Beauty
2019.06.11

齋藤薫の美しい歳の重ね方
あえて身の丈に合わない、背伸びの買い物をし続ける……
それも重要なアンチエイジング

日本人は、昔に比べて明らかに物質主義ではなくなった。少なくとも“ブランド至上主義”は完全に返上している。とは言え、一流ブランドのパリ本店にかつて日本人が長蛇の列を作ったことを、まだ忘れてはいけない。それは物の価値観が変わっていった過程として、ずっと記憶に留めておくべきなのだ。

つまり今、物より心、物より体験。精神的な充足を求めているのは間違いなく、それがひとつの成長であることに変わりは無い。でもだからといって、物質欲がゼロになったわけでは無いはずだ。ただやみくもにブランド物を漁ることに、喜びを感じなくなっただけで、“丁寧に物を所有すること”にはまた別の喜びを感じるようになったのかもしれない。つまり、新たに物を買わないまでも、物を大切にする気持ちは以前より増しているのではないだろうか。いや、物より心の時代になってもなお、そうあるべきだと思うのだ。人は結局、自分を取り巻く物たちによって、人としての印象を構築しているし、それらの物たちが「あなたはこういう人間だ」と絶えず暗示をかけていることも忘れてはいけない。物選びがぞんざいになってはいけないし、やっぱり自分にとって価値のない物に囲まれてはいけない。

だから、物選びにはいつも少し背伸びをする。ブランド好きの背伸びではない。見栄とは全く違う自分のための背伸び。自分の視界を今より少し高い位置に引き上げ、上質な自分を作るべく暗示をかけるとともに、背伸びをしないと見えない未来の希望のようなものを自分に見せるための背伸び。家も、今の身の丈に合った家では希望の光が生まれない。自分に少し背伸びをさせる家が自分を成長させつつ若返らせてくれるのは確か。不思議だけれど、あえて自分の身の丈に合わない少し上のものを買うと、人間それだけで何か元気が出る。エネルギーが体に満ちわたる。身の丈にあったものばかりに囲まれていると力が生まれない。だから自分が一つ引き上がる。そういう役割を持つのが“物”なのである。

さいとう・かおる
女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイスト。多数の連載エッセーを持つ他、美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中。『“一生美人”力』ほか著書多数。Yahoo!ニュース「個人」でコラム執筆中。