Beauty
2021.01.20

齋藤薫の美しい歳の重ね方
今一番、美しく見える人たちに贈られた、尊いギフトの意味を知ってほしい

職業によって、美しく見えたり見えなかったりはあってはならないけれど、でも時代によって、時代の価値観によって、より美しく見える職業がある。例えば「キャビンアテンダント」とか「企業の受付」という仕事に、美しい響きを感じた。

でもある時から、美しく見える職業の定義が明らかに変わった。「美しく見せる暇などない仕事につく人こそ美しい」という基準が加わったのだ。かつては、言ってみれば“誰よりきちんとメイクをしている職業”こそが美しいという印象が一般的だったが、メイクなどしていられない仕事に携わっている人が美しいという、新しい美意識が加わった。変化のきっかけとなったのは、やはり10年前の東日本大震災。未曽有の出来事に人々の価値観が百八十度変わり、逆境にあっても負けない人の強さ、他者のために汗する人の高潔さをより評価すべきという意思が多くの人に生まれ、大きな正義感の芽生えとともに、この10年しっかりと熟成してきた気がするのだ。

先ごろ化粧品メーカー大手のコーセーが、医療従事者に15万点もの化粧品を寄贈するというニュースを見つけた。誰もが何らかの形で医療従事者に感謝の気持ちを表したいと思っている中で、化粧品の寄贈は、極めて印象的だった。今このコロナ禍の状況の中で、多くの医療従事者がメイクをする時間も心のゆとりもないことは皆わかっている。それでもこの人たちが一番美しく輝いて見えることも皆よく知っていて、だからその人たちにこそ化粧品を贈りたいとするメーカーの気持ちも、何かしみじみと伝わってくるのである。化粧品はただ単に、鏡の前で肌に塗るものではない。いつかこれを塗る日が来るとお守りのように持っていることでも、人を勇気づけるもの。今まさにそのために、鏡の前に立つことすらできない人たちへのギフトであったと考えて良いのではないか。防護服の中で汗だくになった肌こそ今最も尊く美しいことを、一人一人が心に刻んでおきたい。様々な出来事を経て、本当の意味の美意識を研ぎ澄ましていくために。

齋藤 薫 さん

さいとう・かおる 女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイスト。多数の連載エッセーを持つ他、美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中。『“一生美人”力』ほか著書多数。Yahoo!ニュース「個人」でコラム執筆中。