Beauty
2019.08.04

齋藤薫の美しい歳の重ね方
穏やかに怒れる人は、身近な人間関係で怒らない。
怒りのコントロールができる人が美しいのだ

「喜怒哀楽が激しい人」は、褒め言葉ではない。でも「喜怒哀楽の少ない人」よりはまだしも響きが良いのかもしれない。人の人生は喜怒哀楽をどれだけ感じたか、その質と量で決まるという言い方もあるくらい。厳密に言うなら「怒の質」が問題なのだ。もちろん日常的な怒りは少ない方がいい。とりわけ身近な人間関係における怒りは少ない人ほど幸せだ。しかし、もっともっと大きなものに対する怒りはある程度必要。でないと、人間なんだか内側から緩んでしまう。魅力も放てなくなる。

少なくとも、その大きなものへの怒りを皆が持っていたら、先頃の参議院選挙の投票率が50%を割り込むことなどなかっただろう。日本は一見平和すぎるからなのだろうが、香港で起きた大規模デモなどを見るにつけ、大きなものへの静かな怒り、人間にはこれが必要と改めて思わされる。香港の「逃亡犯条例」改正案に反対するデモは、一部で激化し機動隊と衝突するなど緊迫した状況も見られたが、結果として200万人もの規模となった。その時、すし詰めの人垣の中を救急車が通ろうとしたら一瞬で道が開けられたことを欧米のメディアが絶賛。自分の国なら車の上に乗ってしまう輩が出てくるだろうと。ともかく200万人が思いを1つにするエネルギーの中に、人間が持つべき正しい怒りの形を見せられた気がして、ちょっと感動させられたのだ。

正義感とか、使命感とか、平和や平等を願う心を持って“静かに怒れる人”は、逆に身近な人間関係では怒らない。怒りのバランス感覚を持った人が人として美しい証である。

最近は、体に悪い怒りと良い怒りをきちんと分けて、怒りをコントロールする“アンガーマネジメント”と言う心理療法が話題だけれど、悪い怒りは科学的に6秒で収まると言われる。ならば6秒で静まる怒りは、一気に吸ってゆっくり吐く6秒間の呼吸法などで回避して、逆にじわじわと意識の中で醸成されていく大きなものへの怒りは常に持っておく。それが命を輝かせ、いつまでも新鮮な生命力を持ち続ける1つの方法なのではないか。全く怒らない人生はむしろ味気ない。きちんと怒るべき場面で穏やかに怒れる大人になりたい。

さいとう・かおる
女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイスト。多数の連載エッセーを持つ他、美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中。『“一生美人”力』ほか著書多数。Yahoo!ニュース「個人」でコラム執筆中。