齋藤薫の美しい歳の重ね方
エレベーターを出る時、開けてくれている人に、お礼ができるか否かの小さな大問題。
おそらくこれは、マナー本には載っていない。そのくらい当たり前の常識であることに加え、ひょっとすると日々1番多く遭遇するかもしれない場面……エレベーターで、一緒に乗り合わせた人が、自分が降りて行くまでドアを開けておいてくれた時、ちゃんとお礼ができるかどうか?こんなふうに言葉にすると、あまりに稚拙(ちせつ)、小学生でもできていそうな、マナー以前の行為である。でもそこには由々しき現実があり、自然に開いているのだとでも思っているのか、会釈もせずに堂々と出ていってしまう人が少なくないこと、みんな気づいているはずなのだ。誰かが開けておかなければ降りる前に閉まってしまう、当然のことながら操作パネルの1番近いところにいる人が「開く」のボタンを押し続けてくれるのは、いわば暗黙の了解で、だからこれ幸いと、我先に出て行ってしまう人もいるくらい。ボタンを押しておくのも、逆に最低限のお礼をするのも、公共の場における基本。マナーと言うよりむしろ社会性に近いもの。社会人としての基礎がないと反射神経のように、とっさにはできない行為だからこそ、余計に問題だ。
日本の空港で、大きなエレベーターに乗った時、荷物を山ほど携えた中国からの旅行者とおぼしき家族が、同じエレベーターに乗ろうとしている私たちに「どうぞお先に」と促し、降りる時も譲り合いになって、結局荷物の少ない私たちが先に降りることになってしまう。それだけでも申し訳ないと思ったのに、ボタンを押して開けてくれているその中国人にお礼もせずにドヤドヤと先に出ていく日本人がたくさんいたこと、何だか恥ずかしく思った。中国人のマナーについて何かを言う資格はないと。
海外のエレベーターではお互い“怪しいものでないこと”を確認するように、軽く挨拶したり、にっこり笑ったりするのが1つの慣習だったりするけれど、グローバルな視点で見ると日本のエレベーターの中はいかにも殺伐としている。こういう場面でせめて感謝の気持ちを示せないと、それだけで人は美しく見えない。とても小さな心得、でもするかしないかの差はあまりにも大きいのだ。

さいとう・かおる
女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイスト。多数の連載エッセーを持つ他、美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中。近著の『“一生美人”力』ほか著書多数。Yahoo! ニュース「個人」でコラム執筆中。
