トークセッション 社会保障の重要性――みんなで支える、みんなの未来
登壇者:
日本赤十字社社長 清家 篤さん
早稲田大学人間科学学術院教授
松原 由美さん
松原 由美さん
認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長
山口 育子さん
山口 育子さん
ファッションモデル・タレント
ラブリさん
ラブリさん
司会 :
日本医師会 常任理事 黒瀨 巌
社会保障は誰のためにあるのか?

- 黒瀨
- 最初のテーマは、「社会保障は誰のためにあるのか」です。社会保障は「国民のための、国民による仕組み」です。ラブリさんは、今日の講演を聞いて、どうお感じになりましたか?
- ラブリ
- とても安心しました。若者世代の多くは社会保障制度が分かりづらいと感じていて、SNSなどで断片的な情報を得ても制度を利用しきれていない状況だと思います。社会保障は“当たり前にあるもの”だと思っていても、自分のためにあるという実感を持つことは難しい。今日のようなお話は不安の解消につながると感じました。
- 清家
- 日本の社会保障制度の強みは、カバー範囲の広さです。人生の様々なリスクに対して社会保険で対応でき、収入に関わらず全ての人が被保険者になれる。そして、保険証があればどこの医療機関でも受診できる「国民皆保険」と「フリーアクセス」は、国際的にも驚かれるような優れた仕組みです。
一方で、課題と言えるのが被用者保険の適用範囲の狭さ、企業規模によって加入できる保険が制限される不公平さです。規模要件の撤廃など、改革の余地はまだまだあると思います。 - 黒瀨
- そうですね。清家さんのおっしゃる「健康格差」の問題は、私も重要だと感じています。我々医療者としては、住む場所や働く環境によって、医療の質が変わることのないよう、常に努力を重ねています。どこにいても同じ医療を受けられる社会を目指していきたいと思っています。
- 松原
- 社会保障を支えるためには、財源の問題から逃げないことも大切です。国民や企業に負担をお願いする以上、医療や介護サービスを提供する側も情報をしっかり公開し、対話を続ける責任があります。また、公的な制度だけに頼るのではなく、地域社会で支え合うことも必要でしょう。「社会保障の充実」と「コミュニティーの充実」、これを両輪で回していくことが重要だと考えています。
- 山口
- 社会保障は人生の始まりから終わりまで伴うものですが、自分の身に災難などが降りかからない限り実感が湧きません。「わがこと」として捉えにくいのが実情です。財源問題は避けられませんが、どこに財源があるのか、国任せではなく、国民も一緒に考える必要があるでしょう。
- ラブリ
- 私も妊娠・出産・子育てを通じて、日本の社会保障制度のありがたさを実感しています。ただ、制度があっても知らなければ使えない点が課題だと思います。私自身も、区役所を訪れて初めて知る制度がたくさんありました。もっと自然に情報が届く仕組みが必要だと思いますね。
- 黒瀨
- 情報へのアクセスという意味では、「かかりつけ医」を持つことが非常に重要です。身近に相談できる医師がいることで、社会保障を上手に活用できるようになると思います。
自助・共助・公助のバランスが重要

- 山口
- 日本の社会保障の中でも特に優れた仕組みとして、高額療養費制度があります。これを利用すれば、高額な医療を受けても所得に応じた上限額までしか請求されません。他国では考えられない制度です。しかし、マイナ保険証の導入などによって、自分がどれだけ医療費を使っているか分かりにくくなっている状況に少し不安を感じます。費用が増大してこの制度がもたなくなった場合、突然ハシゴを外された多くの人が路頭に迷うはずです。
- 松原
- 実は私の友人も、がん治療を続けるために高額療養費制度に支えられています。大切なのは、「支え、支えられる関係」を認識することです。社会保障制度を維持するための負担の在り方について、社会全体で向き合う必要がありますね。
- 黒瀨
- 社会保障制度は、自助・共助・公助のバランスが大切だと思います。清家さんのご意見をお聞かせください。
- 清家
- もともと人間社会は、家族で支え合う「自助」から始まりました。産業化に伴う核家族化が進み、自助が期待できなくなると、保険でリスクに備える「共助」の制度ができあがります。そして、自助の社会化である共助の仕組みを持続させるために、その一部を「公助」で賄うようになった——それが現在の社会保障の基本設計だと考えています。やはり、共に支え合う「共助」が中心にあり、それを「公助」「自助」で支えていくというバランスですね。
若者の負担が重いという議論もありますが、社会保険はライフステージの各段階で起こり得るリスクに備える仕組みで、長い人生全体で機能するものです。そこは長期的な視点で考えてほしい。一方で、給付面では、特に子育て支援など若者向けサービスの拡充が重要だと思います。 - ラブリ
- 若者世代から見ると、「共助」という仕組みがとても見えにくいんです。SNSでつながっていても、実際に支え合っている実感は薄い。病気やけがをして初めて、社会保障という助け合いの中で生きていることに気づきます。若者にとって身近なSNSなどのツールを活用して、社会保障を分かりやすく伝える仕組みが必要だと思います。
「未来への視点」を持って社会保障を考える

- 黒瀨
- 最後に、皆さんから社会保障の未来への提言をお願いします。
- 清家
- 社会保障は支え合いの仕組みです。「自分が助けてもらうため」だけでなく、「困っている人を助けたい」という利他的な気持ちも大切にしてほしいと思います。
- 松原
- 二項対立の議論で、「若者」と「高齢者」や、「病人」と「健康な人」の分断をあおるのではなく、「お互いさま」で支え合う日本社会の文化を大切にして、長期的視点で社会保障を考えていきたいと思います。
- 山口
- 健康教育を進めることで、住民の健康が改善し、医療費も減ったという話もあります。SNSを活用した情報発信や健康教育の普及は、これからの社会保障でも重要になるでしょう。
- ラブリ
- 社会保障に必要なのは、世代のつながりと未来への視点です。まずは現役世代が「社会保障に支えられている」という実感を持てるようにすることが重要ではないでしょうか。
せいけ・あつし/日本赤十字社社長、慶應義塾学事顧問、慶應義塾大学名誉教授。博士(商学)。慶應義塾大学経済学部卒業後、同商学部教授を経て、2009~17年に慶應義塾長、18〜22年に日本私立学校振興・共済事業団理事長を務める。
まつばら・ゆみ/早稲田大学人間科学学術院教授。博士(福祉経営)。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了。明治安田生活福祉研究所研究部長、医療経済研究機構主任研究員、東京大学大学院医学研究科公共健康医学非常勤講師などを経て、現職。
やまぐち・いくこ/認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長。1992年よりCOMLに参画。社会保障審議会医療部会(2025年8月任期終了)をはじめ数多くの厚生労働省審議会・検討会の委員を務める。
らぶり/ファッションモデル・タレント。1989年、愛媛県生まれ。2012年12月~15年11月、ファッション誌『JJ』の専属モデルを務める。19年11月に結婚し、現在は子育てをしながらテレビ、雑誌などで活躍中。