動 画 講 演

福和 伸夫
名古屋大学名誉教授/
あいちなごや強靭化共創センター長
ふくわ・のぶお/名古屋大学大学院工学研究科建築学専攻博士課程前期課程修了。清水建設を経て、1991年名古屋大学工学部助教授。名古屋大学大学院環境学研究科教授、名古屋大学減災連携研究センター長などを歴任。
今を知るため大切にしたい災害と向き合う歴史観
1923年の関東大震災以降、日本周辺で起きたマグニチュード7.9以上の地震は11回。平均すると、日本では10年に1回、巨大地震が起こっています。しかし私たちは、災害と向き合う歴史観をあまりもっていないのかもしれません。これまでにも災害が歴史を動かし、社会を変えたことも少なくなく、ぜひ振り返って参考にしてほしいと思います。
関東大震災に目を向けると、東京都での被害が甚大でした。この一因には軟弱な地盤に木造家屋を密集させた町づくりがあげられます。現在の東京都は、密集した建物に加えて高層ビルが建ち並び、17万台余りのエレベーターが稼働しています。もしここに大きな地震が起きたら、本当に救えるのか。考えておきたいものです。
また平成の30年間には、兵庫県、鳥取県、熊本県の3県でマグニチュード7.3の地震が起きています。兵庫県と鳥取県の人口比は10倍ですが、建物の被害を見ると200倍です。兵庫県のような都市部には大きな建物が多いので、多くの人が同時に被災し、死者数が増えてしまいました。阪神・淡路大震災では古い木造家屋の被害が注目されましたが、実は鉄筋コンクリートの建物の被害も少なくありません。建物の新旧にかかわらず、階数が増えるほど被害が増えた点も見過ごすことはできません。
阪神・淡路大震災の反省から、耐震改修促進法に基づいて公共施設を中心に耐震化は進んでいます。しかし、特に民間ビルが建ち並ぶ都心部にはまだまだ課題が残っていることを心して、備えを進めていきましょう。

課題から目を背けず、
今こそ本気で考えるとき
東日本大震災での岩手県、宮城県、福島県の直接死と災害関連死※1の数を比較すると、福島県のみ災害関連死が直接死を上回ります。これは原発事故や津波により家を失い、町ごと避難しなければならないという人が多く、十分な医療を確保することが難しかったためだと考えられます。避難所に避難し、せっかく救われた命が失われたのです。今後起こると言われている南海トラフ地震では、1000万人ほどの人が家を失うと言われています。一度は救えた多くの命が、避難所や仮設住宅の厳しい環境で失われてしまった東日本大震災の教訓を、ここで生かさなければなりません。
また、第一次緊急輸送道路※2沿いの建物の耐震化が遅れていることも課題の一つです。もしこの沿道の建物が倒壊し道路を塞いでしまえば、自衛隊も消防も動けません。いざというときに、災害拠点病院に患者や医療に必要な様々なリソースを運ぶことができるよう対策が急がれます。
建物、医療機器、職員、情報システムが機能し、医療資材や食材がきちんと届く物流を確保するためにも、どのような町づくりをすべきなのか、総合的な視点で考え続けることが求められます。自分や歴史を振り返り、足りないものから目を背けず、災害が起こる前に備える。「温故知新」という言葉があるように、過去には学ぶことが多くあります。普段から危機を忘れず備えておきましょう。
これを「居安思危 思則有備 有備無患(安きにおいて危うきを思い、思えばすなわち備えあり、備えあれば患〈うれ〉いなし)」と言います。
※ 1 地震や津波などの災害が原因で直接亡くなるのではなく、その後の避難生活で受けた心的負担により死亡すること
※ 2 災害直後から避難・救助をはじめ物資供給等の応急活動のために、緊急車両の通行を確保すべき重要な路線で、県庁所在地、地方中心都市及び重要港湾、空港等を連絡する道路

石井 美恵子
日本災害医学会理事/国際医療福祉大学大学院教授
いしい・みえこ/医学博士(危機管理医学・医療安全学)。北里大学大学院看護学を修了。1995年米国で危機管理システムや災害医療を学び、教育や医療支援活動に従事。主な研究テーマは、避難所対策と震災関連死予防。
想定する避難生活に
見合った備えを
2018年の内閣府の調査では、「実際に自分が被災することを具体的に想像したことがありますか」という問いに対して、80%ほどの人が「地震被害を想像したことがある」と答えています。しかし、「実際に地震に備えて対策をとっていますか」という設問になると、対策をしている人は約40%に下がってしまいます。家具類の転倒防止対策などの備えも必要ですが、同時に災害が発生した時に、どこでどのような避難生活を送るのか想定した上で準備をすることも大切です。
耐震・免震構造の建物であれば在宅避難が可能ですが、高層マンションならばおそらくエレベーターが止まります。外出ができないその期間を生き延びるために、水、食料、トイレ、寒暖対策といった生存に必要なものを備えておかなければなりません。
車中泊・テント泊はセキュリティーの問題もあり、設営可能な場所の把握は必須です。また熊本地震の時には、車中泊避難者のエコノミークラス症候群の発症の多さが指摘されました。自由にトイレが使える環境ではないことから、水分の摂取を控えたためにリスクを高めてしまったことを考えると、簡易トイレなどをしっかりと準備しておきたいものです。
また、人は安心したいという心理が働き、「自分はなんとなく大丈夫」と思って避難が遅れてしまいがちです。避難所避難をする際には、まずはハザードマップを確認し、どういう状況になったら避難しなければならないのか、平時から家族と話し合っておいていただきたいと思います。

避難者の生存権を
保障できる避難所へ
東日本大震災や熊本地震では、要配慮者とされる60歳以上の方への影響が少なくありませんでした。配慮が必要なのは高齢者の他にも、身体障がい、精神障がい、知的障がいなど様々な人がいるため、ひとくくりで対策が打てるものではありません。それぞれどのような困難や課題があるのか、個別の対応計画を事前にしっかりと立てておく必要があります。
また、災害関連死も見過ごせません。熊本地震では関連死が79%に及んだと報告されました。東日本大震災では関連死のうち、3割は避難所生活による心身のストレスが遠因となって命を縮めたと考えられると指摘されています。ストレスにより血圧が上がり、結果として心筋梗塞や脳梗塞、エコノミークラス症候群を引き起こしてしまう危険性があります。避難生活のストレスをいかに減らすかが、避難所環境を整える意味で非常に重要なポイントです。しかし残念ながら、その取り組みは自治体によって大きな差があります。
私たちは避難所といえば、体育館にブルーシートを敷いて、毛布で雑魚寝というイメージがいまだに根強いです。しかし、これでは健康被害が発生するのだ、いけないのだと認識し、プライバシーや衛生環境が守られた中で避難生活ができることが大切です。それには社会全体の意識を変えていく必要があります。避難者の生存権を保障できる避難所へ――それが、喫緊の課題です。

大木 聖子
慶應義塾大学環境情報学部准教授
おおき・さとこ/北海道大学理学部地球惑星科学科卒業。東京大学大学院理学系研究科修了。博士(理学)。カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリプス海洋学研究所にて日本学術振興会海外特別研究員・東京大学地震研究所助教授を経て現職。
学校・組織の避難訓練を
形骸化させないために
避難訓練は、どのような組織でも実施するよう消防法で定められています。誰もが経験したであろう学校の避難訓練の多くは、できるだけスピーディーに校庭へ行く訓練だったのではないでしょうか。
しかし、その在り方には疑問が残ります。訓練は通常、雨天の場合は順延されます。また、けが人や体調不良者など移動ができない生徒がいたり、停電により校内放送が使えなかったり、その他余震など実際の災害時に起こる可能性のある出来事が、学校では起こらないこととして訓練されている点です。
一方で、阪神・淡路大震災を機に学校建物の耐震化は進んでおり、昨年末時点で廃校予定も含めて99.7%の学校が耐震化を完了しています。耐震性があるのであれば、机の下に入って身を守るなど、より安全を確保できる場所を知っておく訓練が必要です。決して校庭へ行く訓練が悪いのではありませんが、教室内での訓練の大切さも知っていただきたいと思います。
教室待機の訓練の場合、従来型の屋外避難訓練のように一般的な手順が決まっていません。例えば安否確認や点呼など情報共有の仕方も、校種や校舎の構造、全校生徒の規模感など各校のケースによって変わるからです。そのため年度替わりには、必ず生徒の実態に合わせて見直しが必要になります。決まった手順の確認にとどまった避難訓練では形骸化してしまいますが、最善な避難方法はいつも同じではないということを理解している学校では、「常に見直す」ということが習慣化してきます。見直しのサイクルが出来上がり、より良いものへの改善につながります。

組織のチーム力を上げる
避難訓練の在り方とは
主に首都圏にある10校ほどの学校で、教員実動訓練での発災直後のシミュレーションをしたところ、いくつかの課題が見えてきました。最も顕著に見られたのは、全体を俯瞰(ふかん)した行動の難しさです。停電時の情報共有が困難でけが人の搬送順位づけがうまくできず、保健室がパンク状態になってしまう場面も見られました。
そこで私から搬送順位を提案すると、多くの先生が情報を見極めて行動できるようになりました。この先生の変化は、避難訓練の在り方や生徒の避難訓練に対する姿勢にも変化をもたらしました。たとえば、先生が廊下で大きな声でクラスの安否状況を伝達していたら、声が通るようにと生徒たちは自然と静かにする。けが人役をやりたいという生徒がいれば、応急処置について学ぶため保健体育の授業を受ける姿勢が変わるといった具合に、生徒たちは訓練を通して学習意欲を向上させ、仲間を思う気持ちが強くなりました。
変えたのは避難訓練の設定のみです。余震や停電が起こると仮定し、教室待機にしたことで、「教職員が児童生徒を管理する」訓練から、「一人一人が今すべきことは何かを考え行動する」訓練になったのは大きな変化です。こうした変化が、教職員と生徒たちが協力して命を守り抜く学校にしていきます。
防災を目的化すると、とてもつらいものになります。しかし、良いサイクルで訓練を継続できている学校では、面倒な防災対策にそれ以上の価値を見出したり、より良い日常のための手段になっていたりします。「防災の教育」をするのではなく、「防災を通した教育」をするという視点で取り組んでいただきたいと思います。
指定発言 医師会の取り組みについて
東日本大震災の際に日本医師会は「JMAT」を結成・派遣しました。被災者の命および健康を守り、被災地の公衆衛生の回復や、地域医療の再生支援を目的にしています。JMATは当初、被災地の外からの支援という考え方でしたが、現在は、被災地の医師会による活動(被災地JMAT)と、被災地にJMAT(支援JMAT)を派遣する全国の医師会との協働による医療救護活動を行うコンセプトになっています。その中では、無事につながれた命がある一方、亡くなる方もいます。私は医学的な視点から死亡原因を調べる「検視・検案」に携わっていますが、災害現場の光景を思い出すたびに、防災・減災の取り組みを進め、災害で亡くなる方を減らしたいと切に思います。
日本医師会 常任理事
