Beauty
2018.10.13

齋藤薫の美しい歳の重ね方
仕事においても、家庭においても、相手の期待を
どれだけ超えられるか? そこに人生の分かれ道がある。

友人に聞いた、ある名旅館での出来事。内風呂のお湯が出ないことを申し出ると、すぐに新しい部屋をご用意します、という対応。でも、もともと入りたかったのは露天風呂、内風呂は使わないかもしれないし、正直、ちょっと面倒だったし、このままで構わないと返事をした。そしてさしたる不便もなくチェックアウト、するとご迷惑をおかけしたのでお金は一切いただけませんと言う。食事も豪華だったし、さすがにそういう訳にはいかないと返したが、頑(かたく)なにお金を取らなかったというのだ。こちらの予想をはるかに超える対応に驚き、名旅館の凄(すご)み、その心意気に感動したという。何か、そこまでできるかできないかは、魂レベルの差。こうしたサービス業に限らず、人を分ける決定的な分かれ道なのかもしれないと。いや、実際そこまではできないまでも、相手の予想をどれだけ超えられるか? 問題はそこなのだ。

あらゆる仕事においても同じ。相手のニーズをどれだけ超えられるか。ここまではやって欲しいと言う期待を、どれだけ超えられるか。そこが有能かどうかの分かれ道なのではないか。もちろん、まずは言われたことをきちんとやり遂げるのが仕事。それだけでも、ちゃんと信頼は得られるけれど、さらに際立った存在になるためには、相手を驚かせて、心を動かすまで予想を超えたいのだ。芸術家は、人を感動させることが仕事と言うけれど、別に芸術家でなくたって、人を感動させるような自分でありたい。そこが生きていく上で、大きな分かれ道になる気がする。職場でも、人付き合いでも、また家庭でも、人の心を揺さぶる人だけが、相手にとって掛け替えのない大きな存在になるのだから。どんな場面でも、存在が煌(きら)めいている人って、結局はそういう人。とても単純に、食卓にいつもより3品おかずが多いこと。1品ではなく、2品でもなく3品、多いこと。ほんのちょっとの情熱で、相手の予想は超えられるはずなのだ。

さいとう・かおる
女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイスト。多数の連載エッセーを持つ他、美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中。『“一生美人”力』ほか著書多数。Yahoo!ニュース「個人」でコラム執筆中。