にはこうした情報も知ってもらう必要があると感じます。
西尾 喫煙については、子ども向けの教育も重要ですよね。
田那村 小学・中学・高等学校の学習指導要領には喫煙防止教育が入っており、私も十数年にわたって、学校を訪ねて指導を続けてきました。中高生の喫煙率は、ここ15年ほどで約10分の1に減りましたが、それでも吸ってしまう生徒はいます。 停学処分などの「罰」を与えるのではなく、学校にはニコチン依存の「治療」を促す対応をとってほしいと思います。もちろん、教師や保護者が率先して喫煙を避けることが大前提です。
黒瀨 禁煙教育には学校医の役割も大きいと思いますので、日本医師会として学校医に協力を求めていきたいと思います。
西尾 望月先生は日本対がん協会に在籍されていた頃、子ども向けのがん予防教育プログラム「タバコフリー・キッズ」を開発されたと伺いました。
望月 これは、社会の一員である子ども自身が課題設定し、体感し発見し考えることを目指したプログラムです。導入部分では、植物やミミズを使った実験を通してニコチンやたばこが人体に与える影響を推測してもらいます。そして、街に出た子どもたちがタブレット端末を駆使して、喫煙者にインタビューしたり、禁煙外来の先生からレクチャーを受けたり、地域の飲食店へ調査に行ったりと、様々な学びを体験し、みんなの前で発表します。東京で構想されたこのプログラムは、神奈川、北海道、愛媛、岡山、熊本など全国各地で実施されました。親御さんに「たばこをやめてほしい」とメッセージビデオで訴えたお子さんもいました。子どもたちは未来を変える力を持っていると感じています。
日本の対策 海外との違いは
西尾 たばこの規制などの面について、海外と比較すると日本の状況はいかがですか。
望月 たばこ対策の先進国に比べて、日本の現状は“30年遅れ”といわれることがあります。これを変えていくためには、まず私たち医療従事者が先頭に立ち、積極的に規制強化等の働きかけを行い、法整備を含めた社会構造を変えていくことが必要だと考えています。
また、研究者にはその成果を明らかにする使命がありますし、それを伝えるメディアの力も重要だと思います。いまは、たばこのリスクをどれだけ伝えようとしても、たばこ産業がそれを上回る情報量でたばこに寛容な社会通念を醸成している状況ですから、それを変えなくてはなりません。日本ではいま年間約20万人もが、たばこを原因とする疾患で亡くなっています。まさに待ったなしの状況であり、迅速な対応が求められています。
田那村 たばこのパッケージにも、日本の“遅れ”を感じます。ちなみに、カンボジアで売られているたばこには人工呼吸器をつけた瀕死の赤ちゃんの写真が、ネパールのたばこには肺がんの写真が、ミャンマーのたばこは口腔(こうくう)がんに侵された顔の写真がついています。パッケージがグロテスクだからと、オーストラリアでは店頭にはたばこを出していないとも聞きました。
望月 日本のような注意書きの文言だけのパッケージに比べると、はるかに直截(ちょくせつ)的ですよね。日本で写真の掲載が財務省の審議会で議論された際は「喫煙者にショックを与えるから」と採用されませんでした。
田淵 受動喫煙についても課題があります。いま日本では原則屋内禁煙のルールとなりましたが、例外が認められており、全ての人が受動喫煙から守られているわけではありません。オーストラリアなどのたばこ対策先進国は、屋内全面禁煙を達成しています。オーストラリアで、バーがまだ禁煙でなかった時には「バーの従業員は受動喫煙から守られない。それは公平なのか?」と議論されました。 その過程からは学ぶべきところがあり、日本国内でもしっかりとした議論をしていくべきだと思います。
黒瀨 日本医師会では、これまで厚労省に要望を出したり規制強化に向けて提言を行ったりしてきました。今後はより幅広い省庁へ働きかけるとともに、法律上の規制強化だけでなく、禁煙・受動喫煙防止について具体的な目標を定めることや、国民との議論をより深めていくことも大切だと感じました。
「禁煙は愛」 前向きに行動を
西尾 今後の取り組みについての抱負や、読者へのメッセージをお聞かせください。
田那村 千葉市医師会に所属する医師として、東京オリンピック・パラリンピックを機に取り組んだ活動が実を結び、千葉市では、国の改正健康増進法をより強化した受動喫煙防止の条例が制定されています。地域に密着した医療と禁煙推進活動を担っている地域医師会の草の根の活動を広げていけば、日本の禁煙に向けた活動はよりパワーアップできると思っています。
田淵 東京都では2人以上の人が利用する施設は屋内禁煙になる条例ができています。大阪府でも、大阪・関西万博の開催にあわせて、国の法律よりも厳しい受動喫煙防止条例が2025年から施行される予定です。まだ上乗せ条例ができていない自治体では、ぜひより厳格な――すなわち禁煙しやすくなる環境整備につながる――受動喫煙防止の対策をとってほしいと期待しています。
望月 非喫煙者も含めた一般の方には、たばこの問題にもっと関心を持ってほしいです。健康問題としてだけでなく、環境問題、人権問題など、たばこを取り巻く問題にはいくつもの視座があります。「私たちの課題である」という当事者意識を持って、ぜひ一緒に考えていただければと思います。
黒瀨 今日のシンポジウムを通して、先生方からも有意義なご提案をいただき、日本医師会としてより強力に禁煙を推進していかなければと改めて感じました。科学的なエビデンスに基づいた実効性のある禁煙活動・施策に向けて、関係団体の先生方との連携を密にしながら、今後もしっかりと取り組んでまいります。
田那村 長年やっている禁煙外来では、体調が悪くなってから禁煙したものの、病気が進行して亡くなってしまうという方を何人も見てきました。日本医師会発行の冊子タイトルにもなっている「禁煙は愛」という言葉の通り、人のため、自分のために禁煙しようと思うことは愛情だし、家族や友人に禁煙してと伝えることも愛情です。喫煙者の方は、もし誰かから「禁煙してほしい」と言われたら、それは責められているのではなく、愛されているのだと受け止めて、前向きに取り組んでいただきたいと思います。
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