齋藤薫の美しい歳の重ね方
元の生活に戻りつつある今、一番排除したいのは、“人と自分の比較”
5月、6月、そして7月くらいまでは、今振り返るとまだしも心が安定していたのに、秋の気配を感じた頃から、何だかまた、心がザワザワしてきたという人が少なくない。もちろん夏まではコロナへの不安が誰にもあったけれど、逆に誰もが同じように自粛を求められ、同じように家に閉じこもることで、ある意味の苦悩を共有していた。
つまり、思いがけなく心の平静が得られたのも、いつもより孤独を感じなかったり、いつもより人をうらやましく思わなかったりしたからということもある。それは誰しもが同じ環境に置かれて、人と自分を比べなくて済んだからではないか。
生きていく上で、最も無駄な感情は“嫉妬”だとされるが、これは100%人との比較から生まれるもの。また生きていく上で最も邪魔なのは、自己否定感や劣等感、そして後ろ向きな心。それもまた比較から生まれることが多い。ネガティブな心の最大要因はやはり人との比較なのだ。でも逆を言うなら、単純に人と自分を比較しない心がけだけで、人生には不要なネガティブな感情の多くを排除することができ、私たちははるかに楽になるということ。
コロナ以降の自粛生活で、人と一定の距離を保たなければいけなくなり、おそらくは、だから人と自分をあまり比べなくなったのだろう。とりわけリモートワークは、少なくとも職場に行かない、対話や会議もオンラインでとなれば、その距離感が不思議に人との比較を減らしてくれる。職場のみならず、ママ友同士など、あらゆるコミュニティーで、比較の機会が減ったと思う。直接的ないさかいが減るのはもちろん、つまらない比較が生む、人間関係の副作用のような感情を排除できたのではないだろうか。
でも今、かつての社会生活が戻ってくるにつれ、心がざわつくのも、一つの要因はそれ。好むと好まざるとにかかわらず、人との距離が近くなれば、逆にまたどうでもいいことを比較してしまう。そういう可能性のせいで心乱れるのではないのか。でも一度心が平和になって気づいたはずだ。つまらない感情は自分で排除できるのだと。人との比較をやめればいいのだと。だからこれを機にもうやめよう、人との比較。比べても比べても何も答えは出ないほど、比較はもともと全く無意味。そういう確信を持ってこれから生活をしていくべきなのだ。期せずしてコロナ禍が教えてくれた心の整え方。心を整えること、ずっと続けたい。
齋藤 薫 さん

さいとう・かおる 女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイスト。多数の連載エッセーを持つ他、美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中。『“一生美人”力』ほか著書多数。Yahoo!ニュース「個人」でコラム執筆中。
